004.気を抜くと大人げないバトルチュートリアル
初投稿です(大嘘)
バトル描写用に設定つめたりした結果、こういうのの調整って色々大変なんだなってなりました;
恣意的にゲーム的なサムシングに寄せられている世界観である以上は、当然召喚精霊同士を戦わせるバトルシステム的なサムシングがあるだろうことは予想がついていた。とはいえこの惑星について調査を(あくまで小学生レベルの範囲で)すすめた結論として、そのバトル自体もかなりのレベルでゲーム的なシステムであるらしかった。
つまり何が言いたいかというと、精霊戦(そのまま読みはせいれいせんだ。サスピリバトルとか呼ぶと語呂が悪すぎるせいだろうか)そのものはかなり軽い感覚で行い得るものでもあるし、スクールに通う「僕」と同い年のボビー少年もまた、結構軽い感覚でバトルを申し込んだということだ。
ボビー少年はこう、ツンツン頭で薄い金髪碧眼。もうちょっと大きくなると白馬の王子様的なサムシングになりそうな容姿をしている。もっとも彼の父親の姿を思い出せば中々に雄々しい雰囲気であったので、二枚目ではない別なタイプのサムシングに育つ可能性はあるかもしれない。
そんな彼が肩を怒らせ、目をひん剥き、腕をまくり蟹股で近寄ってくる様は、子供レベルでもちょっと怖い。あらん限りの激情が私に向けられている。
言うなれば、激怒した、必ずかの邪智暴虐を、的なサムシングであろう。走れツルギとばかりに逃走したいところである。
だがいかんせん、彼は私たちの目の前に立ちふさがっており、そう簡単に逃がしてはくれまい。
それこそゲーム的なサムシングにのっとれば「目と目があったらバトル」的なサムシングだろう。
「つまり、チュートリアル戦的なサムシングということですね」
「何か言ったかツルギ!」
「いえ、何でも」
しかしこう、一挙手一投足見逃さず何やっても噛みつくぞこの野郎とでも言わんばかりの負けん気だ。「僕」からしてみれば中々怖いが「私」からしてみれば中々可愛らしいものである。
さて。私がボビー君からの挑戦をチュートリアルと考えるのは、至極簡単な話。つまるところ私にちょっとホの字っぽく見えるリッカ嬢にイイトコ的なサムシングを見せたいのだろう。バトルの勝敗が両者になんら損壊を与えないだろうことが想像できるので、初戦にはもってこいかもしれない。
こう、「テストで良い点とったから誉めて褒めて! お兄ちゃんよりも褒めて!」と母親にせがむ弟的なサムシングを想起してかなり微笑ましく思えてしまう。
もっとも向こうはこちらのそんな生温かな視線に怒り心頭の様子である。
「どうしましょうか」
「ええ? わ、私にふるのかなぁ……」
「個人的には早く学校に行った方がいいと思うのですが、こんな茶番的なサムシングをしてるより」
「そ、そうだけどぉ……」
「逃げるな! お前、病み上がりだからってようしゃはしないからな!」
吠えるボビー君だが、自分はあいまいな笑みを返すのみ。
そしてリッカ嬢もまた、ちらちらと自分とボビー君との間で視線をさまよわせて……、あ、これは自分にホの字というよりも、気が多い的なサムシングだろう。幸か不幸か「僕」もボビー君も容姿は悪くないのだ、二人の間で揺れてる私ってば罪な女的なサムシングだろうか。
中々にマセている……、いやこの年代でも女の子はそんなものか(断言)。
「ここを通りたかったら俺を倒してからにしろ! でなければここはどかん!
