ドロシアの抗戦
「ま、炎の壁を迂回されたのなら、もう一度壁を作るだけよ。油を流しなさい! アメリカ人など一人残らず焼き尽くしてやれ!!」
「はっ!!」
ドロシアは最終的に城壁の半分ほどに炎の壁を作り出して、アメリカ軍の攻撃を完全に防ぎ切ったのであった。
「――今回の損害は?」
「およそ2千です。3万人の敵を殺し切ったのですから、相当によい比率かと」
「そうね。これなら、粘り勝てる」
殺すべき敵の数は10万。この程度の損害で済むのであれば、先に力尽きるのは向こうだ。が、その時ドロシアに悪い報告が入った。
「申し上げます! アメリカ軍、10万の大軍勢を以て接近しております!!」
「何? いや、普通に考えたら当たり前ではあるけど」
「ど、どうされますか!?」
これまでは3万にずつ突っ込ませて全滅するに任せていたアメリカ軍。それが10万を一気に投入してきた。戦力の逐次投入という愚かさにようやく気付いたらしい。数にして3倍の軍団は計算上10倍の戦力となるのだ。
「最悪だけど、やることは同じよ! 炎の壁で奴らを近づけさせるな!」
「はっ!」
アメリカ軍は最初から城壁の北側全体に攻撃するつもりのようだ。個々の兵士の知能は相変わらずだが、司令官が加わったように思える。ドロシアは早速ありったけの石油を城壁の外にばらまき、アメリカ軍が足を踏み入れたところで着火した。最前線の兵らはあっという間に灰と化す。
「あ、アメリカ軍、突っ込んで来ます!」
「炎が! 炎の勢いが衰えています!」
「ば、馬鹿なっ……」
アメリカ兵は燃え盛る火の中に突っ込み、もちろん先頭から次々焼け死んだ。しかし黒焦げの死体が徐々に折り重なって空気を遮ると、炎の勢いが衰えていったのである。どんなに良い油でも空気がなければ燃えることは出来ないからだ。
アメリカ兵はつい先ほどまでの仲間(仲間という意識があるのかは分からないが)も死体で出来た道を躊躇なく歩き、城壁に詰め寄る。
「クソッ……油よ! もっと火に油を注ぎなさい!!」
「殿下! もう油がありません!!」
「クッソ……!!」
まさか肉弾攻撃で石油の炎が掻き消されるとは予想外。10万人を迎え撃つ為にありったけの油を注いだせいで、用意してあった石油は使い切ってしまったのだ。
「なら、魔法で油を作りなさい!」
「で、出来ないことはありませんが、こんな大量に生成するのは無理です!」
「殿下、敵が城壁に到達しました!!」
「この……石でも何でもいい! 上から落としてそいつらを落とせ!!」
敵が城壁を登り始めた時の一般的な対処は、何でもいいから上から落とすことである。その用意も当然してあって、用意しておいた大きめの石やら瓦礫を落としまくってアメリカ兵の叩き落すも、圧倒的な数のアメリカ兵を食い止めるには至らず。
隣にいる味方がいくら殺されようと全く構うことのないアメリカ兵を食い止めるには、皆殺しにするほかないのである。
「白兵戦用意! 一人残らず斬り殺せ!!」
「「おう!!」」
ヴェステンラント兵はついに剣を抜き、壁をよじ登ってきたアメリカ兵との白兵戦を開始した。初めは城壁に登りかけたアメリカ兵を上から突き刺すだけでよかったが、どんどん増えるアメリカ兵はやがて壁の上に到達する。
魔導装甲によって表情などは見えないものの、彼らから感情というものを見出すことはまるで出来ない。機械のように戦う彼らは、その剣術も目の前の状況に応じて事前に設定された動きを繰り返しているだけのようだった。が、その設定はなかなか侮れたものではなく、最低限の訓練しか施されていないヴェステンラント兵にとっては荷が重いものであった。
「で、殿下、お下がりください!」
「私が下がるとでも!? こんな奴ら、私が殺してくれるわ!!」
「で、殿下っ!?」
ドロシアにも襲い掛かるアメリカ兵。城壁を登り切ったところでドロシアは剣を抜いて斬りかかり、たちまち数人を斬り殺した。ドロシアとて生まれながらに武将となるべく教育された者、そんじょそこらの兵士と比べれば、その剣技は卓越している。
「次から次へと湧いてきやがって……。お前達は皆殺しよ!」
「で、殿下! 右翼が突破されました! アメリカ軍が城内に侵入しております!!」
「何!? クッ……」
防衛線が一カ所突破され、アメリカ兵が城内に侵入した。アメリカ兵は躊躇わずに城壁の上から飛び降りると、目に見える建物などを破壊し始める。知性など欠片もない野獣のような連中だ。
「ど、どうされますか……?」
「既に民の非難は完了している。城の中に敵が侵入したところで問題はない」
「で、ですが、我らの退路が断たれてしまいます……」
「…………機を見て撤退を命じる。それまでは奴らを殺せ」
「はっ……」
防衛線が食い破られた時点で勝敗は決した。だが、更に悪い報告が入る。
「も、申し上げます。ワシントン砦、陥落しました!」
「そう。これでアメリカ軍は南になだれ込む、か」
アメリカ軍を迎え撃っていた拠点の一つが突破された。まもなくここも落ちる。黄の国は滅ぶ運命にあるようだ。