閑話。思い出3
あれから幼稚園から小学生になった。
「ただいま~」
学校から家に帰ればリビングにヒカルがいてニコニコしながらドーナツを食べていた。
(今日もいた)
ウチの母とヒカルの母は同級生だったらしく、気付いた時には互いの家を行き交うようになっていた。
(卒園後は疎遠になると思っていた)
今も交流は続いている。
(あんまり一緒にいたくないんだよな)
周りの子たちがヒカルを遠巻きにする理由は何となく分かる。
彼の近くにいるとおかしなことが起きるからだ。
「ヒカル。また変なのにやられたの?」
首にうっすらと鬱血した痕を見つけ聞くとヒカルはこくりと頷いた。
「お薬、塗ってあげる。こっちにおいで」
どうして、ケガしたのか?と深く聞かない。
聞いたところで口からおかなしな話が飛び出すことを知っているからだ。
(世の中には、知らなくていいことはたくさんある)
子供ながらにどこか達観していた。
「面白いとこ、みつけた」
ある日のことだ。
学校から帰ってきて早々。手を洗っていた俺に音もなく忍び寄ってきたヒカルが言った。
「面白いとこ?」
どこで?と聞けば「ついてきて」と袖を抓まれ引っ張られた。
「ここ」と連れてこられたのは押入れの前だった。
なんの変哲もない畳みの部屋で何回も入ったことはあるが。
(面白いものなんてあったかな?)
俺は考えているとひとんちの襖を遠慮なくヒカルは開け放った。
「何もないよ?」
二段にわかれた収納スペースに来客用の布団が置いてあるだけで特に変わったものはない。
よいしょ、とヒカルは小分けに収納された棚を足場に二段目にのぼり、手招きする。
自分も押入れの二段目にのぼると襖を閉められ、真っ暗になった。
(近い)
布団、毛布など圧迫した空間は思ったより手狭でクスクスと笑うヒカルの息が顔に当たった。
姿がはっきり見えない分、間近にいるのに触れないような錯覚を感じさせた。
「上を見て」
ヒカルに言われ、押入れの天井を見上げた。
「わぁ」
思わず感嘆の声が漏れる。
天井には宇宙があった。
金色、緋色、蒼色…とたくさんの光の粒……星々が散りばめられ、どこか遠くの暗闇に光の川となって奥へ奥へと流れていた。
幻想的な光景に見惚れ息を呑んだ。
「すごい」
宇宙に腕を伸ばした俺にヒカルはそっと指を絡め制止された。
「遠くでみるから美しいんだ。シン兄ちゃんがアレになりたいんなら止めないよ」
俺は腕を下ろした。触れてはいけないものらしい。
「僕にはたくさん触れてもいいよ」
「は? え?」
唐突に告げれた言葉に隣に顔を向ければ、暗闇の中で目が合った。
手をぎゅっと握ったヒカルは言葉を重ねる。
「もう離れる気はないから」
どういう意味なのか分からなかった。
でも、なんとなく俺もその手を離してはいけない気がした。
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