第五話 ナポリタン
家まで帰ってきて、これから料理です。
~ 19:30 自室 ~
村上が先に部屋に入ってしまったのを見て軽くため息をついた俺は、後に続いて部屋に入る。
朝は兎に角一杯一杯で、落ち着いて室内をよく見る時間も無かったけど、多分出た時と変わらない筈…。
軽く部屋を見回すと、村上が帰ったら一度隅々まで全て確認する必要があるな…。
そんな事を考えながら、買って来た食材を流し台に置いた。
村上は座卓にビールを置き荷物を壁際に置き、上着を脱ぐと空いているハンガーを目敏く見つけて掛けた。
「ちょっと洗面所借りるね」
腰を下ろしてゆっくりするのかと思ったら、流し台の側にいる俺に一声かけると、勝手知ったる他人の家といった風に俺の返事も待たずに洗面所に行ってしまった。
ちなみに、洗面所は脱衣所でもあり洗濯機もあり、風呂場でもある。
特に、見られてまずい様な物は置かれていないと思うけど…。
ややすると、村上が戻ってきて座卓の側のクッションに腰を下ろす。
そしてにっこり微笑みながらこちらに声を掛ける。
「お腹空いたねー」
これは、暗に催促しているのか…。
村上の動きに気を取られて、少し気持ちが散漫になって手が止まっていた俺は、レジ袋から食材を取り出すと、冷蔵庫を開ける。
性差による食生活の違いか、中身が結構違っていたけど、調味料やバター等は俺が使っているものが俺が置いてある位置にそのままあった。
やはり、性別が違っていてもこのあたりの癖の様な物は変わらないのか…。
上着を脱いでハンガーに掛け、台所に掛かっていたエプロンを付けると料理開始。
冷蔵庫からまずバターとニンニクを取り出す。
玉ねぎの皮をむき必要な量を切り分けると薄切りにして、ピーマンは細切りに。
ソーセージも三等分斜め切りにしてそれぞれを別に置いておく。
次にパスタを茹で始める。塩を少々、それに表示より一分程度短く茹でるのがコツ。
ニンニクをスライスにすると、フライパンにオリーブオイルを入れてそこに投入。
並行してスキレットを取り出して熱し始める。
別のフライパンで玉ねぎを炒め、ソーセージ、ピーマンの順に追加して炒める。
塩コショウをして、ケチャップをたっぷり投入。さらに隠し味にウースターソース。
勿論、ケチャップはハイ〇ツ。
更に茹で上がったパスタとバターを入れて炒める。
熱したスキレットに先ほどのニンニクを入れたオリーブオイルを敷いて、溶き卵を流し込む。
溶き卵が固まり切らないうちに、炒めたパスタをそれぞれに投入して出来上がり。
気が付けば軽く鼻歌交じりに料理していた。
ふと村上の視線に気が付いて、笑顔でごまかすと配膳に取り掛かる。
鍋敷きを二つ座卓に並べると、スキレットにハンドルカバーを付けて並べる。
そして、フォークにスプーン、それにパルメザンチーズとタバスコを座卓に置いた。
ビールには手を付けず、ずっと料理しているこちらの姿を見ていた村上が俺が座ったのを見て声を上げる。
「料理してるの見るの二度目だけど、相変わらず手際が良いね。
スキレットとか使って本格的だし、喫茶店のナポリタンみたい」
「はは…。意外に簡単だよ…」
「またまた、謙遜して。
カオルの良くないところだよ其れ」
そ、そうなのか…?
確かに…。
心の内は兎も角、どうも気恥ずかしいのが苦手で、いつも謙遜してる様な気がする…。
女の俺もそうなのか…。
「あはは。
熱いうちに食べよ」
思わず照れ笑いすると話題を戻して、パルメザンチーズをふり掛け、ナポリタンを食べ始める。
うん、まずまずかな。
香ばしく、そして良く絡んだケチャップの甘味と酸味。それらを包み込む卵。
俺が好きなナポリタンだった。
途中でタバスコを追加して味に変化を持たせ、あっという間に完食。
昼食時に身体の違いで懲りたので、普段の量の半分にしたが丁度良かった。
全部食べ終わって、ふぅっと一息ついて、ふと村上の方を見るとまだ半分くらいしか食べておらず、こちらを呆気にとられた表情で見ていることに気が付いた。
「カオル、お昼苦しそうだったのに、豪快な食べっぷりだね。
そんなに豪快に食べてるの初めて見たよ。
お腹空いてたの?」
え?いや、そこまでお腹は空いてなかったんだけど…。
食欲をそそるナポリタンの魔力につい…。
「そ、そうなの。
お昼沢山残したからかな?」
極力、女っぽく話してみたけど…。
内心お姉言葉は違和感ありまくりだった。
「確かに、お昼一杯残してたもんね。
美味しそうに食べてるし豪快で見てて気持ちよかったけど…。
男の人が食べてるみたいに見えたよ。
あはは」
「あはは」
うわあ、食べた方にも気を付けなきゃいけないのか…。
これ、村上だから多分言ってくれてるんだろうけど、他の人だとただ下品だと思われるだけなんだろうな…。
女の俺スマン…。
「あ、そうだ。
ビールぬるくなっちゃう。
ナポリタン美味しいからつい忘れてた」
そういうと、村上が一本渡してきて、自分の分をプシッと開けて、こちらを見てくる。
あ、乾杯か。
俺も開けると村上が音頭を取る。
「お疲れ様。
カンパーイ」
二人で乾杯するとグビグビっと飲む。
ビールは飲めるんだけど、お酒はそんなに強い方でもないんだよな…。
女の俺はどうなんだろうか。
そう思ったら、割と回って来た…。
そんな俺をみて村上がニッとほほ笑むとナポリタンに戻る。
そしてナポリタンをフォークとスプーンで器用に綺麗に食べながら話しかけてくる。
「やっぱり、カオルのナポリタン美味しいよねえ。
前に食べた時も美味しかったけど、さらに美味しくなってる気がする…」
自分的には美味しく出来たと思うけど、あくまで俺好みのおいしさだから、村上にも美味しいのか内心冷や冷やしていたけど、どうやら美味しかったようだ。
「そ、そう?
喜んで貰えて良かった」
「うんうん、ナポリタンしか食べた事はないけど、普段持って来てる弁当も美味しそうだし、絶対カオルって料理上手だよね。
カオルをお嫁に貰う男は絶対幸せ者だよー」
「ははは…」
嫁に行くとか、あり得ないぞ…。
と、反射的に考えて、ふと。今自分が女の身体だと思い出す。
そうか、女の俺だったら全然あり得るのか。
今独身なのはわかるけど、女の俺って彼氏とか居るのかな…。
そんな事を考えたところで、もし居た場合、どうしたらいいんだ俺…。
男とキスとか絶対無理だし。顔が近づいてきた段階で突き飛ばす自信ある。
村上が美味しそうに食べてるのを見ながらそんな事を考えていたら、村上も食べ終わった。
俺は早速と食器を下げて汚れ物を洗い桶に浸ける。
ふと、エプロン付けたままなのを思い出して、エプロンを外し元の処に掛けた。
で、座卓に戻って座る。
さて、本題…かな…。
緊張してくるのでビールをグビっと飲んで気持ちを落ち着ける。
村上もそんな俺をみて、ビールをまた一口。
「さて、カオル」
「はい…」
「話してくれるわよね?」
俺は緊張のあまり思わず生唾を飲み込む…。
村上の有無を言わせない視線が俺に突き刺さる…。
一先ずナポリタンは美味しかったようです。
しかし、本題はこれから。




