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女王の戦い

「アルノルテ……何故このような辺鄙な土地に余を遣る?」


 女王ニナはオーギュスタンの命令通りに移動しつつ、しかし彼にその真意を求める。オーギュスタンがニナに命じて援護せしめたのは、戦略的に重要とは思えない砦の一つであった。


『我々の戦力ではそもそもアメリカ軍の攻撃を完全に防ぎきることが不可能なのは前提ですが、人類軍が王都に到着するまで時間を稼がねばなりません。然るに、一軍団が突出して南進することは阻止しなければなりず、その場所の重要性に拘わらず、敵の突出は防がねばならないのです。その点、アルノルテの防備は貧弱であり、また既に陥落寸前であり、陛下にはここを支えて頂きたいのです』

「なるほど。相分かった。お前の期待は裏切らぬぞ」

『はっ。何卒宜しくお願いします』


 多数に分かれて進軍するアメリカ軍。そのどれか一つだけでもヴェステンラントの枢要地域に到達してしまえば、ヴェステンラントは瓦解する。前線の凹凸を潰しながら徐々に後退するのがオーギュスタンの戦略であり、その為にニナは動かされていた。


 ○


 ヴェステンラントの東西方向の中部、青の国に属するアルノルテ。元より大して栄えた都市ではなく、青の国が首都防衛を優先している為、その防備は十分なものではない。


 小規模の市街地を抱え込む円形の城塞都市に、3万ほどの兵士が立て籠もって抗戦していたが、半分以上の兵が失われ、それも限界が迫っているようだ。


 と、その時である。城壁に迫るアメリカ兵の足元に巨大な穴が空き、一気に1万人以上の兵士が虚空に呑み込まれた。


「こ、これは、一体……」

「何を呆けておる。早く矢を番えよ!」

「へ、陛下!?」

「ああ。お前達の女王が来たぞ。奮い立て!」


 ニナの魔法によって城壁の周囲の地面が次々と陥没し、たちまち城を半分囲う深い堀となった。無論、兵士達が出入り出来るよう南に道を開けてある。


「こ、これは、一体どのようにして……」

「余の闇の魔法だ。とは言え、アメリカ兵が皆死んだ訳ではない。気を抜くな」

「はっ!」


 突如出現した堀に叩き落とされたアメリカ兵。最初の方に落ちた者はほぼ間違いなく死んでいるだろうが、その死体の上に落ちた者は生き残っているかもしれない。それに後続部隊はまだまだ控えている。


「さあ、戦え! 余の前で無様な戦いを見せるは許さぬぞ!」

「「はっ!!」」


 堀が造られ、実質的に城壁が数倍の高さになったようなものだ。アメリカ兵がそれをよじ登ろうと、壁上から落とされる岩や熱湯によってそうそう登りきることは出来ない。


「あれは……陛下、コホルス級です! どうかご助勢を!」

「言われるまでもなし。魔女達よ、余に続け!!」


 陸からの攻撃が無駄だと判断したのだろう。アメリカ軍はすかさず空飛ぶ魔女達を繰り出してきた。その数はおよそ2万。大してこちらのコホルス級は2千ほどである。だが、ニナは躊躇うことなく、魔女達を率いて鳥の群れのような敵勢に突撃した。


「アメリカ人よ、貴様らに我が魔法の真髄を見せてやろう」


 ニナは魔法の杖をアメリカ軍に向ける。すると彼女らの隊列の至る所で前触れもなく次々と爆発が起こり、その度に十数人が大地に墜落した。


「ば、爆発!? 何もないのに、一体何が……」

「余もどうしてかは知らぬが、空気は固めると爆発するのだ。余にとっては、この大空全てが火薬に満たされているようなものぞ」

「な、なるほど……?」

「さりとて、全て落とし切れる訳ではない。来るぞ!」

「はっ!」


 ニナの攻撃をすり抜けてきた魔女達が突撃する。ヴェステンラントの魔女達は剣を抜き、ニナを護衛するように戦闘を開始した。ニナには空気を爆発させる魔法に集中してもらわないと困るからである。


 アメリカの魔女は単純に剣で斬りつけることしか知らず、同数ならば多彩な飛び道具を持つヴェステンラント軍の敵ではない。とは言え敵軍の物量は甚だしく、距離を詰められてしまえば互角の戦いとなる。たちまち空は乱戦となった。


「味方も多くが死んではいるが……この調子ならば勝てるな。怯むな! ここでアメリカを皆殺しにせよ!」


 空気を爆発させるニナの魔法で、アメリカ兵の大半を殺した。残りの者だけならばコホルス級の魔女でも十分に対処出来る。1時間ほどに渡る戦闘で、ついにアメリカの魔女は全滅した。文字通りの皆殺しである。


「うむ。よいな」

「し、しかし……これ以上の戦いは……」

「随分と数が減ってしまったな」


 いつの間にか魔女の数は当初の半分未満に減ってしまっている。普通の軍隊ならば壊滅と呼んでもいい被害であり、この異常な戦争でなければ拠点を捨てて後退していることだろう。だがヴェステンラント軍にそれは許されない。


「しかし、アメリカ軍は我らとおよそ同じ比率でコホルス級を擁しておる。これでコホルス級は殲滅した筈だ」

「そ、それならば……」

「ああ。既に防備は整っておる。奴らはいずれ撤退する筈だ」


 既にアメリカ兵を10万人に近く殺している。もう少し殺せばアメリカ軍は撤退を始めるだろう。

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