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第一戦区Ⅱ

「敵軍、なおも止まらず!」

「距離300パッススに到達!」


 アメリカ軍は数万単位の兵士を吹き飛ばされながらも、全く隊列を乱すこともなく行進する。


「奴らがこの程度で止まるとは思うな。機関銃、小銃、魔導弩、射撃開始! 一人残らず殺し尽くせ!」


 ここまでの距離になってくると、誤射を避ける為に重砲も憤進砲も使うことは出来ない。代わりにアメリカ軍を撃つのは、ゲルマニア兵の機関銃と小銃、戦車の同軸機銃、そしてヴェステンラント兵の魔導弩である。また直線状に撃つ為誤射の可能性がない魔導弩砲も引き続き射撃を継続する。


 上からの攻撃はなくなったものの、今度は真正面からの激しい銃撃がアメリカ兵を襲う。精確な射撃は前にいる者から順番にアメリカ兵を撃ち殺していくが、それでも確実にアメリカ軍の前線は押し上げられ続ける。まるで洪水を正面から押し返そうとしているかのようであった。


「アメリカ軍、100パッスス地点に到達!  間もなく我が方の塹壕線と衝突します!!」

「各員、白兵戦用意! 塹壕線は死守するんだ!」


 申し訳程度に設置された堀や鉄条網を易々と突破し、アメリカ軍はついに塹壕線に到達した。普段のゲルマニア軍なら白兵戦に持ち込まれると厳しい戦いを強いられるものだが、今日はヴェステンラントの魔導兵が参戦している。


 ○


「抜刀!! 塹壕に足を踏み入れた奴から叩き切れ!!」

「「「おう!!!」」」


 ゲルマニア兵は射撃を続けながらも塹壕の後ろに下がる。最初のアメリカ兵が塹壕に飛び降りた。と同時に、ヴェステンラント兵がその胸に魔導剣を突き刺し、殺した。すぐさま降り立つ別の兵も首を斬り落とす。が、それもすぐに間に合わなくなり、ヴェステンラント兵は一歩下がらざるを得なくなった。


 かくして白兵戦の火蓋が切られた。アメリカ兵は相変わらず恐怖も高揚も感じさせない無機質な剣を振るい、ヴェステンラント兵は雄叫びを上げながら応戦する。乱戦になるとゲルマニア軍の側では援護をすることも出来なかった。


「次から次へと……数が多過ぎる!!」

「もう10万人は殺したんじゃないのか!?」

「クソッ! 殺せ殺せ!!」


 ヴェステンラント兵の第一戦区への割り当ては2万人低度。塹壕という地の利があるにしても、アメリカ軍の戦力に対して余りにも足りていない。


 ○


「シグルズ様、もう10万人は削ったと思うのですが……」


 ヴェロニカは消え入りそうな声で言う。現場が感じている違和感を第一戦区司令部も持っていた。先立つ砲撃や白兵戦によって、既に10万人以上の敵兵を殺害していることは明らかであった。にも拘わらず、アメリカ兵に退く気配はない。


「まさか、アメリカ軍の行動基準が変わったのか? 本当に全滅するまで突っ込んでくると……?」

「さ、さあ……」

「師団長殿、我々は常に最悪の可能性を考えて行動すべきだ」

「本当に30万人で特攻してくるならやってられないぞ」

「予備隊を投入するか?」

「いいや、それは最後まで避けたい。アメリカ軍はまだ本気を出していない」


 騎馬隊も魔女隊も、未だ投入されていない。アメリカ軍にもそれなりの戦術という概念がある以上、これらは人類軍が疲弊したところで投入されるだろう。その時に予備部隊は必要だ。


「し、しかし、それではどうすれば……」

「不本意だが、防衛線を後退させる」

「後退と言っても、下がれば最終防衛線だが、いいのか?」


 オーレンドルフ幕僚長の指摘はもっともである。塹壕線は二重しかなく、一度下がってしまえばもう後がなくないのだ。


「背水の陣とするしかなさそうだ。それと、砲撃範囲を第一防衛線直前まで広げよ」

「味方に当たる可能性があるが?」

「……仕方ない。多少の犠牲が出たとしても、アメリカ兵を削る」

「そうか」

「とにかく、後退急げ!」


 塹壕の後ろ側は緩やかな坂になっており、戦車などは簡単に離脱することが出来る。また兵士達も、総兵力20万とは言え薄く広がっており、素早く後退することが出来た。


「アメリカ兵や射撃で損害が出ています!」

「全力で走れ! 第二防衛線に駆け込むんだ!」


 塹壕から出て身を晒してしまうと、アメリカ軍の弩が兵士を襲う。戦車などは下がりながらでも応戦出来るが、歩兵は全速力で走ることしか出来ない。


「歩兵隊、おおよそ離脱を完了!」

「第一防衛線まで砲撃範囲に含める! 群がっている虫どもを蹴散らしてやれ!」


 兵士が粗方離脱したところで、先程まで防衛線だった場所に砲撃が行われる。つい先程まで白兵戦を展開していたせいで第一防衛線に集中しているアメリカ兵に、重砲や憤進砲の榴弾が降り注ぐのだ。効果はなかなか大きく、2万人は削り取ることが出来た。


「か、閣下、友軍に誤射が……」

「分かっていたことだ。気にするな」

「はっ……」


 まだ味方は防衛線の間にいる。砲撃が少しでもずれれば味方を吹き飛ばしてしまうのである。が、そんなことは知れたこと。シグルズに最早構うことはかまった。


「第二防衛線に到着し次第、全力で撃ちまくれ!」


 続々と第二防衛線に到着し、態勢を整える人類軍。たちまち射撃と砲撃を開始し、アメリカ兵を撃ち殺す。


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