内側に秘めて
「織部が本の持ち主ねぇ……」
後日、放課後の空き教室に三人が集っていた。
『カイコの樹』の件からシン兄ちゃんが僕たちの仲間に加わった。
ちなみに姫川もいつの間にか加わっていた。
(あやかし退治を主にやってるのはスバルだけっぽいけど)
仲間に加わったといっても僕たちはお手伝い程度だ。
手を貸してほしいという時に僕やシン兄ちゃん、姫川が駆り出されている。
「今も持ってるのか?」
「一応まだ持ってるよ。あとで本家に持っていくつもり」
二人であやかし関連の話してるのを眺めるなんて新鮮だ。
「なぁ、東絛先輩はどこでその情報を知ったんだ?」
僕も知りたかったので、ぼうっとしていた頭を切り替える。
「……『鬼』から聞いた」
チラリ、と僕を見てシン兄ちゃんは言った。
「『鬼』ってヒカルの中におるヤツか?」
スバルは神妙な顔付きで聞くとシン兄ちゃんは「そうだ」と応えた。
(どこかで二人は光夜叉と会っているんだ。しかも、『鬼』の姿で)
「知らないところで何かしていたんだね」
「『鬼』を自覚していたのか?」
「自覚というか、意識はなかったけど光夜叉が何かをしていたのかは……なんとなく分かる」
「光夜叉?」と首を傾げるスバルに自分の中には光夜叉という『鬼』をおり、封じていることを打ち明けた。
「『チカラ』を使えるのは光夜叉がいるから。僕だけではまともに剣を扱えない」
『カイコの樹』を斬った時、剣を握る手が震え、どう斬ればいいか分からなかった。
剣に光夜叉が宿っていた時は何も考えなくても斬れていたのに。これじゃ、あやかしを退治できない。
「ヒカルは初めて剣を握ったんだ。今から慣らしていけば大丈夫」
いつの間にか震えていた手をシン兄ちゃんは握ってくれていた。
「あー…で、織部についても本家に連絡しておくが。
ヒカルは怖くないんか? そんなもん中におって」
「慣れてるから」
「何かした方がいいんじゃないか?」と言うスバルにシン兄ちゃんは返す。
「この前、借りた鎖で剣と繋ぎ直したから下手に手を出すとヒカルが危ない」
「アレ、使えたんか。先輩、なにもん?
……まぁええわ。それよか今は織部が問題やな。あないな本を使って何したいんだか」
話が逸れると思ったのかスバルは今、気になっている疑問を零す。
「そもそも『鬼』がホンマなこと言っとるとも限らん」
「ああ。だから、この学校に来る前は何をしていたのか素性を調べてくれないか」
「は? 何で俺?」
「一番、適任が君だからだよ。本家と繋がってるだろ?」
「どこまで知っとるん……」
「君よりはたくさんみてるよ」
静かに笑むシン兄ちゃんを見たスバルは苦笑った。
「さて、そろそろ帰ろうか」
暗くなり始めた空を見てシン兄ちゃんは僕たちに促した。
「あと、きちんとヒカルに話した方がいい」
教室に出る際、シン兄ちゃんはスバルに告げた。
「いずれは……話すさ」
少し眉を下げたスバルは応えた。
「本当にありがとうございました」
翌日、公園前で待っていた姫川にお礼を言われた。
どうやら、無事に姫川の友人(知り合い)が登校していたのを確認できたと教えてくれた。
「今日、学校に来たんです! よかった、消えなくて」
安堵と嬉しさが混じった笑顔を浮かべた姫川に「良かったね」と頷いた。
解決できて本当に良かったと思う。
この町はおかしいから。
誰かの存在を消し、誰が消えたのか誰も気付かなくしてしまうから。
「おいおい、俺にはないんか。お礼は」
「報酬は払ったじゃないですか」
「足りなかったけどな」
「だから、仲間に加わったじゃないの」
仲良く言い合いをしている二人を眺めた。
「あの、助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
友達の存在を消されたくないな、と願うのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
これにて第三章は終わりです(長かったね)
第四章を載せる前に幼馴染みの閑話を挟みます。
次回もお付き合いいただければ幸いです。
最後に『長編を書く! 完結させる!』という目標のもと書いてるため、話の流れや矛盾点、誤字脱字などでお怒りになる方もいるでしょう。
本当に申し訳ございませんが、何卒ご容赦くださいますお願いいたします。