人類軍の結成
さて、ゲルマニア軍がヴェステンラントとの共闘を決定したことで、四大国は全てアメリカ合衆国との戦争に乗り出した。これを好機と見て、晴政は再び枢軸国総会を招集した。
「――皆、俺はここに、人類軍の結成を建議する。我ら人間は手を取り合い、アメリカと戦うべきである」
かねてよりアメリカとの戦いを決め込んでいた晴政は枢軸国の軍隊を結成することを呼び掛けた。
「ゲルマニアとしては、晴政様に賛成いたしますと同時に、派兵の用意は整っております」
大八洲に居残りのリッベントロップ外務大臣は応える。
「ヴェステンラントは無論、協力を拒否する訳がない。是非とも皆の援助を請う」
「ガラティアは従前通り、ヴェステンラントとの協力や、枢軸国の諸君との協力は惜しまぬ」
「よくぞ申してくれた。話し合っている暇はない。ここに俺は、枢軸国に加盟する全ての国の軍の指揮権を枢軸国総会に集め、人類軍の創設を宣言する! 異論はあるまいな?」
拍手が議場を満たした。この非常事態において敢えて反対するような愚か者はここにはいない。かくして枢軸国総会は戦略規模において全ての軍隊に対する指揮権を譲渡され、人類軍最高司令部としての役割も同時に果たすこととなった。
「ついては、こんな遠く離れたところで采配する訳にもいくまい。枢軸国総会は、場所をルテティア・ノヴァに移す」
「そ、それはありがたきことですが……」
困惑するシモン。そんな話は全く聞いていない。それもその筈、晴政が今この場で思い付いたことだからである。
「何、案ずるな。お前達の都は決して落とさせぬ」
「ははっ……」
かくしてヴェステンラントの王都ルテティア・ノヴァに人類軍の指揮機能は移され、人類は総力を結集してアメリカ合衆国と戦うことが決定した。戦いはこれからである。
○
ACU2316 2/3 ヴェステンラント合州国 黄の国 スクワミシュ
人類軍が結成されたと言っても、旧大陸から孤立したヴェステンラントに援軍が届くにはまだ遠い。ヴェステンラント軍はその間、自力で抗戦することを余儀なくされていた。北ヴェステンラント大陸の西海岸を統治する黄公ドロシアも当然、絶え間ない戦いを強いられていた。
黄の国の首都であるスクワミシュは、クロエのノイエ・アクアエ・グランニと同じように付け焼刃の城壁を建設し、アメリカ軍と日夜戦闘を強いられていた。
「ドロシア様! アメリカ軍、再び攻撃を開始しました!!」
「……分かった。全軍、戦闘用意!!」
アメリカ軍はオーギュスタンが分析した通り、3万人程度の師団を次々と繰り出して攻撃を行っていた。ドロシアがここに動員出来る兵力は3万程度であり、当初は余裕を持って殲滅することが出来ていたものの、幾度となく続く攻撃に兵士達は疲弊し、損害は拡大し続けていた。
「敵軍、弓の射程に入りました!」
「撃ちまくれ!! 一人残らず殺し尽くせ!!」
「「「おう!!!」」」
城壁の上から全力で射撃を行う。今回のヴェステンラント軍の武器は弩ではなく弓である。単純な弓の方が連射に優れており、雲霞のごとく押し寄せるアメリカ軍を相手には命中精度など気にする必要がないからだ。
アメリカ軍の総数を軽々上回る数の矢が放たれ、上空から雨のように襲い掛かる。しかし、急所に当たれば殺せるものの、致命傷でない限り、アメリカ兵はその身体に矢が何本突き刺さろうとお構いなしに前進してくる。
「クソッ……私にもっと便利な魔法があればよかったのに……」
ドロシアは著しく自信をなくしていた。ドロシアの土の魔法は基本的に戦闘には向いておらず、戦闘に積極的に参加する余地はなかった。
「殿下の造られた防壁は、我らを大いに守っております!」
「……そう」
城壁の上に築かれた、兵士達を守る胸壁。これはドロシアの魔法によって造られたものであり、アメリカ軍の弩による攻撃から兵士達の身を守っていた。ヴェステンラント兵はかなり安全に、一方的に射撃を行うことが出来るのである。
「敵兵、城壁に迫っております!」
「学習しない奴らね。油を撒け!」
ヴェステンラント兵は城壁の上から大量の石油を流した。粘性の高く真っ黒の油である。たちまち城壁の直下に石油は溜まり、黒い池となった。アメリカ兵はそんなものには構わず、池の中に突っ込む。
「ふん、馬鹿め。魔女隊、火を付けなさい!!」
「はっ!」
火の魔女が数名で火球を投げつけると、黒い池はたちまち炎に埋め尽くされた。城壁の上まで届くほどの熱風。凄まじい黒煙が上がる。石油の中にいたアメリカ兵はたちまち骨になるまで焼き尽くされた。アメリカ軍を相手にするならば、どんな非道な作戦を使おうと、誰も非難することはない。ドロシアの得意とするところであった。
「アメリカ軍、火を迂回しております!」
「何? まあ、その程度のことを今更学習するなんて、阿呆にも程があるけどね」
先の3回の攻撃でアメリカ軍は炎の中に突っ込んで勝手に死んでいったのだが、今回は炎を迂回して攻め込んで来た。アメリカ人にも僅かながら学習能力があるようである。