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第四話 帰宅

仕事が終わって家路につきます。

行きと違って帰りは少し余裕があるので色々考えます。





~ 18:40pm 電車の中 ~



電車の中、村上は気を使っているのかそれとも考え事をしているのか、特に話しかけて来たりということは無く、隣に立ってただ車窓を眺めていた。


俺はそんな村上の様子を横目で気にしていたけど、話しかけてくる事も無かったので同じように車窓を眺める。


この時間になると既に外は薄暗く、社内は明るいため車窓が鏡の様に中の様子を映し出す。勿論、その前に立っている人も良く映る。


車窓に映し出された俺の姿は、今じっくりと見ても一目見れば俺だとわかる顔立ちをした女の俺だった。


まるで現実味の無い光景に夢でも見てるような気分になる。


夢なら目覚めて面白い夢を見たと笑えるのだけど。


村上にどう話すべきか…。


現実的に、こんなことが起こるなんて、俺でも信じられない。


信じられないからこそ、自分の記憶すら信じられなくなってくる。

こんな事、起こるわけがないと普通考えるから。


だって、この身体は女であることは間違いないし、車窓に映し出される顔は見慣れた俺の顔だ。ただ、俺の記憶と違うのは女であること…。


よくある入れ替わり物のラノベじゃないけど、並行世界の女の俺と入れ替わったと考えるのが俺的には一番しっくりくる。


俺がこれまで男として生きて来た記憶が作られた記憶だとはとても信じられない。


幼稚園の頃から今に至るまで、克明に記憶しているのだから。


しかし、現実的にはこんなことは起こり得ない…。


だけど、本当に起きたのだとしたら、女の俺は男の俺の世界で、俺と同じように男の俺の身体で目を覚まし、今日は朝から戸惑い大変な目をしているのだろうか。


男の俺の世界はこの世界の村上の様に、近藤という頼れる男がすぐ隣にいるから、うまい事フォローしてくれてると思うけど…。


でも、女の俺とは違い部屋に誰か呼んだことは無いし、あまり男の場合同僚の家に遊びに行くっていう事もしないからな。


家まで面倒見よく付いて来てくれるなんてことは無いと思う。


この世界で俺が高宮さんの優しさに戸惑ったように、男の俺の世界の高宮さんの対応の違いに戸惑いを覚えるのだろうか?


そう考えたところで、思わずため息が出てしまう。


今、俺の世界に居るだろう女の俺の事を心配したところでどうしようもない。


兎も角、いつ元に戻るかわからないが、女の身体でこの世界で戻れる日まで生きていくしかない。


酔った頭での事とはいえ、これは俺が望んだこと。


女だったならどういう人生なのか、じっくり見られる稀有な機会じゃないか。


そう考えると、ふっと少し気持ちが軽くなった。



車窓に映る女の俺に、思わず心の中で話しかける。


村上にどう話そうか…。





~ 19:00pm 駅前 ~



駅を出ると村上が話しかけて来た。


「じゃあ、行こうか。

 その前に、晩御飯買って行こうよ。

 

 私、前に食べさせてもらったカオルお得意のナポリタン食べてみたいな」


ナポリタン…。


得意というほどではないけど、確かに好きだから良く作る料理ではある。


女の俺は村上に食べさせたことがあるのか。


俺は他人に俺の料理を食べさせたことは無かったと思うから美味しいかどうかなんてわからないな。


女の俺が俺より料理が上手かったら、村上はがっかりするんだろうか?


とはいえ、今日は村上に散々世話になった。

ここで期待に応えない訳にもいかないか…。


「うん。わかった。


 そこのスーパーに寄っていこうか」

 

「やった!

 カオルのそんなところが好きだよー」


村上は素直に喜び笑顔を浮かべ、抱き着いてくる。


おおぅ。俺は突然抱き着かれて思わずパニックを起こしそうになる。


俺は女俺は女俺は女。


魔法の呪文を頭の中で念じて気持ちを落ち着ける。


「ア、アハハ。ガンバッテツクルヨ」


頭の中で思いついた女の子が返しそうな返事を言葉にして並べた。


しかし、テンパってるから変な感じで再生された。


「ふふっ、なにそれー。

 やっぱり今日のカオルって変だよね」


そういって、笑う。



俺は何とか笑ってごまかす。


程なくスーパーに到着し俺はナポリタンの材料を、そして村上はビールを買ってきた。



買い物を済ませると、一路俺が住んでるマンションへ。


やはり、村上は俺の家に来たことがあるようで、ずんずんと俺のマンションへと歩いていく。


マンションに入ると村上が話しかけてくる。


「このマンション来るの久しぶりだよね。

 前来たのはいつだっけか、一年半位だっけ?」

 

「そ、そうだっけ」


「確かそのくらいだよー。

 

 あの時は会社の飲み会で終電逃して帰れなかったから、本当に助かったよぉ。

 やっぱり、二次会参加は危険だよね」


二次会…、ああそういえば一年半くらい前の会社の飲み会で普段ならそれで終わりなんだけど、すごい盛り上がって二次会に突入したことがあったっけ。


あの時は、俺は普通に電車で帰えれたけど、女子達はどうしたっけかなあ…。

高宮さんがタクシーで帰したんだっけか。覚えてないな…。



「あはは。そうだね」


今は話を合わせておかないと…。


「312っと、ここだよね。カオルの部屋」


部屋に着いてしまった…。


「う、うん。そこ。

 

 今開けるね…」

 

トートから鍵を探し出すとガチャリと開ける。





~ 19:20 自室 ~



そして、部屋に入ると、朝は気づかなかったけど、明らかに俺の部屋と違う事が一つ。


部屋の匂いが違う。…女の匂い…なのか?


明らかにそれは昨日までの俺の部屋の匂いでは無かった。


臭いとかそういうのではないのだけど…。


こう、他人の家にお邪魔した時に感じる匂いの違いというのを感じた。


男と女で明らかに違うのだから、それは当たり前と言えば当たり前なのだけど…。


自分の部屋に入って匂いの違いを感じるのは…。


恐らく、直ぐに慣れるとは思うのだけど…。


ちょっとショックだった…。



村上はというと、俺が部屋に入ると、勝手知ったる他人の家とばかりに。


「お邪魔しまぁす」


と、俺を抜いて部屋に入ってしまった。



俺はそんな村上を見て軽くため息をつくと後に続いた。






村上貴子と部屋まで戻ってきました。


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