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ヴェステンラント軍最高司令部

 自らの領土が直接の攻撃を受けている訳ではない赤公オーギュスタンと黒公クラウディアは、王都のノフペテン宮殿でヴェステンラント全軍の指揮を執ることになっている。シモンは枢軸国との調整の為に蒲生城に残っていた。そして今回は、いつもの面子に加えて女王ニナも参加していた。


「これはこれは女王陛下、このような場にいらっしゃるとは実に珍しい」


 オーギュスタンは女王に対しても皮肉っぽい声で。


「どうでもよい。戦況を伝えよ」

「陛下が政治に関心を持たれるとは思いませんでしたが……」

「女王が政治に関わらぬ訳がないだろう」


 ヴェステンラントを滅ぼすことを目的に動いていたニナ。しかし、ヴェステンラント以上の巨悪であるアメリカが現れてしまった以上、アメリカを滅ぼすことが最優先なのは明白である。


「まあ、当然のことではありますが。ではご説明いたしましょう。現状、アメリカ軍は300万の兵力を10の軍団に分け、各方面から進軍しております」

「そのくらいは分かっている」

「はっ。そして幾らかの戦闘の報告を受けた結果、アメリカ軍について色々と分かってきました。まずアメリカ兵は、肉体的には人間そのもののようですが、その精神性は人間のそれではありません」

「物言わぬ機械だな。そこまでは知っている。余も何千人か殺して来たからな」

「それは初耳なのですがな……」


 一番伝えにくいところは、女王が既に理解してくれているようだ。


「では次の分析を。アメリカ軍は個体としては戦術の概念すら持たない機械。前に進んで人間が見えたら殺すことしかしません。しかしながら、全体として見ると、一定の行動規範に沿って行動していると思われます。まるで魚の群れのように」

「ふむ。それは何だ?」

「アメリカ軍はその軍団を更に10程の師団に分割しており、師団ごとに突撃を繰り返し、波状攻撃を以て我が軍の前線を突破することを基本的な戦術としているようです。師団は全滅など意にも介していないようで、最後の一兵になるまで戦い続けます。しかし一方で、軍団の3分の1の兵力が失われると撤退します」

「なるほど。10万人殺せば撃退出来るのだな」

「はい。とは言え、あくまで撃退ですから、いずれ軍団を再編成して攻め込んで来ると思われます。これについては未知数ですが」


 先の戦闘でクロエがノイエ・アクアエ・グランニを守り抜くことに成功したのは、この行動原理が作動したからだと思われる。


「面白い。全て事前の命令通りに動く軍隊ということか」

「はい。アメリカ軍には戦術や作戦と言った概念はありません。とは言え、与しやすい相手という訳でもありません。相手に心がない以上、敵の士気を挫くような先方は無意味です。既存の軍法は半ば無意味でしょう」


 戦術の基本は敵の重心を衝いて敵軍を瓦解させることにある。しかし連携という概念を持たないアメリカ兵にこのような戦術は無意味。包囲も奇襲もアメリカ軍にはほとんど意味がないのである。


「それで、どうにかする方法はあるのか?」

「こちらから攻勢に出ることは意味がありません。城塞で守りを固めてアメリカ軍の兵力を削るしかないでしょう。ですが我が方にとって優位なこともあります。アメリカ軍が目の前にいる人間を殺すことしか考えていない以上、彼らが城や砦を迂回することはありません。線的な防御は必要ではなく、点で防御を行えばよい」


 防衛線を構築する必要はなく、ひたすら籠城していればよいのである。防衛に必要な兵力は少なく済む。


「なるほど。多少は活路が開けたな」

「とは言え、敵の兵力は余りに多く、我々だけでは点を保つことすら不可能です。大八州軍やゲルマニア軍の援助がなければ、我が国は滅び去るでしょうな」

「それはならぬ。アメリカがこの地を支配するなど、断じて許さぬ」

「陛下からそのようなお言葉が聞けるとは。とは言え、我々に出来ることは、世界が我々を助けてくれるのを祈るだけです」


 オーギュスタンにしては弱気な発言。彼とて不可能を可能にするような魔法を使うことは出来ないのである。が、風向きは彼を後押ししているようだ。


「申し上げます! ゲルマニアのヒンケル総統より、我が国を全力で支援するとのこと!」

「流石は総統。たったの5日で国内の支持を得たか」

「はっ。既に30万の軍勢を向かわせているとのこと。しかし軍団を全て輸送するには、なお3ヶ月程度を要するとのことです」

「当然だろうな。ゲルマニア軍は総勢300万以上。そんな大兵力を一気に送ることなど不可能だ」

「望みは出来たな、オーギュスタン。我らは時間を稼ぐとしよう。ああそうだ、クラウディア、我らの軍船は全てゲルマニアに貸してやれ」

「……分かりました。木造船では兵士の輸送しか出来ないと思うけど」

「それで十分だ。人事を尽くして天命を待つとしよう。余は前線に向かう。オーギュスタン、お前は余がどこに行けばよいのか命令しろ。余はそれに従おう」

「はっ。陛下のお力、存分に振っていただきましょう」

「ふん、見ているがいい」


 ヴェステンラント軍の最高司令官を務められるのはオーギュスタンしかいない。ニナは彼の指示に従うことを決めたのであった。

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