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新たな戦争

 ACU2316 1/18 大八洲皇國 近江國 蒲生城


 全世界が混乱する中、陽公シモンは何とかルーズベルトの軍勢に関する情報をかき集め、早速諸国の代表に報告する。


「えー、ルーズベルトは天上の軍勢などと名乗っておりましたが、敵の兵士は我々の魔導兵と変わらない存在のようです。ですが、その兵力は総勢三百万を超えております。現在彼らは我が国の北の国境を突破し、南下を続けております」


 言葉にしてみると全く信じ難いものである。敵が個体としては極普通の魔導兵に過ぎないのは僥倖だが、その数は余りに多い。魔導兵を集団的に運用するヴェステンラント、大八洲、ガラティア全ての魔導兵を合わせ、その数は百万と少しである。


「であるからして……このようなことを言う資格はないとは思いますが、恥を忍んで頼みたい。枢軸国の諸国においてはどうか、我が国と共にルーズベルトと戦って頂きたい」


 シモンはヴェステンラント単独ではどうにもならないと判断した。そして枢軸国に助けを求めたのである。


「天罰が下るのは自業自得。わざわさ助け舟など出す必要はありません!」


 サワイキ王国のリリウオカラニ女王は、ヴェステンラントを助ける気など毛頭なかった。


「我々は、あなた方に言語に尽くせぬ行いをしてきた。そのように思われるのも、ごもっともです」

「ならば、その身を恥じながら死ぬことです」

「まあまあ、双方、一旦矛を収められよ」


 晴政が見かねて仲裁に入る。


「ルーズベルトは全ての人間を滅ぼすと申した。つまり、ヴェステンラントが滅べば次は隣の国が狙われるということ。ヴェステンラントに程近いサワイキ王国などは、その筆頭であろう」

「それは……」

「なればこそ、ヴェステンラントをルーズベルトに対する堤防と考えればよかろう。堤防が崩れぬように手入れしてやると思えば、女王陛下も気が収まるのではないか?」

「それなら……ええ、分かりました。私が冷静ではなかったようです」


 ルーズベルトは人類に宣戦布告をしたのである。ここで無意味に相争うことは人類の滅亡を招きかねないと、誰もが内心では分かっているのだ。とは言え、ヴェステンラントによって多くの民を殺された諸国がそう簡単に割り切れないのもまた、仕方のないことではあるが。


「然るにシモン、俺はヴェステンラントに手を貸してやろう」

「あ、ありがたい」

「皆も、共に戦おうではないか。何、気が進まないのであれば、ヴェステンラントを盾にして自らの国を守ると思えばよい」


 沈黙。晴政はヴェステンラントへの援助を即決したが、元よりヴェステンラント側であるガラティア帝国を除いて、そう簡単にヴェステンラントと協力することを受け入れられる国はなかった。ゲルマニアもまたその一つである。


「リッベントロップ外務大臣、これはどうすればよいのだ?」

「そう言われましても……何せ、人ならざる者の侵略など、古今東西例がありません。どう対処するべきか……」

「それも当然か。ヴェステンラントに手を貸すのが一番合理的な選択ではあろうが、今からヴェステンラントと共闘すると言って、国民は納得するだろうか」

「納得は出来ないでしょう。しかし、世界最大の物量を持つ我が軍が協力しなければ、ヴェステンラントの敗北は必至かと」

「うむ…………」


 大戦争のほとんどはヴェステンラントとの戦いであり、ゲルマニアは数百万の犠牲を払った。国民はヴェステンラントに手を貸すことを認めないだろう。


「――我が総統、一度論点を整理しましょう。ヴェステンラントへの派兵を拒否するなど論外です。結論はもう出ています」

「そうだな。エウロパを戦争に巻き込まない為には、それしかない」

「ええ。ですので、後は民意の支持を得るだけです。その方法は二つ。一つはヴェステンラントとの宥和。もう一つはルーズベルトに対する憎しみを、ヴェステンラントに対するそれよりも大きくすることです」

「今更ヴェステンラント人と仲良くしろなんて不可能だ。余りやりたくはないが、憎しみを利用してルーズベルトとの戦争に賛同を得るしかないな」

「はい。我が総統なら、そういうことはお得意でしょう」

「まあな。人は論理より感情で動くし、暴力的なことの方が好きだ」


 大衆の扇動はヒンケル総統の専門分野であるし、社会革命党の得意とするところでもある。そうと決まれば必ずややり遂げられるだろう。


「皆、そろそろ決まったか?」


 晴政は問いかける。決まっている訳がない。


「晴政殿、もう暫し考える時間を頂きたい」


 ヒンケル総統は言った。


「ふむ。どれほど欲しい? この火急の問題、迷うている暇はないと思うが」

「分かっております。3日ほど、お待ち頂きたい」

「何? 考えるのにそんなにかかるのか?」

「かかりますとも。どうかご容赦ください」

「……分かった。では待とう」


 迷っている時間がないのは事実だ。ゲルマニアと大八洲が勝手に決めたものだが、この3日という時間が、各国に与えられた決断を下す時間である。が、その次の日のことであった。


「申し上げます! ルーズベルトの家臣を名乗る者が城下に現れました!」

「……通せ」

「はっ!」


 枢軸国総会に飛び入りする者がまた現れた。

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