シンプルにしてあげる
※姫川水樹の視点です。
千年以上前に存在していた人がここにいる。
「懐かしくなって追いかけた」
認めてはいけない。肯定してはいけない。
「それほど似ていたってことだ。違うかい?」
相手から問われても応えちゃいけない。
自分がどうなるか分からないのなら、知らないと首を横に振れ。
災厄な状況を自分で作るな。想像するな。竦んでしまう。
「ボク、思い出話をしたいだけなんだよ。退屈で暇なんだ、盲目のお姫様」
「無視しないで。お喋りしようよ」と僕に話しかけ続ける。
「はぁ、仕方ない。君の代わりに他の子を見つけてこようかな~」
「ッ……」
黙ったままでいると床に頬をつける僕の顔をグイ、と上げてきた。
「口ってさ。無くてはならないものじゃない?
ご飯を食べたり、呼吸をしたり、何かを伝えたり。目と耳と同じで必要な穴。
それって人でなくても同じでね。
口が無ければ貪ることも、惑わすこともできない」
指で唇をなぞれ、ゾワゾワする。
「ボクはね、口を重ねると伝わってくるんだ」
「何を、言って……」
「ん? 君の記憶を覗かせてもらうよ。
君の代わりに暇つぶしになってくれる人をさがすんだ。家族がいいかな? 友達がいいかな?」
唇に生暖かい息がかかる。間近に顔があるのだ。
「やだ…やめて……」
頭を押さえつけられ、逃げ場のない僕はその行為を受けるしかなかった。
唇を触れらている間、頭の芯をザラザラと気色の悪い舌で舐められた気分だった。
「げほ、げッ……」
唇が解放され、喉の奥から嘔吐く。
「君……お友達、少ないんだね。家族とも仲良くなさそう………生きてて楽しい?」
憐れみであったり、嘲笑であったり。
受け取る側次第ではどっちでも受け取れる台詞だ。
でも、相手からはどっちも感じない。
純粋に楽しそうに他人の傷口を抉ってきた。
「あ、でも、あの子とはお友達なんだね。え~っと…神代 光くん!
昔と同じだね。あの頃と変わらなくて嬉しいなぁ」
「ゴホ……と…友達じゃない。そもそも、僕はアイツとは違う。一緒にするな」
「ん~? 君は今世と前世は別だと思ってるタイプ? ボクからしたらどっちも同じだよ。盲目のお姫様」
「僕は盲目の姫ではない。僕は……」
自分の名前を言うとして口を動かすが。
(名前……自分の名前が思い出せない…………)
はくはくと金魚みたいに口を開閉するだけだった。
「認めくないんだね。認めたら自分じゃなくなるかもしれないものね。怖いよね、分かるよ、その気持ち」
同情しているかのような台詞が落ちてくる。
「片方だけになれば怖くなくなるよね。
どっちが本物の自分かって考えないように壁をとってあげる」
「やめ…………」
叫び声をあげる前に僕の意識がブツリと切れた。
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ざあざあ、と暗い雨雲の下で傘をささず立っていた。
冷たい雨に打たれ、続けた髪が重く寒くくしゃみをひとつすると。
「こんなところでなにしてんや! ◼️◼️◼️!」
こっちに向かってくる人影が目の端に映った。
反射的に近付いてくる人の方を向く。
「お前、今までどこいっててん」
『あたし』に向かってその人は言った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!




