ユメの君の方が眩しいのだ。
「いつまで……過去に囚われているんだ」
掠れた声で叫ぶ。
「僕は月読ではないんだ。こんな格好だって僕の趣味じゃない!」
誰もいない公園の公衆トイレ。鏡に写る自分の姿を苦々しく睨む。
床にウィッグを叩き付けそうになる衝動を抑えた。
(感情的になっても仕方ない。また買うはめになってしまう)
誰が使っているか分からない場所で投げ捨てれば家で洗わなくてはいけなくなってしまう。
風呂場で洗っているところを家族に見られたなんて言われるか分かったものではない。
出来る限りバレるリスクは避けたい。
それに洗ったとしても公衆トイレで落としたものを被りたくない。
「アー、もう!」
苛立ちを少しでも発散したく、ウィッグと制服(女子専用)を紙袋に投げ入れた。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「げっ」
学校から出てすぐ声を掛けられ、顔を見た瞬間につい本音が漏れた。
僕の態度に気にした様子もなく「よッ!」と片手をあげ、背中を預けたガードレールから離れこっちに近寄ってくる。
「奇遇やな」
僕の前に立った久瀬 昴はニヤニヤと人を小バカにした笑みを浮かべ、話しかけてきた。
「どこが?」
完全に待ち伏せしてたよね。
……いつも女装した僕がやってるから何も言えないけれども、こっちの『素』を見られるのはやっぱり気まずい。
「何しに来たんですか?」
隣のブランコに座っている久瀬に尋ねた。
僕の通う中学校から一番近い公園のため、同級生や下級生が時々、公園を通り過ぎるのが見えた。
「ただ会いに来ただけやん」
「ツクヨミと話したいんだったら、今そんな気分じゃないから」
「んー? 姫川に会いに来たんやけど」
「僕に?」と聞けば「お前に」と返された。ますます意味が分からなくなる。
目的もなく僕に会いに来る意味が分からない。
「あの子やろ。学校に来なかったの」
ふと聞かれ、久瀬の視線を辿ると同級生たちが公園の前を通り過ぎって行った。
その一人が『カイコの樹』に関わり、ずっと学校に来なかった生徒がいた。
「よかったなぁ。戻ってきて」
「そうですね。よかったです、本当に」
ヒカルさんが退治してくれなかったら、ずっと眠ったまま帰ってこられなかったのかもしれない。
あの子は好きな人がいる夢の方を選んでいた。
「あの子こと、好きなん?」
「そんなんじゃないんです」
「本当はめっちゃ仲良いトモダチとか?」
「……関係ないでしょ」
同級生たちの関係を探られているみたいだ。
クラスで孤立気味であるため、なおさらコンプレックスを刺激され嫌悪感がつもる。
「そんな親しくないのによくあそこまでしたなぁ。俺だったら出来へんよ。メリットを感じないもん。不思議に思うねん。なんで助けようと思ったんや?」
自分が危ない目に遭う可能性があるのにただの同級生ってだけの人を助けようとしたの?と久瀬が問う。
「ツクヨミがそうしたかったからです。
僕はアイツを止めなかったから高校に行ったんです」
そこでツクヨミの知り合いがいるとは思わなかった。偶然だった。
「ツクヨミとお前は一緒だろ?」
「……一緒じゃないです。前の記憶が強すぎて自分でも思ってもみない行動をしてしまうんです」
自分自身でさえ制御ができない。
ツクヨミと僕では性格がかけ離れすぎて行動がちぐはぐだった。
他人からみたら言動と行動が一致しない。虚栄癖がある子として周りに見られている。
僕の性別が女性で性格もツクヨミと似て気が強ければ、ツクヨミの意識に多少流されても共感できたかもしれない。
ギャップが少なかったかもしれない。
「前の記憶がないなら分からないと思いますが」
理解されない。分からない。
自分でも上手く説明できない事象だ。
分からないのは、もう仕方ない。期待はしてない。
「でも、お前は止めなかった。
俺が知りたいのは止めなかった理由や」
久瀬の問いに僕は目を見張る。
同級生を助けることに対し、僕はツクヨミを止めなかったのだ。止めようとさえしなかった。
「姫川 水樹という人間はお前だけだ。
俺が聞きたいのは、どうしてお前が他人のために行動できるのか分からないから聞きたいんだ」
『姫川 水樹』の名前を持つ人間に聞いている、と僕を見つめて言った。
「なぜ…ですか?」
「俺の周りで取り巻くアレコレに悩んでてな。次をどうするか決めるため…………結局自分のためやな」
「僕の言ってる意味が分からないかもしれませんよ」
「そんなの。聞いてみないと分からへんやん。ま、他の人よりは分かると思うんよ。少なからず巻き込まれている人間側だしね」
あやかし退治なんてやらないだろ、と久瀬は人懐っこい笑みを見せた。
いつも【光夜叉】をお読みいただき、ありがとうございます!
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本当にありがとうございます!!
さてはて、いつもタイトルに頭を悩ませているソラネです。
至らない点がありましたら、ちょいちょい修正していこうと思います。




