帰ろうか
※今月、三回目の更新です。
誰も僕を助けてくれる人がいるとは思わなかった。
母さんに必要とされなかった僕は、誰にも必要とされないと。
「一緒に帰ろう。久瀬も姫川さんも待っているよ」
手を差しのべてくれたシン兄ちゃんを見て、自分は今まできちんと周りを見ていなかったのだと気付かされた。
そっか、待っていてくれる人……いるんだ。
何故かその時はすんなりと本当だと受け入れられた自分がいた。
「うん。他の人たちも一緒に」
僕は立ち上がり、『カイコの樹』の前に行く。
『カイコの樹』を斬るため、帰るために――。
「本当は僕ひとりでやろうと思っていた。迷惑をかけてしまったし、誰も助けてくれないと思ったから」
『カイコの樹』の前に立ち、後ろで支えてくれているシン兄ちゃんに向けて言った。
「今まで母さんがいない僕に同情してそばにいてくれてるだと思う。これからは無理して僕のそばにいなくていいよ」
振り返らずに一気に伝える。
シン兄ちゃんの顔を見たら、言えなかった。
泣きそうになるから。
自分はけっこう泣き虫で、臆病だから悟られるのが嫌で隠れてたな。
その度にシン兄ちゃんが見つけてくれたっけ。
「同情してないよ。ヒカルが大切だから傍にいた。それだけだよ」
腰に両腕を回し、ギュッと僕を抱き締めた。
「俺はヒカルがいなくなるのが、離れるのが、嫌だから傍に居たいだけだ。
昔も今もヒカルが大切で失うのが怖い」
声は震えている。
「俺から離れて行かないで。ヒカル…………」
強く強く声が、腕が、縋り付くように僕を抱き締めた。
僕は少し切なくなりながら。
でも、心の底では嫌なくらい心地良い気持ちが沸き上がった。
シン兄ちゃんに必要とされているんだ。
こんな僕を必要としてくれてるんだ。
「……うん。ありがとう、迎えに来てくれて」
後ろで立つシン兄ちゃんに顔を向けた。
一瞬だけ驚いた表情し、すぐに安堵したような優しい顔付きでシン兄ちゃんは僕へ向けて微笑んだ。
鏡に映し合わせたように互いに同じ表情を浮かべていた。
『カイコの樹』に向き直し、僕は心の中で謝りながら。
剣先を深く深く……樹の幹に貫くように刺し、斬り込んだ。
― ― ― ― ― ― ― ―
「ヒカル、起きてて大丈夫?」
ベランダに出ていた僕にシン兄ちゃんが聞いた。
「むしろ寝すぎたぐらいだよ。二人にも迷惑をかけちゃった。明日、あらためて二人にお礼を言おうと思う」
スバルと姫川が帰っていく姿をベランダから眺めながら隣に立つシン兄ちゃんに話した。
図書室で倒れてから一日は経過していた。
『アチラ側』……『カイコの樹』の異界にいる間、ずっとシン兄ちゃんの部屋で僕は眠っていたのだ。
目覚めた時に二人の安堵した顔が目の前に
あり、少しびっくりした。
「そうだね。二人のおかげでヒカルを助けることができた」
でも、と言って僕の顔を覗き込み、話し続けた。
「あぶないことに足を踏み入れすぎるのはどうかなと思うよ。
ヒカルは俺が何も知らないと思っているみたいだけれど、何年一緒にいると色々と分かってしまうんだよ」
「それは……僕に霊感があって祓えるとか?
」
「子供の頃から知っていたさ。無意識なのか隠そうともしてなかった」
あまり過去のこと。母さんがいなくなってからの記憶は曖昧だ。
イジメられた思い出が強すぎて他の思い出が朧気である。
「シン兄ちゃんも……あるの?」
霊感や僕みたいな『チカラ』が――。
「あるよ…といっても、とある龍から『チカラ』を借りている」
「え、初耳なんですが?」
「言わなかったからな。極力、そっち方面に関わらせたくなかった」
本当に初めて知った。
龍って……昔、シン兄ちゃん達と行ったどこかの川で溺れた時に会った『龍』のことだろうか。
シン兄ちゃんに聞けば、少し目を開き頷いた。
「覚えていたのか」
「ううん、夢でみた」
どこまで現実だったのか分からないけど。
「すべて本当のことだったんだ」と言葉が零れる。
うまく思い出せないから夢でみているのかもしれない。
遠くを見つめていると「ヒカル」と名前を呼ばれた。
「なに?」
シン兄ちゃんの方に向いた僕の肩に頭が乗る。
柔らかい髪が頬や首筋をくすぐった。
「少し…こうさせて」
えっ、えっ、と戸惑う僕にシン兄ちゃんは肩に額を乗せたまま囁いた。
「怖かった。失うかと……君を実感させて」
『光夜叉』をご閲覧くださり、ありがとうございます。
第三章の終わりが近いですね。
第四章で終わるように頑張ってますが、お話を書くのは難しいです。精進します。
第四章に入る前に閑話をいれるつもりです。
目指せ! 下手でもいいから長編完結!!




