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第八戦区Ⅳ

「桐様、わたくしはここを離れる訳には参りませぬ。あちらのことはお願い出来ますか?」


 朔は晴政の側近たる自由奔放の魔女、鬼庭七石桐に問う。


「ええ、いいわ。ちょうどこの力を使ってみたかったところだし」

「兵を千ばかりお預けいたします。あの船を近づけてはなりませぬ」

「言われるまでもないわ。じゃ、行ってくるわね」


 桐は千ばかりの魔女を率い、洋上の敵艦に一直線に向かう。すぐに到達したその船は、まるで人間がいる気配がなく、まるで幽霊船のようであった。


「どうやって動いてるのかしら……。まあいい。とっとと沈めるわよ。攻撃!」

「「おう!!」」


 魔女達は火球や岩や鉄塊を次々に作り出し、魔導戦闘艦に真正面から叩き付けた。たちまち木造の船首は破壊され、火球によって燃え上がり始める。そして桐もまた、破城槌のような見た目をした鉄塊を何十と作り出し、一斉に敵艦に投げつける。鉄塊の威力は船体を貫通して海に沈む程であった。


 かくして船の前方がすっかり消滅した時のことである。


「桐様! 敵兵が!!」

「へえ、そういうこと」


 魔導戦闘艦の後部から蝿の群れのような黒い影が現れた。アメリカ軍の魔女であろう。どうやらこの船は少数精鋭の魔女を輸送していたようだ。


「ど、どんどん出てきます! 一万はいます!」

「まったく、無駄に多いわね。焼き尽くしてやるわ」

「き、桐様!?」


 桐は敵の群れの中に単騎で突っ込む。彼女はアメリカ兵の前で滞空すると、その手からまるで龍の吐息のような炎を放ち、千を超える魔女を炎の中に呑み込んだ。魔女の服と肌は燃え上がり、次から次に燃え落ちる。だが次の瞬間、彼女を狙って数十の矢が飛来した。


「ふん、いい狙いじゃない」


 桐は矢を確認すると次の瞬間刀を抜き、ほとんどの矢を回避すると同時に、回避し切れぬ矢を叩き落とした。 魔女達は彼女を脅威と判定したのか、灯篭に群がる虫のように桐を追いすがる。桐は炎を後ろに放ちながら、四方八方に逃げ回る。


「ほら、何をぼうっとしてるの!? 突撃しなさい!!」

「「おう!!」」


 敵の目が桐に集まったところで、飛鳥衆は魔女の群れの側面に突入した。ただでさえ優れた武勇を持つ大八洲の武士の中でも更に秀でた技術を持つ彼女達は、敵陣に突入すると一騎当千の勢いで魔女達を次々に斬り伏せていった。


「よーし、この調子よ。もっと敵を掻き乱しましょう」


 桐は上へ下へと逃げ回り、アメリカ軍を引っ掻き回す。アメリカ軍の陣形はたちまち崩壊し、敵味方が入り乱れる乱戦となった。こうなれば数の優位を活かすことは出来ない。戦況は大八洲勢に圧倒的に展開し、1時間ほどの戦闘でアメリカの魔女隊は文字通り全滅したのであった。


「お、終わりました……」

「ええ、よくやったわ。じゃあ後は、この船を沈めましょう」

「はっ!」


 兵士のいなくなった船に桐は集中攻撃を浴びせ、あっという間に沈めたのであった。


「しっかし、随分と数が減ったようね」

「半分は落とされました。しかし敵は十倍もいたのです。勝てただけでも十分かと」

「それもそうね。とにかく、戻りましょう」


 桐が率いる飛鳥衆は第八戦区に帰還した。その頃には地上のアメリカ軍はほとんど殺し尽くされ、残党狩りのような様相を呈していた。


「何だ、案外あっさりと終わったじゃない。私達が手を貸すまでもないわね」

「そ、そのようですね」


 かくして、第八戦区に対するアメリカ軍の攻撃は完全に失敗したのであった。


 ○


 戦闘は終息したものの、いつまたアメリカ軍が襲来するか分からない。クラウディアは戦区司令部で被害状況を纏めていた。


「さて、では情報を整理しよう。各軍の損害を教えて」

「はっ。ゲルマニア軍の損害はおよそ4万、ヴェステンラント軍の損害はおよそ3千、そして大八洲軍の損害は4千程となっております」

「大八洲が意外と削られてしまったか。これからアメリカ軍の攻撃が激化すれば、彼らも損耗し切ってしまうかもしれないね」

「はい……」

「次は、シャルンホルストはいつ到着する?」

「12時間以内に到着するとのこと。現状近海にアメリカ軍の軍船は見えず、今回のような事態はもう起こりませんかと」

「それはよかった」


 今回は間に合わなかった戦艦シャルンホルストだが、そろそろ到着する予定である。ヴェステンラントの海岸はシャルンホルストが守護してくれることだろう。


「後は、第一防衛線の状況は?」

「はっ。アメリカ軍によって、塹壕がかなり損傷しています。今すぐの使用には耐えないかと」

「やはりそうか。なら、全軍の最優先の目標は、第一防衛線の修繕とする。皆疲れているだろうけど、これだけは頑張って欲しい」

「はっ!」


 アメリカ軍はまだまだ健在である。第八戦区に休んでいる暇はないのだ。


 さて、 その日のうちにシャルンホルストは到着し、クラウディアが突貫で造らせていたシャルンホルストを最低限受け入れられる船着場に停泊した。が、それを嘲笑うように悪い報告があった。


「殿下、悪い報せです。ノイエ・アクアエ・グランニの部隊から、最低でも4隻のイズーナ級を確認したとの報告が」

「イズーナ級が4? まったく、馬鹿げている」


 アメリカ軍はどうやらイズーナ級も際限なく建造することが可能らしい。

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