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シャルンホルストの戦い

 ガラティア兵は橋を封鎖するように厚い盾を並べ、剣を抜いて敵の襲来に備えている。本当ならば自慢の長槍を使いたいところだが、流石にこんな狭い戦場では役に立たないだろう。


「敵軍、橋を渡ってきます!!」

「ああ。まずは、ゲルマニア軍が削ってくれる筈だ」


 イブラーヒーム内務卿は兵士達のすぐ後ろに数段の足場を作って指揮を執る。一応はガラティアでも皇帝に次ぐ権威を持つ彼らしからぬ居場所だが、体裁などを気にしている余裕はない。


 無数のアメリカ兵が甲板上に集まり、シャルンホルストが掛けた橋に殺到する。が、次の瞬間には鼓膜が破れそうな爆音が響き渡り、アメリカ兵は前から順番に死体となり、或いは海に転落していった。シャルンホルストの舷側に備え付けられている機関砲が火を噴き、アメリカ軍を粉砕したのだ。元より敵艦に肉薄した時にその甲板上の敵を撃つ為のものであり、何も考えずに姿を晒すアメリカ軍には効果覿面であった。


 が、機関砲による全力射撃でも、艦内から蛆虫のように這い出してくるアメリカ軍の勢いを殺し切ることは出来ず、彼らの最前線はゆっくり橋を進んでいく。


「あれほどの銃火を数で押し切るとは……」

「質の低さを数で補うというのは、立派な戦術だよ」

「は、はあ」

「まあつまり、敵も所詮は人の理から逃れられない連中ということだ。勝ち目は十分にある」

「敵軍、接近してきます!」


 アメリカ軍は真正面に矢を撃ちながら前進する。その攻撃は全て盾で防ぎつつ、ガラティア軍は攻撃の機を待つ。イブラーヒーム内務卿は合計4つの橋の戦況を同時に観察しながら、その機を窺う。


「ふむ……三番隊、打って出よ!」

「はっ!」


 アメリカ軍を十分に引き付けたと判断し、イブラーヒーム内務卿は盾から出て白兵戦に移行するよう命じた。敵との乱戦に持ち込めば弩による攻撃を恐れる必要はなくなる。ガラティア兵は鬨の声を上げ、一本の剣だけを頼りに無数のアメリカ軍の中に飛び込んだ。


 ガラティア兵の技術は大八洲の武士には及ばないものの、全員が訓練された職業軍人であり、アメリカ兵とは比べ物にならない。剣は彼ら本来の得物ではないが、それでも技量の差は圧倒的であった。盾から飛び出した勢いのままにアメリカ兵を叩き切り、次々と海に叩き落とす。


「続いて二番隊、四番隊も打って出よ。防衛戦だと思う必要はない。目の前に存在する敵を皆殺しにしてやるんだ!」

「「おう!!」」


 全ての橋の上で白兵戦が開始された。ガラティア兵はどちらが防衛側なのか分からなくなる勢いでアメリカ兵を蹂躙し、またシャルンホルストからも引き続き機関砲による援護が行われ、たちまち数万のアメリカ兵を殺した。


 だが、その時であった。


「敵の魔女です! 魔女が出てきました!」

「やはり来たか」


 羽虫のように湧き出たアメリカの魔女達。狭い橋を突破してシャルンホルストに侵入するのが困難だと判断する程度の頭は、アメリカ軍にもあるようだ。とは言え、イブラーヒーム内務卿は特に焦ることはなかった。


「問題はない。シャルンホルストの対空砲火が、奴らを撃ち落としてくれるだろう」

「お、おお……」


 コホルス級の魔女を確認すると、シャルンホルスト甲板上の対空機関砲、高角砲が一斉に火を噴き、飛び出したばかりでイズーナ級の上空にいる彼女らを撃ち落とし始めた。まるで虫の群れに殺虫剤を撒いたかのようであった。


 だが、アメリカ兵がそんなことに狼狽える訳もなく、ほとんどが撃ち落とされながら、彼女らは全速力でシャルンホルストに飛び込んで来た。


「敵勢、我々に突っ込んで来ます!」

「何? ……なるほど、それは賢い」


 アメリカの魔女が突撃したのはシャルンホルストではなく、最前線で戦うガラティア兵でった。自らの身など顧みず、斬り合いを続けるガラティア兵に体当たりし、無理やり数人を巻き込みながら海に落ち、戦線に穴を開けたのである。


「三番隊、敵に押されています!!」

「そんな戦術を使うとは……。合理的ではあるが、命知らず、いや命のないアメリカ軍だからこそ、だな」

「か、閣下!?」

「ああ、すまない。少し驚いてしまってね。すぐに穴を埋めるぞ。諸君、ついてこい!」

「閣下!?」


 イブラーヒーム内務卿は三番隊に向かって駆け出した。兵士達は慌てて彼に追い縋る。彼らが制止するのも聞かず、内務卿は剣を抜いて、自らアメリカ兵に斬りかかった。その斬撃は敵に止められたが、彼は微笑む。


「悪いが、お行儀よく戦うつもりはないんだ」


 内務卿は右手で鍔迫り合いをしながら、左手で腰に提げた拳銃を抜く。そして拳銃の銃口をアメリカ兵の兜の中に突き入れ、躊躇うことなく引き金を引き、脳漿を吹き飛ばすとその死体を海に投げ落とした。


「こんな小さな武器で人を殺せるとは。やはりゲルマニアの技術は素晴らしいな」

「か、閣下、お下がりください!」

「私とて一人の戦士だ。そう野暮なことは言わないで欲しいものだね。まあ、戦士らしく戦うつもりはないんだが」


 魔導剣と拳銃で優雅に敵を葬るイブラーヒーム内務卿。彼を護衛する兵士達もそれに続き、三番隊は態勢を整えることに成功したのであった。

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