003.幼馴染はライバルになるかも的な例のアレ
初投稿です(大嘘)
久々のポケット的なサムシングにはまったついでに、せっかくだからオメガルビーに手を出したのが失敗だったのです。どっちもはまるはまる時間消える消える...
久々にスクール、学校への登校である。
私からすれば登校初日だが、「僕」からすれば慣れた学校だ。まぁ校舎自体はいわゆる昔からある小学校とか、そういう類のものではない。どちらかといえば予備校とか、その地下に運動施設があるとか、そんなイメージが適切だ。明らかに近代的な建物である。
ともあれそんなスクールに通う私の恰好はといえば、別にこれといって複雑なものではない。パーカー的なサムシングにジーンズ的なサムシング。スクールも別に制服があるわけではなく、私のように適当な格好をしているのも多くいるわけだ。
唯一地球と違うことがあるとすれば、スマホなどの携帯端末の類がないことと、腕時計型のデバイザー、サムワンスピリッツの召喚機を渡されたことくらいか。
「これは……? なんでデバイザー?」
困惑する私に、母親は「そういえば記憶が混乱してる的な話してたかしら~」と少し考えるそぶりをした。ちなみに「僕」というかツルギの母君だが、僕の外見にもれず線の細い美人さんである。ただ黒髪なものの容姿はヨーロッパ系的なサムシングなので、東洋人的な顔立ちは父方の血だか。
それはともかく、このデバイザーである。
腕時計状のそれの文字盤にあたるところに、ダイヤルのつまみ的なサムシングがついており、手の甲に向かうあたりの箇所にランプ的なサムシングが一つ。
サスピリは最大五体までの持ち歩きが可能(デバイザーに登録できるサスピリが最大五つというのが正解らしい)らしいので、本来ならランプは五つあるはずだ。
しかしこの装置は特別性なのか一つのみである。
「八歳になったらダイ・ラピアを扱い慣れるために、早々に契約をするっていうのを前に話してたのよ。ほら、お父さんも手持ちのサスピリにもダイ・ラピアがいるのよ?
だからツルギも今度貸し出してあげるって話をしてたのよ、前に」
「へぇ……、貸出し?」
「契約のまた貸しよ。うちはお爺ちゃんとお父さんがダイ・ラピアと契約してるけど、ツルギはまだ契約できないのよね~、年齢的に。だから保護者がまた貸し」
なるほど。つまりは親のペットを伴って、的なサムシングか。
「とりあえず召喚なさい。後はそっちから話してもらった方が早いと思うわ」
最低限の情報を言うと、私を家の外に送り出す母。
特に抵抗するようなサムシングでもないので、私はデバイザーのダイヤルを回した。
つまみの上部に描かれた妙な文様の矢印が、ランプのある個所に描かれた矢印と重なる。図としては二つの矢印が向かい合う形だ。と、ランプの光が更に強くなり、脈動するように一定のリズムビートが流れる。いわゆる召喚待機音というやつであるらしい。
ここから何かしらのモーションを伴うことでサスピリを召喚できるのだが、このあたりは人のセンスによるだろう。特に決まった形はなく「これで、召喚!」と本人が想えばノーモーションで出来るらしい。
なので別にモーションを極める必要はないのだが、これも一つの文化なのか大半のサスピリ契約者は、何かしらモーションを決めており、毎回召喚時に極めている。
例えば我が祖父は青龍刀型のデバイザーなので、軽く舞うように宙を切ってから地面に叩きつける。父は父で腕時計型のデバイザーの上を軽くタップするような動作をしていたか。
「…………」
無難な、という訳ではないが私も適当にポーズをとる。なんとなく両手を合わせ、右手のひらを地面に向けた。
すると、どうだろうか。謎の赤いエネルギーの奔流が走り、私の向けた手元の先に魔法陣的なサムシングが形成され、そこから何か得体のしれないものが現れ始めたではないか―――――。
いやおかしい、ダイ・ラピア氏ではないのか? 先ほどの母の話しぶりからしてそうであろうと思っていたのだが、私の眼前に現れたのは直径1メートルは超えているだろう球体だ。ただ質感は生物的なそれでなくダイ・ラピア氏のそれと同様。
そして不意にぐるぐる空中で回転し、ぎょろりと目玉が一つこちらを見た。コワイ、
『―――― 一週間ぶりか? ザンコウの孫、ツルギ・クジョーヒトモジよ。改めましてである』
「その声、ダイ・ラピア氏?」
『この姿の私はショウ・ラピアである』
