斯くして赤子は魔女に拾われた
寒い、冷たい。
空から降る雨が俺の全身を打つ。
大袈裟にも大風とは言い難いポツポツとした雨だが、赤子の身には堪える。
俺は気が付いたらこの姿――赤ん坊の状態で道端に捨てられていた。
それ以前の記憶はなく、なぜ自分が今このように思考が出来ているかもわからない。
かといってこんな身体じゃあどうすることも出来ない。
さほど遠くない終わりを、身を震わせて待つしかない。
そう思っていた。
「ほう、捨て子か」
妖艶さと聡明さを含んだ美しい声が目の前から聞こえた。
そこには紫色の髪をした一人の可憐な女性がいる。
年齢は20代中ごろ、漆黒のローブに起伏の激しい身体を包んでいた。
彼女はおもむろに俺を抱き上げた。
「この雨の中、泣き声1つ上げないからとっくに死んでいるのかと思ったけど……」
彼女はその翠色の瞳で俺の顔を覗き込む。
「……なるほど黒色の眼か。これが不気味で捨てられたのね」
彼女のまなざしから同情を感じることは出来なかった。
しかし、そこには共感の色がありありと浮かんでいた。
俺は察した。おそらく彼女も迫害された身の上なのだろう。
「……私と来るか?」
自覚はなかったが、雨に随分と体力を奪われていたのだろう。俺はうなずくことも出来なかった。
ただただエメラルドのような瞳をまっすぐ見つめ返した。
「……」
彼女は何も言わず、俺を抱えたまま歩き出した。
こうして俺は不老不死の魔女――セレナに拾われた。