005.ボーイミーツコテコテンプレ後輩
初投稿です(大嘘)
リテイクしてたら時間がかかりました・・・。次回はもうちょっと早めにできればと思います
あの後、とりあえずリッカ嬢に恰好つけることが出来るように言いくるめて――具体的に言うと、リッカ嬢からのご褒美ということで彼女の荷物を借り受け、それをボビー君が運搬して格好つけられるよう誘導し――彼を泣き止ませた。
流石にわんわんと泣きわめいてる状態を放置するのも大人げないと判断したし、私個人の心象的にもあまりよろしくなかったからだ。
そのままの足で学校に登校すると、やはりというべきか「僕」の記憶にあるビル的なサムシングが校舎というのに、そこはかとなく違和感があった。「私」の側の幼少期の学校といえば、それはもうかろうじて木造でこそなかったものの、耐震強度に不安が出るような色合いをした鉄筋コンクリートな建物だったのだ。ちゃんとしたオフィス街にありそうなビルというか、都心の専門校とでもいような風情のそれはやはり妙にしっくりこないところがあった。
もっとも地下には体育館(サスピリのバトルフィールド的なサムシングを兼ねる)があったりもするので、全く「私」と「僕」との学校感に違いがあるという訳じゃないだろう。それこそ、大した話ではないのだった。
むしろ大した話というのは、自分の体格が小さいことに対する驚きの方だ。
よくある話として、幼少期に遊んだ公園が大人になってみると妙に小さく見えるとか、あんなに高く感じた公園の遊具のジャングルジムとかを簡単にのぼれてしまうとか。そういったものの逆を体験している。
つまるところ、地球での「私」なら特に違和感を抱かなかったろうビル群が、妙に大きく感じたのだ。
いや、地上8階建て程度の建物とはいえ、それはもうぐらっと足場がおかしくなるような感覚も抱くわけだ。「私」との身長差はざっくり1メートルもない程度なのだが、いやはやというサムシングである。
とはいえこれは、私個人として感動したものではあるのだが、実生活に大きく影響のある方ではない。
むしろ問題になる方だとすると……。このあたり「僕」の年齢を考えれば当然のことであるのだが、学校の学習内容が「私」には簡単すぎることの方だ。
別に問題を解くのに違和感はない。ないというか、ある意味でこれが今の私の仕事なのだと割り切ることはできる。
何が問題かといえば、クラスメイトのガリ勉(というと今どき死語か差別用語だろうか)君が必死に勉強して授業の問題を必死に解いているのに、こちらはほぼ何も頭を使っていないに等しい状況で、彼と同じかそれ以上の成果を出してしまうことの方だ。
いや、だからといって手加減をするのは「僕」というか、ツルギ・クジョーヒトモジの将来設計的に宜しくないのでやらないが。
実質としてはズルをしているようなサムシングだし非常に大人げないサムシングのようにも感じられて、いたたまれないのだ。
このあたり、クラスメイトはおろか担任の先生まで不可思議そうな顔をして私を見ているので、なおのこと身が縮むようなサムシングである。
ツルギ少年こと「僕」は、実際そこまで勉強が出来る方ではなかったのだ。入院明け、本来なら周囲よりも授業に遅れが出ていてしかるべきである。にもかかわらず平然と問題を解いたりしていれば、いろいろ気を使ったり準備をしていた先生は肩透かしを食らうだろうし、ガリ勉君は親の仇でも見るような目で睨んでくる。コワイ。
なおガリ勉君が目の敵にしてくるのは、彼も性格があまり宜しくないことに由来していたりもする。そもそも入院? 開け早々の登校で難癖つけて嫌味を言ってきたくらいだ。「僕」の記憶を探してみても、別に彼個人と因縁があった訳でもないので、私としては不可思議極まりない。
そして彼個人も我が強く、決して勉強だけではない。運動もできるタイプで、クラスで一番の人気者ではないが、二番目三番目くらいにはいるタイプ。おまけにいじめられっ子よりむしろいじめっ子側というべきキャラクター、性格だ。
「私」の子供時代にはいなかったタイプなので珍しく感じる。
「でもホント、どうしたんだよツルギ。なんか変だぞ?」
「変というと、良し悪しでいったらどういうサムシングですかね」
「さ、さむし……? いや、だってなんか全然元気ねーし」
「病み上がりに元気さを求められましても」
「言葉づかいもな。なんで「です」とかそんな感じなんだ?」