ショウ・ラピア……、小ラピアってことだろうか。
ダイ・ラピア(大ラピア)に比べて明らかに大きくなっているんですがそれは。
しかし見た目の姿は違うものの、浮かぶこの名状しがたい生物的なサムシングはダイ・ラピア氏のそれで合っているらしい。一体どういう事だろうか。疑問を話してみると、姿の違うダイ・ラピア氏は納得したように頷いた……まぁ頷いたというよりも、本体が前方方向に何度かぶんぶん回ったといった方が正解だが。
歩き出すと、私のすぐ真上に浮かびながらついてくるショウ・ラピア氏。なんだか不気味である。
『そのあたりの知識は、もともとなかったのだろうな。いいだろう、私が直々に教えよう』
「ど、どうもです……」
『そもそも貴公は勘違いしている節があるが、サムワンスピリッツとは精霊のようなものである。故に我々は固定した実体を本質的には持たない』
「ええっと……? 実体がないって、物理的に存在しないということでは」
『そういう意味ではない。「固定した実体」とはこの場合、つまるところ生態ということだ』
ますますおっしゃられる意味が不明である。
『サムワンスピリッツは、サムワンスピリッツごとに生態が大きく異なるということだ。例えば貴公の母が使っているマンドーレを思い浮かべよ。我と大きく生態が異なるだろう』
マンドーレとは、端的に言うとマンドレイク的なサムシングである。もちろん実在の植物としてのそれではなく、ファンタジー小説などに使われる、人の形にも似た根を持つ抜くと叫び声をあげるアレだ。
もっとも当たり前のようにデフォルメされた姿かたちをしており、全然泣かない。そして召喚されると、土に埋もれる性質を持っている。どうやらそうすることで自らの入った土の環境を変化させる性質があるとか昔、母から聞いたような覚えがあるが、そのあたりは割愛。
まぁこれを端的に言ってしまえば、ダイ・ラピア氏のような知性を感じさせるそれではないということだ。「僕」の物心ついたころから家にいるあのマンドレ―は、昔っから母親に小規模な庭の畑の土壌改良用に使われているばかりで、特に一日中寝て「まー」だとか「れー」だとか鳴くばかりである。人間のようなコミュニケーションを図ることは厳しい。やはりペット的なサムシングにおさまっているレベルだろう。
『彼奴は個体ごとのタイプである。それぞれが独立したライフサイクルをもっている。対して我は魔に属する故、統括契約タイプである』
「造語作るの止めてもらえませんかね」
『む? ふむ……。つまり、貴公のかつていた惑星で例えるなら、悪魔の契約のようなものだ。我という本体に対して契約をすることで、それぞれ異なる形で意識を表出させる。姿かたちは異なるが、その場合はどれも我である』
「わかるような、わからないような……」
つまりダイ・ラピア氏であれショウ・ラピア氏であれ、意識は同じものであるということか。本体たる意識が別に存在していて、それを遠隔操作してるようなサムシングだろう。
『おおむねその理解で問題はない』
いや、これ以上の理解は正直不能である。
もっとも、おそらくダイ・ラピア氏の言ってるそれは「私」にない概念なのだろう。
伊達に魔、デモン族を名乗ってはおるまい……と、今更ながらにこんな五芒星型をした悪魔がいたような、いなかったようなという記憶が脳裏をよぎる。
それはともかくとして、契約できないとはどういうことなのだろうか。
『法律の問題だな。最低限スクール卒業するくらいの年齢までは、一人前と認められないとうことだ。デバイザーにもそれを判定する仕組みがある』
「なるほど……」
お酒みたいに解禁される年齢が決まっているということか。
さて、そうこう話しているうちに私は街を抜ける。
スクール自体はかなり近代的な建物様式を持っている的なことを先ほどいったが、そんなものがこのホームタウン的なサムシングたるこの町にあるかといえば、そういうわけでもない。
必然、我々子供たちは隣町まで毎日遠征に出掛けているわけだ。
別に仰々しいことがあるわけではないが、しいて言うと注意書きとして「公道以外の草むらとか水辺は歩くべからず」と注意書きがあるくらいだろう。
『道中、くさむらとかでも我々サムワンスピリッツに襲われる可能性があるからな』
「それはまた……」
ランダムエンカウント、特定の場所でランダム条件で敵対者と遭遇するサムシングか。
