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コマーツの戦いⅡ

 第88機甲旅団は城に籠ることもせず、アメリカ軍が進軍してくるであろう大路に陣を敷き、これを待ち構えた。塹壕すら掘らず、戦車を横に並べて、真正面から迎え撃つのだ。


「し、シグルズ様、本当に大丈夫なのでしょうか……」

「ああ、大丈夫だ。心配は要らないよ」

「は、はい……」

「閣下! アメリカ軍を確認! やはりここに来るようです!」

「よし。作戦を開始するぞ」


 アメリカ軍はシグルズの読み通りに進軍している。これが外れたらどうにもならなかっただろう。


「諸君! アメリカ兵を人間だとは思うな! 奴らは人の形をした獣だ! 一切の容赦はせず、殲滅せよ!」


 シグルズはアメリカ軍と戦ったことがあるが、それ以外の人間は全てこれが初の実戦である。アメリカ軍の特性を言葉で聞いたことはあるものの、シグルズは改めて訓示する。アメリカ軍に対して僅かな慈悲の心でも持てば、殺されるのはこちらなのだと。


「アメリカ軍、5キロパッススに到達! 一直線に並んでいます!」


 アメリカ軍は戦闘をする気もないようで、行軍する時の陣形のままであった。僅かに6千の機甲旅団などいないも同然ということだろう。


「予想通りだ。砲兵隊、砲撃を開始せよ!!」


 まずは軽く様子見から。旅団砲兵は数十門の重砲で砲撃を開始。綺麗に整列して進行するアメリカ軍のただ中に榴弾を叩き込んだ。しかしここからの観測では土煙が舞い上がっているのしか見えない。


「効果はあったか?」

「ただいま確認中です」


 事前に配しておいた偵察兵が砲撃の効果を確認する予定になっている。土煙が少々晴れると、すぐに報告が飛んできた。


「偵察兵から入電! 砲撃に十分な効果を認むとのこと!」

「やはり、ヴェステンラント軍と同じということか。アメリカ軍はこの世界のものしか複製出来ないみたいだな」


 ゲルマニアの武器で戦ってみて初めて確証が持てた。アメリカ軍の装備はヴェステンラント軍の装備と全く同一のものであると。それは決して不思議なことではない。シグルズにも似たような、かつて実在していた兵器を作り出す魔法が備わっている。


「で、ですが、相手が魔導兵なら、こんなのでは食い止められませんよ!」


 ヴェロニカは全く安堵することは出来なかった。敵の性質がヴェステンラント軍と同じなら、砲撃が無意味なことは自明である。


「もちろん、分かってるよ。これだけで食い止めようなんて思っていない。いやそもそも、食い止める気すらないけどね」

「で、ですが……」

「まあまあヴェロニカ、師団長殿のことをもう少し信用してやってくれ」

「そ、そうですね」


 とは言え、あの大軍に恐怖していないのはシグルズとオーレンドルフ幕僚長くらいなものであった。


「アメリカ軍! 2キロパッスス地点に到達!」

「よし。憤進砲、砲撃開始! 片っ端から撃ちまくれ!!」


 ロケット弾は安く大量に製造することが出来、かつ運用も容易である。命中精度が著しく低い――どころかどこに当たるか運任せの兵器ではあるが、その欠点はアメリカ軍相手にはほぼ気にならない。


 流星雨のように五百ばかりの憤進弾が機甲旅団の頭上を通過し、猛烈な勢いでアメリカ軍に向かっていく。砲弾はアメリカ軍の隊列のあちらこちらに着弾し、詰め込んだ火薬と燃料がたちまち大爆発を起こした。


 燃料と共に爆発することで、憤進弾は榴弾と焼夷弾の役割を同時に兼ねる。至近距離のアメリカ兵は爆風で殺害し、少し離れたものは炎に包まれた。


「憤進弾は想定通りに機能しているのこと! しかし、アメリカ兵は全く動揺していないようです」

「クソッ。ダメか」


 ヴェステンラント兵が相手なら、魔導兵を焼く炎を魔女が消火するだろう。アメリカ兵に助け合いという概念がない以上、対人焼夷弾は有効かと思われたが、アメリカ兵はそもそも火に焼かれることを恐れていなかった。彼らは自らの体が炎に包まれようとお構いなく前進し、ある時ふと糸が切れたかのように死ぬのであった。


 なおも多連装憤進砲から放たれる砲弾はアメリカ軍を焼き払うが、効果は今ひとつだった。


「炎に包まれながら歩いてくるとか、どんな映画の脚本だ、まったく」

「師団長殿、下らないことを言っている暇はないぞ」

「アメリカ軍、1キロパッススまで接近!」


 ここまで来るとアメリカ軍の姿は肉眼でもよく確認出来る。その陣形は大いに乱れていたが、引くつもりは全くないようだ。


「アメリカ軍め。この程度で止まってはくれないか」

「シグルズ様……」

「敵軍、距離500パッススに到達! 機関銃の射程に入りました!」

「よし。戦車、装甲車、全力で撃ちまくれ!!」


 射程ギリギリから戦車の同軸機銃と装甲車からの斉射が開始された。相変わらず照準を定める必要もない。前に撃てば当たるのだ。3千丁ほどの機関銃による一斉射撃により、アメリカ兵は最前列からたちまちその数を減らしていく。が、味方の死体がいくら転がっていようが、彼らには関係はないことのようだ。


「アメリカ軍、止まりません!!」

「分かっていた。全軍、敵に合わせて後退せよ! アメリカ軍と一定の距離を保つんだ!!」


 シグルズの作戦はこれだ。アメリカ軍に一斉射撃を続けながら、機甲旅団はじりじりと後退する。火力を維持し戦列を維持しながら探れるのは、高度に機械化された機甲旅団だけであろう。

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