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第五戦区Ⅱ

 列車という狭い空間でアメリカ兵の攻撃を受け、狼狽えてしまう兵士達。だが装甲列車での戦闘を経験したことのある士官や兵士が彼らを奮い立たせる。


「拳銃だ! 近くにいる奴らは拳銃で殺せ! 機関銃は射撃を止めるな!」


 装甲を穿ち侵入を試みるアメリカ兵に対し、ゲルマニア兵は覗き窓から拳銃を突き出し、彼らの頭に向けて弾丸を放った。ただの拳銃ではなく、機関砲並の口径を持つ大型拳銃である。一般的には支えがないとマトモに撃てない欠陥品ではあるが、このような状況でこそ強みを発揮する。


 角度がよければ一発で、そうでなくても二三発でアメリカ兵の兜を貫通し、その頭蓋を粉砕した。そうして取り付いた敵を殲滅しつつも、機関銃の射撃を止める訳にはいかない。目の前にいるアメリカ兵は意識から逸らし、兵士らは必死に射撃を続けた。


 一方で、上から侵入してくる敵に対してはどうしようもない。アメリカ兵が突き刺した刃が火花を上げながら姿を現し、天井を円形に切り取っていく。


「ど、どうするんですか!?」

「飛び降りてきたところを集中砲火で撃ち殺す! 銃を構えろ!」


 上方向に車内から攻撃する手段はなかった。対抗策は敵が侵入した瞬間に袋叩きにして殺すのみ。が、その時であった。


「と、止まった……?」

「あ、ああ。止まった、ようだな……」


 突如として刃が止まり、装甲を切り抜くのを停止した。何事かと思っていると、すぐに伝令が訪れた。


「ヴェステンラントの援軍です! 助けに来てくれました!!」

「そ、そうか……今は味方に魔女がいるのか」


 ヴェステンラントの魔女が来援し、装甲列車にこびり付いたアメリカ兵を殲滅したのである。このような状況でも人類軍は決して無力ではない。それは兵士達の希望になった。


 ○


「殿下、周囲の敵兵は殲滅しました!」


 魔女達を率いていたのは青公オリヴィアその人であった。精鋭たる魔女達が列車の上に乗り移ったアメリカの魔女を殲滅すると、既に対空機関砲で粗方が殺されていたのか、アメリカの魔女はほとんど残っていなかった。


「よくやってくれました。ゲルマニアの方々、早く機関砲の配置に着いてください!」

「は、はい!」


 魔女の襲来で一時的に持ち場を離れていた兵士達。脅威が去るとすぐに配置に戻り、対空機関砲の狙いを定めた。とは言え、今のところは狙うべき敵もいないようだが。


「殿下、空の脅威は去りました。我々は地上の援護に当たるべきでは?」

「それは……そうしましょう。敵は装甲列車のみを狙っているようですから」


 本来予備部隊は役目が終了し次第後方に戻って待機すべきではあるが、アメリカ軍が手駒を出し切ったと判断したオリヴィアは、魔女達にこの場で戦闘を継続するよう命じた。仮にアメリカ軍に次なる策が残っていても、その矛先はこの装甲列車に向く筈である。


「装甲列車に取り付いた敵を優先的に排除してください! まずはそれからです!」

「「はっ!!」」


 装甲列車の上に並んだ魔女達は次々と攻撃を繰り出す。装甲列車に群がるアメリカ兵を頭上から種々の攻撃が襲い、ゲルマニア軍の銃撃と組み合わさって十字砲火となる。人類軍は勢いを得て、たちまちアメリカ軍は押し返されたのであった。


 そうこうしているうちにアメリカ人の死体が装甲列車の前に山のように積み重なり、戦いはアメリカ兵の全滅という形で終結した。


「お、終わりましたか……」

「そのようです。ですが……我が方の損害は非常に大きいかと」

「覚悟していたことです。次の襲撃に備え、すぐに部隊を再編すると共に、防備を固めてください」

「はっ」


 最終的に40万以上のアメリカ軍を殺し尽くした。防御側の優位があるとは言え、偉大な戦果である。しかし人類軍の損害も大きく、6万ほどの兵が失われてしまった。もしも次の襲撃があれば、第五戦区は耐えられないだろう。


 ○


「第五戦区より報告! 敵軍を殲滅したとのこと!」


 オリヴィアからの報告に、最高司令部は大いに感嘆した。装甲列車という奥の手を繰り出さざるを得なかったものの、アメリカ軍の戦略を打ち破ることに成功したのである。


「素晴らしい戦果だ。しかし、そう喜んではいられんな」


 オーギュスタンは勝利を喜びつつも、すぐに次の手を打つ。


「装甲列車は第三、第八戦区に送れ。一編成は予備として待機」

「はっ!」


 他の押されつつある戦区に直ちに装甲列車を差し向ける。やはり装甲列車は一編成だけでも戦局をひっくり返せる最強の兵器と言えるだろう。


「しかし、もう100万は殺した筈だな?」


 晴政はオーギュスタンに問う。既に全ての戦区を合わせてアメリカ兵を100万以上殺した。アメリカ軍全体に壊滅的な損害を与えた筈なのである。


「ええ。我が方の損害も30万ほど出ていますが」

「アメリカ軍の総数は200万と少し。これなら奴らを殺し尽くすのも時間の問題ではあるまいか?」

「確かに、計算上はその筈ですな。敵に援軍がなければ、ですが」

「援軍か。奴らがどこから湧いてくるのかは未だ分からぬが、ヴェステンラントより北であることは相違あるまい。仮に死んだ兵を次から次に補填しているとしても、ここまで来るのに何月かかるか」

「そう思いたいものですがな」


 オーギュスタンは今のところアメリカ軍に援軍はないと踏んでいるが、相手はそもそも人外の化け物連中。何をしてくるか分からない。

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