シンボルエンカウント、特定の場所に徘徊する敵対者にぶつかったり追われたりするサムシングか。
どちらにせよゲーム的というか、やはり恣意的な世界観である。
「とはいえ、普通に歩いている分にはその危険性はないとみえますかね」
通学路にもなっている大通り(田舎町の山下りの通りといった風情なので、舗装されてるようなものではない)を歩く上では、寄り道さえしなければそういったサムシングに遭遇することはないだろう。基本的にくさむらにならない程度に除草され、また踏み固められている。もっとも完ぺきとは言い難いところもあるのだけど、この程度は誤差の範囲だ。
そして左右を見渡せば、木々の間の山道めいたそこはがさがさと何かが動いている気配がある。輪郭がうっすら見えるような、見えないような。どちらにせよ定命の生物のそれではないだろう。
『我々にも紳士協定みたいなものがあるのだ。子供が十二歳を超えるまでは、極力手出しをしないという。イエス、ノータッチとかいう奴だ』
「どのあたりが紳士なんですかねぇ」
ショウ・ラピア氏の声で言われると、事案の類に聞こえてしまう。ちなみにだが、そこそこ良い年した私より一回り世代上のオッサン世代の声音である。
と、歩いているさ中に声をかけられた。おはよー、という能天気そうな声は、それに違わぬどこかふわふわした、地に足のついてない雰囲気の女の子だ。ジャージ姿に足をしゃこしゃこ動かしてるあたりから、いかにもスポーツ少女といった風情である。
名前は確か――――。
「おはようございます、リッカさん」
「おはよー、ツルギくん。……って、なんで敬語?」
私の口調に頭をかしげている彼女は、リッカ。「僕」の幼馴染の一人であるらしい。
見た通りの運動大好き、泥んこなんのそのといった感じのサムシングだが、道中で遭遇するのは割合珍しい。確か陸上競技の部活に所属していたはずなので、本来なら朝練に出ていてしかるべきだ。
そのことを聞くと、彼女は照れたように。
「いや……、死にかけたって聞いたから、大丈夫かなーって思って」
「顔見せ的なサムシングですか」
「さ、さむ……? と、とりあえずそんな感じ」
「そうですか。わざわざありがとうございます」
「う、あう……」
微笑みながら頭を下げると、どうしてか言葉に詰まるリッカ嬢。
む? この反応、親戚の小さい子が年上のお姉ちゃん好き好きって態度に似てる気がする
いや、まぁこの年代ならそういう話もたまにあるような、ないようなというサムシングか。大して気にするようなサムシングでもないだろう。
「遅刻する時間ではありませんが、学校に向かいましょう。リッカさんも早く練習に戻った方が良いでしょうしね」
「う、うん。……なんか、こう、なんだろ」
「?」
「お、お、大人っぽくなった……?」
確かに「僕」単体と比べると、別人のようなサムシングではあると思う。
ここで「僕」であるなら、リッカ嬢に変なポーズとギャグをかまして苦笑いされるのがオチのはずだ。
まぁ実質、中身がオッサンに入れ替わっているようなものなので。あまり誇れるようなサムシングでも何でもないし、話せるようなサムシングでもないのだった。
「まぁ死にかけましたからね。人間、一皮むけました」
「死にかけるとそんなになっちゃうんだ……。脱皮するんだ……」
「いえ、一皮むけるは慣用句。比喩というかものの例えというか、そんなサムシングですよ。それに、あくまで私の場合はということですね。誰でもいきなりこうはならないと思いますよ?」
「そう……。あ、そっちのサスピリは?」
『うむ。ショウ・ラピアだ。ツルギ共々、よろしくである』
「うわー、しゃべるやつだ! すごーい! よろしく!」
年相応ということなのか、なんとも純朴なリアクションだった。
微笑ましく思い表情にそれが出ると、やはりというべきか赤くなるリッカ嬢。まぁ「僕」自体は確かに、ちびっ子とはいえそれなりに悪くない見てくれではあるだろう。でも、それにしてもチョロすぎやしないだろうか。
いや逆説として「僕」に元々好意があったのだろうか、この少女。いくら何でも自意識過剰なサムシングであるが、そのあたりの見極めは大事だ。
なにせ、幼馴染はもう一人いて。
「――――ツルギ! 精霊戦しようぜ!」
こうして目の前に突如現れ、自分を目の敵にしてくるこの少年。ボビー君はリッカ嬢が好きで好きで仕様がないのだから。