まぁ、お前には無理だろうけどな!」
なんともゲームの回避不能系イベント的なサムシングが飛んできた。
リッカ嬢も「じゃ、じゃあ仕方ないよね」などと言いながら自分とボビー君に期待の視線を送る。
「どうしたものでしょうか、ショウ・ラピア氏」
『うむ…………。子供の社会も大変だな』
「そこまででもないですよ? わかりやすすぎて、いっそ蛮族に近いかもしれません」
『辛辣であるな……、否、身もふたもないというべきか』
ばんぞく? と頭をかしげる幼馴染二人はさておき。
実際、あまり時間をかけると三人とも遅刻するので、こんなことは放課後なり何なりに回せばよいと思うのだ。しかしボビー君は怒りで視野狭窄、リッカ嬢は色惚けによる判断力低迷。私はと言えば子供に言って聞かせるスキルも足りずに諦観、あるいは安歩当車的なサムシング。
薪水之労とまでは言わないが、試行錯誤が必要なお年頃ではあるのだろう。彼らにとっても、ある意味では私にとっても。
「いいでしょう、手短にすませましょう」
ともあれ、こうしてバトルする流れとなった。
私同様に腕時計型のデバイザーを持つボビー君。と、その腕を掲げ「フィールド展開!」と叫ぶ。
見よう見まねで彼にならうと、自分たちの道路周辺に、5メートル大のスペースが発生した。
直径5メートルほどのそれは、周囲の空間に結界というか、異空間的なサムシングを作り出すそれではない。どちらかといえば、私とボビー君との立っている空間を押し広げる的なサムシングだ。
端的に言えば、そう、現在の空間で暴れても問題がなさそうなエリアを発生させるようなイメージ。
そしてリッカ嬢が審判でもするような、私とボビー君の中間くらいの位置にいた。さすがに正面ではなく、私の右側、つまりボビー君の左側。テニスとか卓球とかの審判を想像すると分かりやすい、ああいう位置に移動……、転送? されたようだ。
「二人とも、がんばってー! 勝ったほうにはごほうびあげるから!」
嗚呼、だからそうやって火に油を注ぐべきではないだろうに。
「うおおおおー! ツルギ! タオス! ゼッタイウメル! シズメル!」
「やめてください死んでしまいます……」
そしてボビー君の発言がアレになってきていた。王子様ルックスが台無しなくらい目が血走ってる、コワイ。
明らかにリッカ嬢からのご褒美目当てではあるものの、そこまで露骨に執着すると引かれるのでは……? あ、そんなことはないようだ。いけいけー! と応援なのか煽りなのかわからない声をあげているばかり。
まぁ「僕」含めて、幼馴染同士なので憎からずではあるということか。ストレートにぶつけられる好意にも嫌悪感がないというのは。
「というわけでお願いしますショウ・ラピア氏」
『お願いとは言うが、貴公、バトルのシステムは理解しているのか?』
「そんな時のための教科書です」
『対決しながらテキストを読む召喚士か……』
呆れてるのか困惑してるのか微妙な声を上げるショウ・ラピア氏であるが、実際私からすればチュートリアルなので仕方ないと諦めてもらいたい。
現実世界にはチュートリアル的なUIは出てこな…………?
「おや?」
言いつつ背中のバッグを下ろそうとしていた私の目の前に、薄い板のようなものが「表示されていた」。
それは半透明でありながら、表面に文字が表示されており、そこにはこう書かれていた。
――精霊戦チュートリアル:初級編――
「いや、ここまでゲーム的なサムシングでどうするんですかっ」
思わず板にツッコミの裏拳を入れたのだが、すか、という風に手が空を切る。どうやら物理的に存在しているものではないらしい。
――ここでは精霊戦の流れを説明します――
そして表示が一段階進んだ。
板の下方には左右の三角マークが表示されていて、明らかに左右の操作を可能としている。
思わず、板の正面をタップしてみる。
――サムワンスピリッツはコマンドを8つ覚えられます――
――そのうち精霊戦に使える技は4つです――
――今回は初期装備で戦ってみましょう――
――戦闘時は、あなたの指示のもとにサムワンスピリッツは動きます――
――まずは一戦、コマンドと指示を出してみてください――
そこまで表示をめくると、私の眼前にカード的なサムシングが3つ現れた。
それぞれに絵柄と、技名だろうか……描かれていた。
