燃える瞳に映る身
燃える実――。
裂け目から覗く血のように紅い瞳が笑う。
窮屈な場所から解放を求める手は、尖った爪で実を裂き、重力に従って中身は地上へと落ちた。
地上へ落下したソイツは、僕の頭を掴むと勢いのままに押し倒してきたのだった。
「あぁ……やっと! やっと思い出してくれたんだね!!」
覆い被さったまま恍惚な笑みと熱を帯びた眼で僕と握っている剣を交互に見下して言った。
「コウ…光夜叉」
首と剣を持つ手首を押さえ付けられているため、空いた手で退かそうとするが、引き剥がれそうにない。
僕の上に乗ったまま強まる手の力に痛みを覚えた。
「……退いて」
「ヤダよ。退いたらここを壊そうとするじゃん。誰に何を吹き込まれたのか知らないけど、惑わされちゃダメだよ」
「惑わされてなんか」
「本当に? 本当に自分の意志で行動してるって言える? 主様を利用しようする人間はたくさんいるんだよ。誘導されていないって自信ある?」
「自分で考えて決めた。なんで、止めようとする?」
「君が、恨まれるからだよ」
スッと笑みを消し、真面目な顔で光夜叉は見下ろしてくる。
「君はあの樹を退治すればあの実の中にいる人が救われるって思ってるでしょ?」
「救えるとは思っていない。でも、待っている人のもとへ帰したいだけ」
「帰る場所がない魂は?」
誰も待っていない。帰る場所がない魂について想像した?と問いかけてくる。
「帰る場所もなく、ここに戻ることもできない魂たちは、安寧の眠りを妨げた君を恨むだろうね」
恨まれる覚悟はあるの?と僕の意志を揺さぶりかけた。
「元々みんなに嫌われている」
今更だ。僕の評価は昔っから低い。
一つや二つ憎まれようが、恨まれようが変わらない。
「それにあそこ……」
視線をある一転を見つめる。
光夜叉も振り返り、僕と同じ場所に顔を向けた。
「腐りかけている。もう永くないんだ」
『カイコの樹』の幹や枝はところどころどす黒くなっており、腐り傷んでいる。
何もしなくてもいずれここは無くなってしまうだろう。それが遅いか早いかだ。
「だったら、はやく…自由にした方がいい」
「そっか。君は変わらないだね」
光夜叉は少しだけ目を見開くと、またスッと目を細めた。
「君は…主様は、強いね。だから、いつもボクの願いを聞かず、痛い思いばかりするんだ」
手首を掴む手が強まっていく。
「嫌だなぁ。本当は助けたいのに。少しだけ魂が欠けてしまっても仕方ないかな」
「な、なに言って……」
ブツブツと光夜叉は誰かに向かって呟き始め、額から左右に二つの角が生え伸びていく。
「こんな姿、見せたくなかったのに」
『鬼』は哀しそうな表情を浮かべた。
初めてそんな、本当の顔を見せたのではないだろうか。
彼は喜怒哀楽をはっきりしているが、どれも本心ではなかったように思えた。
今、目の前で見て尚更そう感じる。
僕の前で本心を吐露しようとなった時、見せないよう隠れていた節がある。
(今、本心を隠そうとしないのは、隠す必要がないから? 隠し切れないほど溢れているから、か?)
「思い出してくれて嬉しかったよ。ボクでは本物を具現化できそうになかったから。
君の記憶がどうしても必要だった。不完全でも主様の一部だからね」
「あ……」
(初めて、ではないか)
悪意がある、自分を傷付けようとする笑みは初めてではない。
「お前…何する気だ?」
「怯えなくて大丈夫だよ」
にっこり、と笑う顔に自分の顔は引きつった。
嘲笑う、汚い笑みとは違い、目の前の『鬼』は綺麗に欺くように笑うからだ。
「君をここに残しておくだけだから、あとで迎えにいくつもりだよ?」
そっと肌を滑らし、右手に持つ剣の柄を光夜叉は触れた。
いつも【光夜叉】を閲覧いただき、ありがとうございます。
作品や章などの題名を決める時が一番、悩んでいる気がします(笑)
もしかしたら、過去の章の題名を変えるかもです。
今後とも読んで応援してくれたら嬉しいです。




