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イズーナ級再び

 シュトライヒャー提督が指揮する戦艦シャルンホルストは、敵艦隊出現の報を受けると直ちに大洋に出撃した。イズーナ級の耐久力は非常に高く、水際防衛では押し切られてしまう可能性が大だからである。


 シャルンホルストは現在、クバナカン島の北方を航行中である。そんな中、偵察を敢行していたヴェステンラント艦隊から報告が入った。


「ヴェステンラント軍より報告です。敵は6隻のイズーナ級を擁しておりますが、これを3隻ずつの艦隊に分け、大きく東西に離れて航行しているとのこと。向かっている方向はどちらも南方のようです」

「シャルンホルストが1隻しかないのを見透かされている、ということか」


 ガラティア軍の守備隊を載せ遠近共に隙のなくなったシャルンホルストならば、6隻のイズーナ級を相手にすることも不可能ではない。だが、それはあくまで敵が一斉に向かってきた時の話。敵がシャルンホルストから逃げる気ならば、食い止めるのは無理だ。


「どうされますか? アトミラール・ヒッパーやプリンツ・オイゲンを動かせば、両方の艦隊を相手にすることも可能だとは思いますが」

「仮にそうしたとしても、敵は更に艦隊を細かく分けるだけだ。意味はない。敵が我々の相手をせずに逃げるつもりならば、どうしようもないんだ。少なくとも我が軍の戦艦が敵のイズーナ級と同じ数なければ、どうしようもない」

「そうですね……」


 敵の目的はあくまで地上に兵力を輸送することである。ゲルマニア海軍を撃滅することではない。そしてこれを阻止するには最低でも敵と同等の物量が必要なのである。


「閣下、どうされましょうか」

「ちょっと待ってくれ。考えよう。イブラーヒーム将軍、どう思われますかな?」


 今回シャルンホルストの護衛に当たってくれているのは、ガラティアの西方ベイレル・ベイたるイブラーヒーム内務卿である。まだ若いが、長らく大八洲とやり合っていた彼ならば、十分頼り甲斐はあるだろう。


「そうですね……まずは優先順位をはっきりさせるべきでは? 我々が最も避けねばならないことは何でしょうか」

「最も嫌なことか。それは……前回のように防衛線がイズーナ級の襲撃を受けることだな」

「はい。たったの1隻ですら塹壕が突破されかけたのですから、このような大艦隊に攻撃を受ければ、防衛線の崩壊は必至です」

「つまり、それさえ阻止すればよいと言うんだな?」

「私個人の意見ですが、その通りです。シャルンホルスト一隻だけでは、出来ることは限られています」

「それは正しいな。うむ……しかし、防衛線だけを守ると言っても、奴らが無理やり突破しようとすれば、恐らくそうされてしまうだろうな」

「具体的な方法については、私には何とも。海戦には疎いもので」

「そうだったな。専門外のことに呼び出してすまなかった」


 イブラーヒーム内務卿の仕事はアメリカ軍がシャルンホルストに侵入しようとした時にそれを撃退することである。海戦そのものは彼の仕事ではないのだ。


「……もう一度状況を整理しよう。敵は2つの艦隊に分かれ、片方は恐らく後方に援軍を輸送し、片方は塹壕への強襲を試みている。このうちの後者を、我々は殲滅しなければならない」

「閣下、敵が塹壕線の更に南に上陸してくる可能性はないのですか?」


 士官の一人が問うた。確かに、塹壕など全く関係ない海からならば、防衛線の後方、何の防備も整っていない王都を直接叩くことは合理的かもしれない。が、シュトライヒャー提督はそれはないと踏んでいる。


「内地には、ヴェステンラント軍の最後の予備選力と、アリスカンダル陛下の率いられる有力なるガラティア軍の部隊が控えている。アメリカ軍がそのことを知っていれば、高々一個軍団で上陸なんぞ仕掛けてこない。知っていないのならば、孤立したところを叩き潰すだけだ」

「なるほど……。心配の必要はなさそうですね」


 アメリカ軍に船を使う知恵があると分かった時点で、人類軍は直ちに敵の上陸に備えた。確かにイズーナ級の輸送能力は驚異的だが、これだけの大艦隊を以てしても輸送出来るのは精々2個軍団60万である。これだけが孤立しているならば、真正面からの激突において無類の強さを誇るガラティア軍の力で撃退することが可能である。


 人類軍が恐れるのは地上の侵攻経路が打通され、数百万のアメリカ軍が南進することにあるのだ。


「イブラーヒーム将軍、ガラティア帝国に頼っても大丈夫ですな?」

「無論です。我らが皇帝陛下が、アメリカ人の蛆虫に負ける訳がありません」

「それは心強い。南方が攻撃される可能性は気にしなくていいな。やはり我々の課題は、塹壕線への攻撃を水際で防ぐことにある」

「敵がまだ遠くにいるうちに殲滅するというのは、出来ないのですか?」

「どっちの艦隊がかかってくるか分からない。上陸される直前にならないとな。だから水際防衛しかないだろうな」

「も、申し訳ありません……」

「あー、いや、謝ることではない。諸君の認識を統一するのに大いに役立ったぞ」


 戦略は決定された。塹壕線を直接狙うであろう敵を水際で撃退するのである。だがその具体的な戦術については、確実と言えるものはなかった。



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