【タックル/物理】
【毒呪/魔法】
【縛呪/魔法】
「ずいぶん物騒な文字が躍ってますね……」
「現れよ、メイルナ!」
私同様に腕時計型のデバイザーを使い、変身ポーズめいたサムシングを極めるボビー少年。それに合わせて、彼の目の前には一頭身の、デフォルメされた騎士の兜のようなサムシングが出現した。足らしきものが二つと、バイザー部分の左右に槍と盾らしきものを装備しており中々愛らしい。
『ナナナ!』
「きゃ! メイルナちゃん声かわいい!」
「ショウ・ラピア氏とは大違いですね」
『!?』
「いえ、ダンディって意味ですよ。良い意味です」
『そ、そうか。いきなり訳もなく皮肉を言われたかと思ったぞ』
「自意識過剰ですよ」
一瞬猛烈な速度で振り返ったショウ・ラピア氏はともかく。ボビー少年の手前にも私同様にカード的なサムシングが躍る。もっとも向こうは数が二つ。覚えている技の数が少ないのは、まさにチュートリアルといえばチュートリアルらしい。
【ショウ・ラピア 修練度:5/99】
【継戦力:43/43 経験値:0/100】
【メイルナ 修練度:5/99】
【継戦力:50/50】
自分と相手のサスピリをちらりと見れば、おおむねそんな情報が頭上に踊る。
ここまでゲームチックすぎると、本当に何か変な気分になってくるというか……。ただ幸か不幸か、サスピリ自体の種族値(攻撃力がいくつとか防御力がいくつとか)は表示されていないので、若干は現実に引き戻された。
「いくぜメイルナ! 【ディフェンド】だ!」
『ナナナ!』
言われたメイルナというらしいサスピリは、盾を正面に構える。と、全身にバリア的なサムシングが張られた。
「どっからでもかかって来い!」
『ナー!』
「見るからに防御姿勢的なサムシングですが、まぁせっかくですので……」
とりあえずお試しがてら、私は【タックル】を選択。ショウ・ラピア氏が体当たりを仕掛けるも、当然のようにバリアにはじかれた。
数値を見る限り、相手の体力もこちらの体力も減っていない。
「物理に関しては完全防御的なサムシングですね。しかし初戦の相手にそれとはなかなかこすっからい」
『……ふむ、一つアドバイスをしよう。あのサスピリ、状態異常には掛かりにくい種族特性を持っている』
「と く せ い」
なんというか、いろいろと大丈夫なのか心配になるのですが……。いや、メタ的なサムシングはおいておいて。
『別に変な話ではない。鎧に覆われている以上は状態異常系統の攻撃を受けづらいということだな』
「あー、まぁ見た目とか種族から判断できそうなサムシングということでしたら、それはそれでいいんでしょうねぇ。いいってことにしておきましょう」
自分たちの会話をよそに、こちらに向けて指をさすボビー少年。
「メイルナ、【スラスト】!」
名前からして明らかに攻撃系統のコマンドだ。とりあえずこれで相手の手の内は割れた。
盾の構えを解くと、バリア的なサムシングが消える。代わりに槍の先端に突撃槍的なオーラが纏われて、そのままショウ・ラピア氏に攻撃を仕掛けてきた。小さな見た目の割に、意外と早い――――。
「よけれます?」
『造作ない』
もっとも回避などはショウ・ラピア氏の方が上手なのか、ぎりぎりまで迫ったタイミングでひらりひらりと右往左往し躱されるメイルナ。いらだっている様子のボビー少年には悪いけれど、こちらも初戦なので色々やらせてもらおう。
「ショウ・ラピア氏。【縛呪】お願いします」
『承知した』
ショウ・ラピア氏の目が怪しく光ると、それを直視したメイルナは一瞬硬直。どうやらある種のスタン効果があるらしい。
「く、【ディフェンド】だ!」
『ナ……っ』
おや? メイルナがボビー少年の指示に対して、ぎくしゃくして動きづらそうである。見る限り軽くしびれているような、金縛りにでもあっているような……。
「状態異常にかかり辛いのでは?」
『かかり辛いこととかからぬことは一致するわけではないぞ、貴公』
「なるほど」
中々現実的な話だった。サイコロも一番出やすい目は物理的には1だというのに、実験したら6が最も多かったとかそんな話もあったような、なかったような……。実践してみると、加味するべき条件が色々異なるというのもあるのだろう。
