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ルーズベルトの将軍

 果たして、トルーマンが考え得る限りの有能な人材は尽く、ルーズベルトとトルーマンに敵愾心を顕にして、手を貸してくれる気など毛頭なかった。


「トルーマン君、これはどうなっているのかね?」

「いやー、まあ、マトモな人間だったら私達に従ってはくれないでしょうな」

「私達がマトモではないと?」

「殺しを楽しんでいる人間がマトモではないでしょう」


 少なくともトルーマンには自分達がマトモな人間ではないという自覚があった。ここまで登用を拒絶されるのは想定外であったが、まあ納得出来る範囲ではある。


「では、マトモではない人間に心当たりはないのかね?」

「もちろん、ありますとも。有能さという点においては片手落ちですが、及第点くらいなら十分満たす連中です」

「なるほど。教えてくれたまえ」

「そうですな、ではまず、ドーリットル中将などはいかがでしょうか?」

「ふむ、いい人材だ」


 大東亜戦争の最中、日本に対する無差別虐殺が幾度もなく行われたが、その中でも最初に虐殺を実行したのがドーリットルである。戦争犯罪人でしかないが、戦勝国であるが故に裁かれることは一切なかった。という訳で、例のごとくルーズベルトはドーリットルを復活させ、トルーマンが事情を説明した。何度となく繰り返してきた説明は、大分手際よくなっている。


「――という訳だ。どうだ、再び私達と共に戦わないかね?」


 半ば諦めながらトルーマンは問いかけた。が、今回は反応が違った。


「ええ、もちろんですとも。どうしてそんな素敵な申し出を断ったりしましょうか」

「そ、そうか。そう志願する理由は何かな?」

「再び大虐殺を行えるのです。これ以上に喜ばしいことはありません! 大統領閣下、是非とも私に軍団をお任せください!」


 血走った目で訴えるドーリットル。トルーマンも思わず笑顔になった。


「素晴らしいな、君は。まさしく理想のアメリカ人だ!」

「ありがたき幸せ。さあ、早く私にご命令を」

「まあまあ、落ち着け。今の私は副大統領だ。大統領はこちらの、ルーズベルト大統領閣下だよ」

「左様でしたか。では、ルーズベルト大統領閣下、ご命令を。幾らでも殺してみせます」

「頼もしいね、君は。では早速、君には軍団を預けよう。頑張ってくれたまえ」


 かくして将軍を一人手に入れたアメリカ合衆国。コツは狂人を選んでくることのようだ。


「では次に、誰か頭のおかしい将軍はいるかな?」

「そうですな……ドーリットルがありなら、更なる大犯罪者のルメイ准将などがいいのではありませんか?」


 東京大空襲の実行犯、古今東西稀に見る大戦争犯罪人、カーチス・ルメイ准将。彼ならばルーズベルトにも手を貸してくれそうだ。案の定、彼も話を聞くほど笑顔になっていく。


「――ええ、もちろんです。またあの火の海が見られるのですね。想像するだけで興奮してきます」

「見込んだ通りだ。彼ならば将軍に相応しいでしょう」

「そのようだ。ではルメイ准将、君に軍団を任せるよ」


 かくして戦争犯罪人ばかりが集められ、アメリカ軍は人間の司令官を持つに至ったのである。そこにマトモな人間は一人もおらず、その戦術は残虐そのものであるが。


 さて、一通り将軍を用意し終えた後、ルーズベルトはふと思い立った。


「ああそうだ、せっかくだから、この世界で最も強力な魔女を呼び覚ますとしようかな」

「な、何ですか、それは?」

「かつて神の恩寵を賜った少女がいてね。イズーナと言うのだが、彼女を復活させれば実によい戦力となる」

「なるほど。ではこれまでのように復活させればよいのでは?」

「そうはいかないのだよ。彼女は今でも半ば生きているのだ」

「どういうことですか……?」

「彼女の心臓は、まだ生きている。今は眠っているが、彼女の魂を封じ込めてね。それを回収しなければならない」


 トルーマンはルーズベルトが何を言っているのか分からなかったが、要はそのイズーナの心臓とやらを手に入れればよいということは分かった。


「心臓の回収ですか。諜報機関でも作るのですか?」

「そうだとも。本当に察しがいいね、君は」

「はあ、ありがとうございます」

「諜報機関と言えば、ドノバン長官を呼び起こすのがよいな」


 第二次世界大戦中に世界各地で暗躍した戦略情報局を率いていた男である。倫理観は甚だ欠けているが、特に狂人という訳でもない。


「彼のことはあまり好きではないですがな」

「そうなのかね? まあまあ、彼ほど有能な人材はない。早速呼び起こそうじゃないか」

「従ってくれますかな」


 拒絶される可能性も大ながら、トルーマンはドノバン長官をアメリカ軍に勧誘した。


「――なるほど。ルーズベルト大統領閣下とまた組めるのなら、別に構いませんよ」

「そうか。ならば、君にやって欲しいことがあるそうだ」


 彼はルーズベルトに心酔することも反感を持つこともない稀有な男であった。という訳で早速、ルーズベルトはドノバン長官にイズーナの心臓の奪取を依頼した。


「――構いませんが、私自身はスパイではありませんから、部下を頂かなくては」

「それならば、君の望むままに与えよう。期待しているぞ」

「はい。ご期待は裏切りません」


 かくてアメリカ合衆国は表と裏で本格的に動き出したのである。

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