エン
※姫川視点です。
「あやかし退治なんてやらへんよ」
人受けが良さそうな笑みを横目に僕はため息をついた。
(バカにしてこなかったし……もういいや)
なかば自棄に近い心境で口を開く。
「僕の学校で今年で三人。人がいなくなっています。他の地域よりずっと多い。
小学生の時にもいなくなった子が何人もいます」
空席のまま何週間も置かれた席に気付いたのは小学生の時だった。
誰も気に止めないので急な転校かと思ったが。
「小学生の時、急にクラスメイトが学校に来なくなったんです」
何週間も教室にいなくて周りに聞いたらみんな不思議な顔で僕を見て言った。
「そんな子、知らないよ?」って。
そこで意地になって食いつかなければ、変人や虚栄癖がある子としてみんなから後ろ指を指されなかったかもしれない。
「誰に聞いても消えた人のことを分からないっていうんです。まるで最初から存在していなかったみたいに。みんなその人のことを忘れてしまったんです」
でも、僕は恐ろしかったのだ。
誰にも知られずに存在が消されてくのが。
「おかしいと知っていたから止めずにいました。ツクヨミなら何か分かるじゃないかって……それが理由です」
遠くを眺めていた視線を久瀬の方に向ければどこか嬉しそうな表情をして僕を見ていた。
「なんですか」と低い声音で聞けば。
「お前とは仲良くなれそーや」
「なれませんよ」
さっきの内容のどこに仲良くなれる要素があったのか。
「嫌われてんなー。ま、でも、同じものを視えて共通のものを認識できるんなら充分、仲良くなれるわぁ」
なりたくないんですよ。
確かにあやかし退治やら調査やらのお仕事しているようなので。
そういった類いを視えたり感じたりできる点において他の人よりは共通点がありますが。
胡散臭い笑顔を見るとなんか信用できないだよ、アンタ。
「よそと違って奇妙なことばっか当たり前に起こる。ここに住む人らはまったく気付かへん。お前の言う通り忘れてしまうんだろうな、友達も、家族も」
「忘れてしまうのは普通ではないでしょ」
「あーね。記憶の改竄と認識阻害ができるほどやからね」
「僕だってどこまで影響されているのか。アナタだって影響されてるんじゃないですか?」
僕の問いに久瀬はブランコから立ち上がって応えた。
「あー……そこは丈夫だよ」
「なんでそう言い切れるんですか?」
「所詮、俺はよそ者やからね。よっぽど強いヤツに出会わなければ影響されへん。
曲りなりにもとある筋の分家やからね。ここにもお務めで来てるワケやし」
「アンタって本当に何者なの?」
つい敬語が外れ、訊いてしまった。
「これ以上はまだ決心がつかへんから言えられへんよ」
久瀬は困ったように苦笑いつつ、言った。
「待って!」
休日の昼下がり。バスで15分ほど少し揺られれば繁華街に行き着く。
その日、僕はツクヨミの赴くまま女装をし、服や靴、アクセサリーと店を立ち寄り、女の子らしい休日を満喫していた。
「お願い、待って!」
人が混み合うアーケード内に点々とある抜け道へと曲がる懐かしい友人の姿を見つけ、名前を呼びながら追いかける。
「槐!」
どうして、過去。とっくに亡くなった友人がいるのか?
懐かしい友人との再会に衝撃を受けたまま走るツクヨミには疑問は届かない。
道を歩く人々にぶつからないようにアーケード内を駆け、抜け道を曲がった。
その先で僕達は、姿を消した。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。