「でしたら続けて【毒呪】お願いします」
「応」
ふたたびショウ・ラピア氏の目が怪しく光る。ただ今度は色が違う、紫っぽい。
そして、それを浴びたメイルナの全身がほんのり紫っぽくなった。
【メイルナ 修練度:5/99】
【体力:45/50】
減少は十分の一か。これまた嫌に現実的な……。
と、時間が経過したせいかメイルナの動きがわずかに戻る。
「【スラスト】だ!」『ナ……!』
「【タックル】お願いします」『是非もなし』
動きはやはり、わずかにメイルナの方がショウ・ラピア氏より早い。しかしショウ・ラピア氏も黙ってやられるばかりではない。状態的には正面衝突するような形になり、ショウ・ラピア氏の体(体?)に一撃。しかしその反動で回転しながら、メイルナ本体にも一撃与えた。
【ショウ・ラピア 修練度:5/99】
【体力:28/43 経験値:0/100】
威力は15か。ショウ・ラピア氏の体力からすると中々大きいダメージだ。
一方、ショウ・ラピア氏の方が若干威力が慎ましい。
【メイルナ 修練度:5/99】
【体力:32/50】
紫色、おそらく毒状態のようなサムシングは解けていないので、お互い弾かれ体勢を立て直したところでメイルナの体力は27に。
「だ、大丈夫かメイルナ」
『ナナ……!』
「まだいけますか? ショウ・ラピア氏」
『ちょっと疲れてきたな……』
「二人とも、がんばってー!」
リッカ嬢の声援に、燃え滾り立ち上がるボビー少年とメイルナ。
ああいうのを見ると自分も初期手持ちのサスピリはメイルナの方がよかった、と思わされてしまう。まぁそうはいっても、ショウ・ラピア氏には彼にしかできなことが多くあるので、望むべくもなしだ。
「メイルナ、【スラスト】!」
「引き続き【タックル】で」
先ほどまでと同様にぶつかり合いとなるので、体力はお互い13と12。三分間ウルトラ的なサムシングの限界タイマーサイレン的なサムシングが聞こえるような、聞こえないような。赤信号な残り体力。
最終的な体力勝負は、毒状態があるため相手の方が不利。もっとも毒によるダメージ判定は攻撃が終わってからのようなので、そういう意味ではショウ・ラピア氏の方が不利だ。
こういう判定がどのタイミングで出るか分からないのだけれど……。
「引き分けにしませんか? これ」
流石に手持ちが一体もいない状態になってしまうのは、ある種のゲームオーバー的なサムシングな気がする。下手するとそのまま自宅まで転送とか、そういうサムシングも発生するかもしれない(発生しないかもしれない)。どちらにせよ学校に行く途中で引き起こすには面倒な事態なので、止めようと提案をするのだけれど。
「なんだ、おじけづいたか! じゃあ俺の勝ちだ!」
「……それもそれで何か嫌ですね」
若干、自分も浮かれて童心に帰っているらしい。そういう煽りをされると、戦うのもやぶさかではない気になってくる。後方では声援を送るリッカ嬢も気にした風ではないので、あきらめて再び同様に指示を出した。
ところが、こういうのも実践してみないと分からないことだというべきか……。
『ナ…………!』
「ど、どうしたメイルナ!」
どうやらサスピリにおいては、状態異常は複数重ねがけができるらしい。毒にくわえて、実は金縛りも溶けてはいなかったようだ。びびび、と唐突にメイルナの動きが鈍く、おそくなる。
そのままショウ・ラピア氏のタックルが決まり、メイルナはごろごろ吹っ飛ばされる。
そして魔法陣が展開し、その姿が掻き消えた。
拡大されていたバトルフィールドが解除されたのか、道路とかの幅が元通りになる。
「あ、あ、う、うそだろメイルナ……」
「あー、まぁ、今回はドンマイということで」
「う、う、うわああああああああああああああああ―――――ん!」
「ええ……」
別に対価が発生する勝負ではないのだろうけど、負けた悔しさからか、好きな子に格好悪い所を見せてしまったせいか、ボビー少年は顔をくしゃくしゃにして泣きわめいてしまった。
嗚呼ほら、そんな服の袖で鼻水を拭かない。色々と王子様ルックスなんだから、台無しでしかないというのに……。
「ご、号泣するボビーくん、かわいい……」
「『!?』」
そして、なんだかアレな発言をかまし頬を赤くするリッカ嬢に、自分とショウ・ラピア氏は思わず振り返った。