「いえ、ちょっと人生観変わりまして……」
不可思議そうなボビー君。ちなみにボビー君はクラスが同じだが、リッカ嬢は別クラスである。
「一度死にかけたら、人生変わりますよ」
「そんなものか? そういやこの間、テレビでなんかやってたな。救出されて九死に一生えたら、なんか会社つくって、成功したとかそんなの」
「そんな感じですかね。私に商才的なサムシングがあるかは知りませんが」
もっとも私の場合は、性格的にというより人格的に変わったわけで一般事例に当てはまるかは定かではないのだが。学校ではショウ・ラピア氏を召喚していないので、こういう時に愛の手を入れてくれる相手はいない。
ボビー君の他にもクラスに友達はいるのだが、どうにも私の変わりようが不気味らしく近寄ってこなかった。
ともあれそうこうしているうちに、お昼の時間である。
まず大前提としてこの惑星のヒトは食事を必須としないのだが、それでも大部分のヒトは食事をとる。当然、それには訳がある。
つまるところ、それがサムワンスピリッツたちとの契約対価的なサムシングだからだ。
サスピリたちは、何も無償でヒトの生活に協力をしてくれるわけではない。彼らが一応は精霊だったり神だったり悪魔だったりと、地球上におけるそういう存在に該当するサムシングである故に。彼等もまた、自らの力を行使するのに供物、生贄だったりといったものを必要とするらしい。
それゆえ、この惑星のヒトは彼らと交渉し、その結果編み出されたのが食事を対価とするものだった。
もっとも食事と言っても、一律全く同様の食事をとればいいといものではない。契約したサスピリ次第でそのあたりは色々変わってくるものがある。
例えばショウ・ラピア氏あたりでいうと、彼の場合は珈琲が対価になるらしい。
このあたりのせいもあり、スクールは給食制ではなく学食制をとっている。
「という訳で、本日の私の食事は珈琲一杯となります」
しかしおそらくこの世界での私初食事がコレというのもまた微妙な……。
学食に対しては給食同様事前に料金徴収が行われており、学生たちは無料で利用できるようになっている。とはいえもっと年の下の子供とかだとサスピリの貸与とかもないため、基本的には運動場で遊んでいたりするのが大半だった。
私自身も本日が食堂、初利用だったりする。
さて、ここで先に言っておくと私は珈琲が苦手だ。
というか、ブラックコーヒーがきつい。全く味のついてないアレは人間の飲み物だとは思えない(偏見)。アルコールも全く美味しく感じないので、おそらく体質的なものもあるのだろう。
それでも飲むのは、これがどうやらショウ・ラピア氏の契約対価らしいからだ。
個人の好き嫌いはあまり関係なく、摂取しろという無言の圧を感じる。
『何を言うか、あの黒いのど越しと芳醇な香りこそが良いのではないか』
「そうはおっしゃられますが、このあたりは個人個人によるかと。私的にはコーラと唐揚げの方が好きなんですけどね。なんこつの」
『軟骨か』
「なんこつです」
ともあれ、人でまぁまぁにぎわっている学食の隅で顔をしかめながら、話を聞くために召喚したショウ・ラピア氏と会話する。むろん、食事=対価というところについて聞き出すためだ。
「そもそも食事が対価というのも、いろいろ謎ではありますよね。悪魔召喚とか、明らかに血の滴る生贄を欲しそうですけど」
『うむ。そのあたり貴公にどこまで話して良いものかな……』
「何か親から制限がかかっていたりするんですか? 情報」
『どちらかというと年齢だろうな。今の貴公にそれが当てはまらないとしても……』
「というよりも、アレですアレ、毎日摂取する必要があるのか的なサムシングというか。対価って毎日使用してるものだと考えると、何か病気とか原因でもいいけど食べられなくなったりしたらヤバかったりするんじゃ」
『後者については問題なく説明できるな。貴公の知識に依存すれば、保険制度のようなものと言うとわかりやすいだろうか。本来は毎日など必要はない、我の場合などは一週間に1回程度か。
だがそれを事前に継続しておくことで何かあった場合にも「問題なく」契約対価を使用するということになるのだ』
「つまり、積み立てと?」
『嗚呼。ところで貴公の幼馴染の姿が見えないな』
「リッカ嬢はサスピリを持っていなかったかなと。ボビー君は、何か特殊な対価だから家から持ってきているとか。教室でお弁当を食べているのでは? と考えてます」
