後ろ髪に惹かれる
夕暮れ。急いで階段を駆け下りる。
電気がついていない廊下と階段は夕日で赤く染っているが、暗い。
いや、影があるのだ。夕日が射し込まない床は暗く不安定な気分にさせた。
階段を上る女子生徒と擦れ違った。
一つに結った綺麗な黒髪はゆさゆさと揺れながら二階へと上る姿を目の端に映る。
「…………」
あれ、とその場で立ち止まる。
何かに惹かれるように振り返り、階段を見上げた。
(誰もいない)
曲がったのだろう。足音も聞こえず、最近から誰もいなかったみたいに静かだった。
(見たことあるような……?)
気のせいか。すぐに思い出せなかった僕はげた箱に向かった。
「遅くなってごめん」
げた箱前に立つシン兄ちゃんに声をかけるとその陰から「あー……ヨッ!」とスバルが顔を出した。
「スバルも残ってたんだ」
「うん。まぁな」
普通に話してはくれるけど、以前より距離を感じる。
はっきりとは避けられてはないが、なんとなく気不味い。
「それよりお前は忘れ物を取りに来たんだろ?」
「そうやったわ。じゃあ、明日な」
「うん。またね」
シン兄ちゃんに指摘されたスバルは校舎の奥へと足早に去っていった。
「どうだった?」
「あ……うん。すぐに終わったよ」
織部先生だったからクドクドと言われなかったよ。
「そっか。よかったね」とシン兄ちゃんは言った。
「あんなウワサ、気にしなくていいからね」
ぼんやりしている僕にシン兄ちゃんは落ち込んでいると思ったんだろう。
実際、沈んでいたし、合っているが。
「色々と。言われるのは慣れてるから平気」
でも……。
今、気にしているのは僕が『ウラマチ』に行っている噂ではない。
「姫川さんから返事がなくって…………」
連絡がこなくなって三日は経つ。
その間にも僕がウラマチを出入りしているという噂がおさまらず、先生の耳にも入ったようだ。
そして、今日の放課後に反省文を書かされた。
(なんで不安になってるんだろう)
すぐに返事をする人が一日経っても連絡がないと何か合ったのか、何かしたんじゃないかと自分は思い始めていた。
(姫川さんと会話するの。苦手だと思っていたのになぁ)
「今、忙しいかもしれないね」
そういえば前に塾に通い始めたとは言っていたっけ。
そもそも中学三年生が時々高校に通っているのが珍しいのだ。
受験生なのだから僕になんか関わらず、自分のためになることをした方がきっと良い。
でも、急に来て、急に去っていくなんて……ちょっと、少し、へこむ。
「みんな離れていくんだろう」
「ヒカル……」
ポツリと呟いた言葉にシン兄ちゃんは切ない目を僕に向かえる。
「違うよ。何か理由があるんだ」
自分のせいで離れているんじゃない、とシン兄ちゃんは僕を慰めてくれた。
(理由かぁ……)
『相手に直接訊くのが、一番です』
ふと、姫川が言った言葉を思い出した。
うん、聞いてみようかな。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
基本ストーリーは、ゆっくり進行なので読みたいところだけ読んでください。




