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共闘

 その時、城内から激しい銃声が聞こえると、侵入したアメリカの魔女達が叩き落された。


「銃声……我が国の銃とはとても思えませんね。ということは」

「おーい! クロエ、無事か?」

「やはりあなたでしたか、シグルズ」


 呑気に声を掛けてくる両手にバトルライフルを持った男は、見紛うことなくシグルズであった。銃は硝煙を吹いており、やはり彼がやったのだろう。


「まさかとは思いますが、私達を助けにでも来たんですか?」

「え、そうだけど。まあ正確には、海軍で近付けるのがここだけだったからだけどね」

「そうですか。正直言って助かります。是非とも共に戦いたい」

「もちろん。まずはコホルス級の魔女達を撃退しよう」

「分かりました。あなたも戦ってくれますか?」

「もちろんだ。僕は勝手に戦わせてもらうよ」

「お願いします」


 クロエは部隊の指揮官であり、そう軽々と動き回る訳にはいかない。シグルズは苦戦を強いられる空の戦闘の援護に飛んだ。それなりに立派な軍服を着たヴェステンラント兵と極めて質素な薄衣だけを着たアメリカ兵を見分けることは容易だが、バトルライフルで巻き添えにする可能性があるため、最前線より前で単騎戦うことにした。


「シグルズ!? どうしてここに!?」


 前線で戦うスカーレット隊長に目を付けられた。


「今は聞かずに、戦いに集中してくれ!」

「――わ、分かった!」


 シグルズは一直線に飛び去り、空を飛ぶアメリカ軍の更に上空に陣取る。眼下には敵兵のみ。遠慮することはない。シグルズは両手の銃の引き金を引き、数秒で数百の銃弾を叩き込む。空飛ぶ魔女の防御が脆弱なのはヴェステンラントの魔女と同様のようで、機関銃弾が一発当たればほぼ致命傷となり、戦闘力を喪失した。


 何人かの魔女がシグルズを落としに飛んできたが、シグルズに到達することは全く出来ず、目の合った者は片っ端から撃ち落とされた。


「しっかし……こいつらは何なんだ。物理的には人間だけど、とても人間には見えない」


 アメリカ兵は斬れば血が出るし、四肢を撃てば吹き飛ぶし、人間と同じ急所を撃てば死ぬ。それが物質的に人間であることに間違いはないようだが、彼女らに表情は一切なく、またシグルズの銃火に僅かの恐怖を示すことすらなかった。まるで人間の脳みそだけを機械に置き換えたようである。


 かくして暫く戦闘を続けていると、ヒューっと風を切る音がしたと思った次の瞬間、爆音が轟いた。そちらを見ると城外にひしめくアメリカ兵の隊列に大穴が開いて、数百の死体が吹き荒れていた。


「艦隊の砲撃か。頼もしいな」


 ついにアトミラール・ヒッパーとプリンツ・オイゲンが砲撃を開始したのである。一度照準を定めることに成功すれば撃ちまくるのみ。合計12門の主砲から放たれる榴弾は、防御という発想を持たず地上に居並ぶアメリカ兵に直撃し、たちまち粉砕していった。


 が、その時である。


「な、何だ……?」


 シグルズが暫く戦闘を続けていると、ある瞬間突然全てのアメリカ兵が戦闘を停止して、目の前にいるヴェステンラント兵など視界に入れず、後ろを向いて下がり始めたのだ。


「逃げる、のか……? 無駄に後追いして刺激するのもよくはなさそうだが……」


 シグルズは追撃を行わなかった。何が何だか分からないうちに戦闘は完全に終息しており、ここで下手な手を打ちたくはない。アメリカ兵が点のように小さくなったのを確認すると、シグルズはクロエの許に戻った。


「クロエ、こういうことはよくあるのか?」

「いいえ、初めてです。私も何がどうなっているのか混乱するばかりです」

「勝ったってことでいいと思うかい?」

「この場を凌いだのは確かでしょうね。これに怒って更なる大軍を差し向けてこないとも限りませんが」

「それは最悪だね」


 やがてアメリカ軍の影は水平線の向こうに消えた。近いうちに再攻撃するつもりはなさそうである。


「それともう一つ、アメリカ兵だが、あれは人間だと思うかい?」

「さあ、どうでしょうね。あなたが戦って感じたもの以上の情報は持っていないと思いますよ」

「そうか……」

「シグルズ、あなた達はこれからどうするんですか?」

「さっきも言った通り、艦隊は海岸でしか活躍出来ない。大規模な陸上兵力が到着しない限りは、ここを守るよ」

「それ以前に、ゲルマニアはヴェステンラントに手を貸してくれることになったんですか? そういう話は聞いていませんが」

「いや、そうは決まっていない。今のところは海軍が勝手にやってるだけだ」

「大丈夫なんですかね……。まあ非常に助かるので、ずっといていて欲しいですが」


 海軍だけではやはりどうにもならない。ヴェステンラント大陸という広大な戦域で防衛線を構築するには最低でも百万規模の援軍が必要である。


「僕達はそのつもりだし、ヒンケル総統もそのつもりだ。国内の支持を得るのに少々手間取っているけどね」

「面倒ですね」


 ヒンケル総統は何でも思い通りに動かせる訳ではない。アメリカとの戦争を世論に賛成させなければならない。


「――なるほど。そういうことでしたら、ちょうどいいものがありますよ」

「ちょうどいいもの?」


 クロエは黒い笑みを浮かべながら言った。

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