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第八戦区

 さて、第五戦区への総攻撃が一段落した翌日。防衛線の中でも最も東に位置し、黒公クラウディアの指揮する第八戦区にて。


「殿下! 一大事です! イズーナ級魔導戦闘艦が沿岸に現れました!!」

「……何を言っているのかな、君は。全く訳が分からないのだけど」


 イズーナ級魔導戦闘艦は全て沈められてしまった。建造中の船こそあれ、洋上に浮かんでいる筈がない。


「わ、我々もよく分かりません。しかしイズーナ級がすぐそこに姿を現したのは事実です!」

「……私達の船な訳がない。アメリカ軍は私達の装備を複製していた。船でも同じことが出来ない道理はない、か」


 報告を受けるや考えを巡らせたクラウディアは、心に思ったことがほとんど全て口に出てしまった。


「で、では、まさか、アメリカ軍が船を持っていると?」

「あ、ああ。その可能性が高い。すぐに偵察隊を派遣して詳しい状況の確認を」


 魔女達を放ってみた結論は、やはりクラウディアの予想した通りであった。


「出現した船には、星条旗が翻っているとのこと。間違いありません」

「アメリカの船、か」


 アメリカ軍が虐殺を行う時に空高く掲げる旗として、人類は既に星条旗の存在を認知している。そんな旗を堂々と掲げるとは、逃げも隠れもする気はないらしい。


「で、どこに向かっている?」

「現在の進路を見るに、防衛線の北方、アメリカ軍の陣地に向かっているようです」

「なるほど。船で補充を運んできたってことか。イズーナ級なら海流も気にせず最高速で南下出来るし、合理的な判断だ。考えたものだね」


 魔法で動くイズーナ級の速度はゲルマニアの蒸気船にも引けを取らず、かつ艦内容積はシャルンホルストを大きく上回っている。これに奴隷船のようにアメリカ兵を詰め込めば、極北から迅速に援軍を送ることが出来るだろう。敵が遥か北から現れるという予想は正しかったが、船を使ってくるとは誰も思わなかった。


「ど、どうされますか……?」

「取り敢えず、オーギュスタンにこのことを報告して。それと、直ちに戦闘配置を」

「はっ。しかし、あの船は放置するのですか?」

「イズーナ級なら、私達の戦力で撃沈することは不可能。捨て置くしかない。シャルンホルストにいてくれなら嬉しかったんだけどね。シャルンホルストって、今どこにいる?」

「シャルンホルストは現在、輸送任務の最中です。ここに来るには、最短でも3日はかかるかと」


 世界最大の排水量と速度を併せ持つ戦艦シャルンホルスト。海戦が起こることが想定されていなかった為に、その航行性能を活かしてゲルマニアから大量の物資を運ぶことに専念していた。彼女を頼りにすることは出来ない。他の戦艦も白の国の援護で手一杯だ。


「じゃあ無理だ。あれを止めることは私達には出来ない」

「はっ……」


 クラウディアにはアメリカの軍船を指をくわえて眺めていることしか出来なかった。


 ○


 さて、オーギュスタンはクラウディアからの報告をすぐさま確認した。


「なるほど。確かに、船を使って来ないとは誰も言っていないな」


 オーギュスタンは不敵に笑う。この状況すら楽しんでいるようであった。


「オーギュスタンよ、奴らは何がしたいのだ?」


 晴政は問う。


「幾つか考えられます。単に援軍を送ってきただけか、或いは我が軍の塹壕の後背に直接上陸を仕掛けるつもりか、その間を取って塹壕を横から突くか。そのいずれかでしょうな」


 単に失った兵士を補充することが目的ならまだよいが、もっと積極的に防衛線を攻撃された場合は厄介なことになる。


「塹壕を横から突くか。確かにそれが成れば、塹壕などまるで役に立たぬな」

「ええ。ですから困っているのです。そうなれば、人類はお終いです」

「そうならぬ為に、我らがおるのだ。違うか?」

「ふっ、ええ、その通りです。大八洲の方々には協力を願いたい」

「無論。案ずるな。しかし、奴らが陸に到達するまでに何とかすることは出来んのか? ローゼンベルク大将よ、ゲルマニアはクバナカン島に多くの砲台を築いていた筈だが?」


 本国から遠く離れたクバナカン島を防衛する為、この島には確かに多数の大規模な砲台が建設されている。これで何とか出来ないのかと、晴政はローゼンベルク大将に尋ねた。


「確かに砲台はありますが、これら砲台は小型から中型の帆船を相手としたもので、イズーナ級などの魔導戦闘艦と正面切って戦える力はありません。それに、件の船が大砲の射程に入ってくれるとも限りません」

「肝心な時に役に立たぬな」

「あくまでクバナカン島に敵が攻め入った時の備えですので……」

「まあよい。で、その船はいつ到着する?」

「イズーナ級の速度ならば、丸一日もすれば到達するかと。先に申し上げたように、これを食い止める力は我が海軍にはありません」

「分かった。後は俺が何とかしてやる」

「それはそれは心強い」


 大八洲軍とガラティア軍は未だ活躍を見せていない訳だが、それはヴェステンラントへの輸送が間に合っていないからではない。不測の事態に備えた戦略的予備戦力なのである。


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