交渉
※三人称視点です。
「交渉しない?」
お互いの目的に向けて、と光夜叉は東絛に持ち掛けた。
「この状況で交渉の余地があると?」
「拘束しただけで脅すだけ。ここにいるお前はボクたちより脆弱な状態でこっちに来てるんじゃない?」
距離を詰める。
「ねぇ、ボクに触ってみてよ」
腕を伸ばせば届く距離まで光夜叉を詰め寄り「ほら、触ってみろよ」と煽るが、東絛は動こうとしない。
光夜叉が言うとおり、肉体と精神を完全に切り離さずに『カイコの樹』の異界に足を踏み入れていた。
そのせいで存在は曖昧であり、異界にある物を触ることができなかった。
「交渉などと言ってお前だけ現実に戻る魂胆だろう。だんだんと口だけが巧みになっていくお前を見ると腹立たしい」
「ちょっとぐらいは信用してよ。現にお前が来て厳しくなったんだから、提案してるんだ」
じゃらじゃらと鎖の擦れる音を出す。
鎖に捕まれた時点で光夜叉も自分の有利に事を進めることができずにいた。
東絛は異界に干渉できないが、鎖は違う。
今、何と繋がっているか分からないそれは……自分だけの魂であったら、東絛は間違いなく別の場所に光夜叉を封印するだろう。
(剣があるから。命を繋いでいる剣があるから、封じられずにいる)
光夜叉が手離さなければ剣も一緒に封じられてしまう。
衰弱している神代の魂は剣がないとこのまま死ぬまで眠り続けるのだ。
剣を神代の元に戻したい東絛と自分だけ剣と身体に戻りたい光夜叉。
現状として今二人は膠着状態になっていた。
膠着状態を打破するため、光夜叉は落としどころを探る。
「交渉に応じてくれれば戻すよ。はやく助けたいんでしょ?」
眉間にしわを寄せ憎らしげに睨んだ後、溜め息をつくと東絛は訊いてきた。
「目的は何だ?」
「分かってると思うけど。この鎖を外してくれたら、剣を戻すよ。その代わり『本』が誰の物なのか教えてあげる。他にも知りたいことがあるなら応えよう」
「ダメだ。俺が鎖を解いた瞬間にここから消える可能性がある」
「じゃあ、こうしよう。あらためて剣と繋ぎ直してよ。そうすれば主様の身体にボクだけでは帰れない」
「……分かった。お前の交渉に応じる。だが、話はここで訊かせてもらう。その上で戻ってからも確かめるからな」
とても嫌そうな顔をしながら東絛は交渉に応じた。
「ヒカル……」
意識が戻った時『鬼』の姿は消えており、代わりに東絛が顔を覗き込んでいた。
『カイコの樹』の異界にいるはずのない人物が目の前におり、神代は「どうして、ここにいるのか?」と思わず問うていた。
東絛は少し眉を下げ困ったかのような、誤魔化すような表情をして。
「久瀬 昴から聞き出した。ヒカルを迎えにきたよ」
東絛の口から神代は状況を聞いた。
自分が思っていた以上に誰かが動いていたことに驚くと同時に罪悪感を覚える。
(シン兄ちゃんまで迷惑をかけてしまった。
それに今、スバルや姫川さんが僕を助けようと協力してくれたんだ)
「シン兄ちゃん……ごめん。巻き込んでしまった」
神代は抱えるようにギュッと胸に抱えた。
罪悪感で顔を上げられず、俯く。
「巻き込まれてはいないよ。俺から首を突っ込んだ」
そう言って神代の頭を東絛は撫でた。
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長編って書くの難しいな、と思いつつも書かなきゃ練習にもならないので頭を悩ませながら書いてます。
でも、書くのは楽しいし、面白いから好きです。




