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光夜叉  作者: ソラネ
第三章
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サイカイ

※三人称視点です。


――幸せって……どうして、すぐに無くなってしまうだろう?


何回も、何回も『剣』と共に生まれ直し、何百回と反芻した過去の夢を視ながら思うのだ。


――この光景、見飽きたよ。


 暗闇に囚われた主の顔に伸ばした手を下ろす。


「こんな手では主に触れられないね」


 柔らかい頬に触れたら傷付けてしまう尖った爪を見て光夜叉は溜め息を吐いた。

たとえ紛い物であっても大事な人を傷付けたくはないのだ。


「何が逢いたい人に逢える、だ……。実にしたいだけだろ」


 光夜叉は何回も夢でみてきた目の前の光景は、幻であることを瞬時に理解した。

『カイコの樹』によって実の中に閉じ込められたのだと。


「それにしても悪趣味だよ。綺麗な噂を流して、やってることは現実世界からの拉致。他の奴らと変わらない。だから、アイツを含めて嫌いなんだ」


 常闇の住人が、常闇の王が、奪っていく者が嫌いだ、と毒づく。


「ねぇ、どこかで聞いてるんだろ? しかも、これは僕に対しての同情か、ふざけんな!!」


 天に向かって叫ぶ。


「『カイコの樹』とお前は繋がってることは知ってるんだよ。出てこい、クロ!

それかもう一つの名で呼ぼうか? ――常闇の王」


 (ヒカル)ではなく、自分を実の中に入れたんだ。

応えが返ってくることは半ば確信に近く、しばらくすると何者かの気配が空間を占めた。


≪お前か……≫


 重く低い声が空間に響く。


≪我の名を呼んでも深い場所にいる本体には届かぬぞ≫


「あぁ、分かっている」


 今、光夜叉に応えた者は、正確には常闇の王ではない。

本体である常闇の王は、主と共に封印されているため、応えた声は複数ある分身体の一つだ。


「『カイコの樹』を使ってボクを閉じ込めたのはお前の指図か?」


≪否。我はお前に用はない。彼女と共に朽ちるまで眠れればそれでいい≫


「お前ではないとすると、本家が絡んでるのか……」


≪お前こそ、その執着。我らの眠りを妨げようとする。我が外に出れば陰に呑み込まれ、陽の光は潰えるというのに……≫


「お前が捕らえているのが主様だからだ。ボクは主の『剣』として主を鎖から解放させたいだけだ」


≪それはお前の願いであろう。

――まぁ、いい。近頃…お前以外にも眠りを邪魔する者がいる。数回、結界に干渉された≫


「……! 主様は無事なのか!?」


 千年前、常闇の王を現世に現れないように主が身を挺して張った結界だ。

結界が破れれば封印された常闇の王が目覚め、現世は人が住めない土地と化すだろう。


だが、光夜叉は主以外の人間がどうなろうと関係ない。

問題は、結界が壊れるということは結界の要となっている主の魂が消失してしまうこと。


身体を犠牲にし、結界になることで永遠に近い命となり……今も主は生きているのだ。

常闇の王と共に。


≪結界は彼女だ。お前の主を救いたければ結界を壊させるな≫


 そう光夜叉に告げた声は、一瞬にして空間から気配を消した。


「一刻もはやく身体を持っていかないと……」


 呟いた光夜叉は鬼化した手で実の壁を裂くと別の空間へと落ちていった。





「本当にこの光景は、見飽きたよ」


 気を失った神代から奪った剣を大事に抱き締める。


「君ごと連れていきたかったけど、主様を否定する君ではすぐ受け入れられないよね」


 頬を撫でながら、神代に語りかけるように独り言を続ける。


「主様さえいれば、世界なんてどうでもいいんだ。でも、主様は優しいからなぁ。きっと悲しむよね」


 嫌だなぁ、と光夜叉は悲しそうに顔を顰める主の姿を思い出す。


「迎えに来るまでここで眠っててね」


 おやすみのキスとして額に口づけをしようとした時だった。

光夜叉は手首を鎖で絡めとられ、後方に引き摺られていた。


「とうとう、己の主にも害するようになったか悪鬼(あっき)


 新たに『カイコの樹』の異界に現れた存在に一瞬だけ目を丸くするが、相手が誰だか分かり、納得する。


「ここまで来るなんて、ストーカーも程々にした方がいいよ」


 鎖を持つ東絛を見て光夜叉は言った。


「それとボクは、主様のために動いているだけだよ。悪い鬼になった覚えはないよ?」

「どこが……」

「それより、ここまでどうやって来たの? ……あっ、わかった。月読(ツクヨミ)様のおかげでしょ。それかヒカルの……主様のお友達かな?」


 考える素振りをしているが、神代の中に宿っている光夜叉が周囲の状況を把握していないわけではない。

正解に近い推測をたて、首を傾げている。


「剣を奪い、何しようとしている」

「もちろん、戻るつもりだよ。これを持ってね」

「ここにヒカルを置き去りする気か」


 「誰がお前だけ戻すか!」と東絛は自分の方へ鎖を引く。

光夜叉だけ身体に戻れば、神代の身体を自由に『鬼』は利用するだろう。


「コレ、借りものでしょ? 改良されているけど見覚えある。懐かしいね。コレで魂を繋がれたっけ、剣と」

「お前と昔話をするつもりはない。さっさと剣を返してもらおうか」

「えー、少しは会話を楽しもうよ。それにコレのせいで戻れないし」


 鎖で巻かれている腕を指をさす。

どんなに戻りたいと願おうが、鎖に引っ張られ、離れられないようになっている。


本家は術や道具に長けているからやっかいだ、と光夜叉は内心で溜め息をついた。


「交渉しない?」


 東絛が来た時点で上手くいかないことは悟っていた。


「お互いの目的のためにさ」



ご閲覧いただき、ありがとうございます!

彼らの関係は複雑怪奇ですね。


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