ルーズベルトの悩み
時は少々前に遡る。まだアメリカ人がルーズベルト、トルーマン、ハルの3人しかいない頃。焼き尽くした先住民の村に白い壁の小さな家を建てて、ルーズベルトはここを大統領官邸としていた。
「トルーマン君、どうやら我が軍はそれなりに苦戦を強いられているようだね?」
「え、ええ。ヴェステンラント単独でも、なかなかやりますな。とは言え、戦争とは物量で決まるもの。無限の物量を持つ我が軍が敗北するなどあり得ません」
まだ枢軸国は気付いていないが、心のない複製に過ぎないアメリカ軍は、いくらでも生成することが可能である。もちろん本当に無限という訳ではないが、その限界は遥かに高く、実質的には無限と考えて差し支えない。
「それではつまらぬのだよ。もっと圧倒的な力で敵を蹂躙し、逆らう者を一人残らず殺し尽くしてこそ、アメリカ軍というものではないかね?」
「まあ、私はそのようなこだわりはありませんが、閣下がそう仰るのなら」
「では、もう少し我が軍の質を上げねばならない」
「プログラムに沿って動くだけの兵士の質を、どう上げると?」
「兵士個々の質を上げるのは無理だが、戦略規模でもう少し上手く部隊を動かしたいものだ。つまり、各軍団に司令官を付けることとしよう」
「私達のようにアメリカ軍人を地獄から呼び戻されるのですか?」
「その通りだ。実に察しがよくて助かるよ。トルーマン君、誰かお勧めの人材はいないかね?」
「有能な軍人ならば心当たりは幾らかありますが、彼らが我々に従ってくれるかどうかは未知数です」
「それは構うまい。気に入らなければ消せばよいだけのことだ」
「そ、そうですか……」
という訳で早速、トルーマンは有能な人間をいくらか思い出してみた。それを聞いたルーズベルトは、その軍人達の肉体をその場に瞬時に作り上げた。
「こ、これは、魔法ですか」
「ああ、そうだとも。人間の肉体を生成する魔法は特別なものではないが、普通それで出来るのは綺麗な死体であって、決して動き出すことはない。だが、私は死者の魂を呼び戻す力を持っている。それを使えば、彼らを若々しく甦らせることが可能なのだ」
「な、なるほど……」
「では手始めに、彼から行こう。マッカーサー元帥、起きたまえ」
往時の軍服を纏い、印象的なサングラスを掛けパイプを加えた精悍な男。かつて日本侵攻の先槍として活動し、戦後は日本を支配し我が物にした男。マッカーサー元帥である。ルーズベルトが何やら手に力を込めると、横たわっていた彼の肉体はゆっくり起き上がった。
「お、俺は……。は……? ルーズベルトとトルーマン……?」
「やあやあ、久しぶりだね、ダグラス。トルーマン君、状況を説明してやってくれたまえ」
「あ、はい」
流石に右も左も分からず混乱しているマッカーサーに、トルーマンはこの状況を丁寧に説明した。新生アメリカ軍の将軍になってはくれまいかと。
「――つまり、またお前達のエゴの為に侵略をしようってことだな? それも侵略どころではなく、ナチ共と同じ絶滅戦争と来た」
「ああそうだよ、ダグラス。またあの時と同じように、私と共に人を沢山殺そうじゃないか」
ルーズベルトはマッカーサーに手を差し出したが、マッカーサーはそれを全力で叩き落とした。
「馬鹿を言え! 貴様のせいで何百万人が死んだと思ってるんだ! もう二度と、あんな戦争は御免だ!」
軍人らしく気迫ある声でマッカーサーは怒りを顕にした。
「おいおい、あの時は私と共に戦ってくれたじゃないか。今度はダメなのかね?」
「1941年の俺は、アメリカ軍人だった。だからどんなクソッタレが大統領だろうと、そいつの命令に従わない選択肢はなかったんだ。だが、俺はもうアメリカ人じゃない。貴様らなどに忠誠を誓うものか!」
「ここはアメリカ合衆国だ。そしてここに生まれ変わった君もアメリカ人なのだがね?」
「貴様らが勝手に合衆国ごっこをしてるだけだろう? そんなものに俺が付き合うとでも思ったか?」
「はぁ……まったく、残念だよ。では、君は再び眠りにつくといい」
「な、何を――」
マッカーサーは瞬時に意識を失い、その身体は何の抵抗もなく床に倒れた。既にその肉体は呼吸も何もしていなかった。
「か、彼は死んだのですか?」
「死んだという表現が適当かは分からないが、全ての活動を停止させたよ」
「そ、そうですか」
「では次は、やはり彼だろう。アイゼンハワー元帥」
今度はドワイト・アイゼンハワー元帥を呼び起こした。かつてヨーロッパ戦線の最高指導者として、ナチス・ドイツと戦った男である。またもやトルーマンが事情を説明するが、激昂することはなくとも、ただただ不快感を示すだけであった。
「お言葉ですが、原子爆弾の実験の為だけに数十万の日本人を殺すようなあなたに再び仕えるなど、論外です。この話はお断りさせて頂きます」
トルーマンに対して強い嫌悪感を示したアイゼンハワー元帥。協力の要請はあっさり拒絶されてしまった。
「やっぱり君もそうなのか。残念だよ」
「あなた方は……自らの罪を省みることはないのですか」
「ああ、そんな気はない。さようなら」
ルーズベルトはアイゼンハワー元帥を再び眠りにつかせた。