晒したとてそれは過去である
※三人称視点です。
(本当に詐欺やなぁ)
公衆トイレから出てきた姫川をマジマジと見つめ、久瀬は改めて思った。
女装したままでは帰れないと姫川は公衆トイレで着替えてきたのだ。
アイドルや女優にもなれそうな美少女から一転、縁の大きい眼鏡をかけた大人しそうな少年になって姿を現せば誰だって変わりように感心してしまうだろう。
「何なんですか」
やや不機嫌に上目遣いで久瀬を見る姫川の雰囲気は陰湿だ。
「こう見ると陰キャやなぁ、お前」
「ぅっさいな。置いていきますよ」
姫川は先に歩き出し、久瀬も追いかけた。
「静かな所でないと何も視えませんから」
「集中したいから静かな場所で行く」といわれ、着いた先は姫川の自室だった。
今日は家族は家にいないのか静かだ。
姫川が持ってきたお茶を、床に座りながら久瀬は飲んだ。
「このまま帰ればよかったやん」
「誰かいるかもしれない。知られたくないんですよ」
女装していることは家族には伝えていないらしく、美少女の姿では帰れないとのことだった。
「伝えたところで理解してもらえませんから」と姫川は呟く。だから、外で着替えてるんだと。
久瀬は姫川の言葉に確かにと頷いた。
自分からしても前世が女だからといって女装しないだろう。
よほど、今の性別に関して違和感があり、否定なり羨望していない限り自主的に女装はしない。
久瀬 昴という『我』の部分がそうさせているのだ。
「お前、我はねぇの?」
「何ですか、唐突に」
「我だよ、我。自分というヤツだよ。前世の性格ではなく、今の自分ってないのか?」
「自分……?」
久瀬の問いの意味が分からないといった顔をしつつ、首を傾げている。
自己について何も出てこなかったみたいだ。
「今は僕のことなんていいでしょ。『チカラ』を使うんでしばらく静かにしていてください」
「へいへい」と返事をし、久瀬は口を閉じた。
姫川はやや緊張した面持ちで瞼を閉じ、深く息を吐く。
胸の前で両手を祈るような形で握りしめ、
深く集中し、『チカラ』で視えようとしている。
姫川は『チカラ』は『視る』ことにつきる。
それは過去であったり、未来であったり、人や物の在り処であったり、とあるゆる事柄を『視る』という能力である。
今、その『チカラ』で神代の行く末を視ようとしていた。
(前世はツクヨミだったと言っていたな)
ツクヨミ…おそらく漢字で表すならば月を読むで『月読』という字を書くのだろう。
暦や月齢を読むという月の神と同じ名前だ。
(神と同じ名前なんて畏れ多いことをする。何を犠牲にしたのやら)
「――視えました」
姫川は、スッと目を開けた。
「彼は『大樹』の前にいます。彼は彼と対峙し……二つが視えました。目覚める彼と『大樹』に残された彼」
シン、と静まる。
一拍の間を置いて久瀬は口を開く。
「どういうことや?」
「おそらく今、ヒカルさんは大きな樹の前にいるんだと思います。
その後、二つのものが同時に視えました。不確定なために起こる可能性が高い未来が複数同時に視えることがあります」
「『カイコの樹』に取り込まれ、た?」
大きな樹という言葉に久瀬は『カイコの樹』の前に神代がいるのではないかと思い至った。
あの本は入り口であり、姫川の同級生も『カイコの樹』に、異界に連れ浚われた可能性がある。
「なぁ、その同級生はまだ学校に来てないよな?」
姫川はこくりと縦に頷く。
「たぶん、あの本は『カイコの樹』への入り口で、魂をそっちに連れていくものやったや。だから、本に触れた人は倒れて発見したお前の知り合いのようにな」
「どうしよう。このまま消えてしまったら、帰ってこなかったら」
「あー、でも、目覚めるとこを視とるんやろ? だったら、大丈夫や、きっとな。アイツ、そんなに弱くねぇし。
今日はいったんお開きにして、明日あらためて東絛先輩にヒカルの様子を聞きにいく」
心配で焦り怒ったかのように迫る姫川に久瀬はどうどう、と落ち着かせ、座り直るように宥める。
「…あ、あの本! あの本は今はどこにあるんですか?」
(それ、聞いちゃう? 聞かれたくなかったわぁ)
織部に見つからないように特殊な方法で件の本を久瀬は回収していた。
「持ってるよ。またいつ発動するか分からないから厳重に持っとるよー」
「見せてもらっていいですか?」
「俺の話し聞いてた? 危ないからダメですぅー」
攻防を続けていると久瀬は女装から着替えた後の姫川に抱いていた既視感からハッと思い出す。
「あーっ! お前、あの時ヒカルと言い争っていたヤツか!」
美少女(目の前の本人の女装)を巡って校門前でヒカルに詰め寄っていた男子生徒を思い出し、久瀬は声を上げた。
「今さら思い出したのですか……」
姫川はやれやれと呆れた様子で言った。
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