閑話。思い出2
※今月、3回目の更新です。
よく母からおとぎ話のような先祖にまつわる話を聞かせられた。
「私達の先祖は、昔東に棲む龍にお仕えしていて、天に還るお手伝いをしていたんだって」
「ふ~ん」
「あれれ、信じてないなぁ」
興味無さそうな返事に母は苦笑しながら話を続ける。
「ある龍は地上で唯一無二の存在をみつけ、天に昇らなくなりました。
そして、私達、人を見守る神様となったのでした」
母から何度か聞かされたお話だ。
絵本みたいなストーリーだなぁとしか思っていなかった俺は信じていなかった。
「また私達の先祖はね。龍に影響されていて唯一無二を見つけたら『ソレ』を命に懸けて守るのよ。
だからね、お母さん。慎一郎が大好きなのよ」
そう言って母は力強く抱きついてきた。
母が大好きな父が聞いてたらすごく落ち込みそうだっだが、それよりも嬉しかったのでお返しと言わんばかりにギュっと抱き返した。
「慎一郎も唯一無二を見つけたらその子を守るのよ」
この話は、母が俺に愛情表現を示すために聞かせてくれた物語だと思っていた。
― ― ― ― ― ― ― ―
「…なにしてるの?」
廊下の隅にいるヒカルを見かけた。
目を手で覆い、しゃがんでいるヒカルに思わず声をかけていた。
「かくれんぼしてる」
「ここで?」
「うん」
俺は首を傾げる。
隠れているように見えなかったからだ。
もしかして、鬼なのかな?
「鬼になったの?」
「違うよ」
そっか。違うのか。
ますます首を傾けた。じゃあ、何してるんだと。
「これだとすぐに鬼に見つかっちゃうよ」
「大丈夫。見なきゃ見つからないから」
「ねぇ、もっと違う場所で隠れよ」
ヒカルの手を掴むと別の場所に行こうと手を引く。
「ま、待って~」
手を引かれる方へとヒカルは目を瞑ったまま俺についてきてくれた。
「ここなら見つからないよ」
跳び箱の陰に二人は隠れた。
俺が連れてきたのは遊具室…別名で『おかたづけ室』だ。
ここには跳び箱やマット、大きな積み木ブロックなど道具を置いてある場所だった。
たくさん物があり、物陰や隙間もあるからかくれんぼした時は『おかたづけ室』に隠れるのは定番になっていた。
「目、あけても大丈夫だよ」
目を閉じ物陰の隅に座るヒカルに言う。
でも、ヒカルは首を横に振って。
「ダメだよ、見てるから。目を合わせたら見つかっちゃう」
周りを見ても誰も俺たちを見ている人はいない。
誰もいないと言うわけではないが、立ち上がって跳び箱より高くならなければ人から見えない場所にいるのだ。
「誰もいないよ」
そう伝えてもヒカルは目を開けようとしなかった。
「本当に誰もいないって」
だんだんと怖くなっていったのだと思う。
ヒカルの行動が『いないもの』を『いる』と肯定しているみたいで、否定したくてムキになった。
「やめ……」
目を隠す両手を無理矢理に引き外した。
抵抗したヒカルはズルリと滑り、床に後頭部を打った。
その拍子に痛みで潤んだ目を開けた。
大きくて丸い瞳が俺の方を見上げていた。
「…………あ、目が合っちゃった」
ずしり、と背中が重くなった。
何故、今まで気付かなかったのかというくらい背後から誰かが覗いている。
振り向いていないのに分かる。
振り向かなくても分かる存在がこっちを見ていた。
「僕を見ていて」
固まってしまった俺にヒカルは平然とした様子で言った。
「見なきゃいないよ」
目を合っているのは俺のはずなのにヒカルは俺を通して何か違うものを見ているようだった。
それが無性に腹が立って。
「誰だ!?」
思いっきり振り返った。
目の端ではヒカルが止めようとしていたのが見えた。
――そこからは何も思い出せない。
気が付いた時には母におぶられ、玄関前にいた。
どうやら、家に着くまでずっと眠っていたらしかった。……というか、気を失っていた?
どうやら、あの後ヒカルが先生を呼びに行き、おかたづけ室の隅で倒れていたのを見つけてくれたみたいだ。
「ヒカルくんだっけ? あとでお礼しなきゃね。そうだ、おうちに呼びましょう!」
母はウキウキだった。
友達と遊び疲れておかたづけ室で眠っちゃったと。
こっちに来て初めて俺に友達ができたと思ったのだろう。
(え……なんで?)
むしろヒカルのせいでおかたづけ室で倒れたと思っていた自分は母の言葉に疑問になったが。
(ガッカリさせても、ね)
嬉しそうな母の様子に合わせて頷いておいた。
お読みいただき、ありがとうございます。