契約対価である以上、学校側で用意できない物品の場合もあるため、そういう生徒は自宅から物を持ってきていた。ボビー少年の場合もそんなサムシングだ。なんとなくアレルギーが強い生徒への対応のようでもある気がする。
「ボビー君はボビー君で、一緒にこっちに来て食べればいいんですが、どうにもそういうのが嫌らしく。いまだリッカ嬢のことで目の敵にされてる感じがします。ひょっとしてメイルナって結構強いサスピリだったりするんでしょうか? ショウ・ラピア氏と違って」
『度合いで言えば我の方が特殊だろうな。まぁクジョーヒトモジのような家系は特殊だ、我と契約して対価をその程度で済ませることが出来るのは』
「家系……?」
『うむ。元はと言えば――――』
「あ、すみませんトイレ行きます」
断りを入れてからデバイザーのギアを変更し、ショウ・ラピア氏を召還。カフェインの利尿作用のせいもあり、思わず食堂から足早に退出した。
用を足しながらも、脳裏ではショウ・ラピア氏が直前に言いかけていたことが響く。
クジョーヒトモジ、要するに「僕」の実家だが。何か家系的に特殊なものがあるのだろうか? 悪魔と契約している以上はまぁロクなサムシングではないだろうが。
まぁ話してくれそうなので、今は色々と予想するだけ予想しておこう。
そしてトイレを出た時点で、妙な感覚に襲われる。こう、なんとなく頭に何かが響いているような感覚だ。さながら「私」風に言えば、壊れたラジオが電波を受信してるような感覚である。それが「人体の中で」響いているような、不気味な感覚。
「迷ったら召喚ですかね。お知恵をお願いしますと」
言いながらショウ・ラピア氏を、ふたたびポーズを極めて召喚。自分の隣で直径1メートル大のバランスボールのごとき何かが能われる様は、やはりというべきかちょっと不気味だ。
ぎょろり、とそれの一つ目が私を見る。コワイ。
『どうした? 食堂に戻るか、教室に向かってからかと思っていたが』
「んん……、なんとなく変な感じがするので。原因を探れないかと思いまして。なんか変な電波でも送られてるような感じといいますか」
『ふむ……? 嗚呼、送られてるな。思念が』
どうやら本当に何か送られていたらしい。
『声として聞こえないのは、距離が開いているからだろう。修練度の低いサスピリといえる』
「あー、やっぱりこれもサスピリなんですね。というか、テレパシー的なサムシングですか?」
『嗚呼。我のこれと同様だな』
確かにダイ・ラピア氏もショウ・ラピア氏も、耳に聞こえる声で話しているサムシングではない。
『方向をナビゲートするか?』
「お願いします。ちょっとうっとうしいので……」
そうこうしてショウ・ラピア氏に先行させて歩いていると、私たちはビル校舎の地下、体育倉庫的なサムシングの部屋に。何故か扉は開いていて、中で何か人の声が聞こえる。
ショウ・ラピア氏を召還し、ちらりと跳び箱の影になっている向こう側――――5人の女の子の姿を見た。
四人に囲まれるように、小さい女の子が倒れてる。クラスや学年の階で見ない顔なので、おそらく私より年下だろうと推測できるくらい小さい(5歳以上7歳未満だろうか、私が8歳なので)。パーマのかかってないセミロングを、頭の後ろでまとめている。
顔立ちはたいそう可愛らしい……とは素直に。もちろん幼気な愛らしさはあるのだが、少々バランスが悪いような。若干目が大きく感じるせいだろうか。成長するとむしろ目の大きさが良いアクセントになりそうだが、今はそんなことはない。
そんな彼女は何かを抱きしめている。おそらくサスピリだろう、金色の光を放つ……、小鳥? 翼的なサムシングは見えるが、胴体が見えない。
「おべんとう、かえす、のですっ」
泣きそうながらも妙に可愛らしい声を出しながら、少女は目の苗の女の子たちをにらむ。おそらく同級生だろう子たちは、あからさまに嘲笑し――――。
『――――だれかカラナを、たすけて、なのです! 』
「おっと、何か既視感が……」
いじめられているのだろうか、という光景を前に。やはりどうしてか、私はどこか「恣意的に」この光景が構成されてるような、つまりはテンプレないじめっ子救出劇に遭遇したような感覚に襲われた。
いやはや、頭が痛かった。
※ちょいちょい言われてる、ツルギの人生を変える「彼女」ではありません;