同じ目で見ないで
おお、ポイントがついている……!
感激とともに感謝いたします。
<カワイソウ二>
――うるさい。
僕の何を知っているっていうんだ?
頭の中で響く哀れむ声に僕は耳を塞いだ。
次の授業には出なかった。
伊藤と交わした会話の後、ずっと憐愍の声が聞こえ、授業に集中できそうになかった。
教室を出て、静かな廊下を進む。
興味がないのか、廊下を歩く僕に気付いても関心を示す人がいなかった。
<誰モ、アナタヲ必要トシナイ>
――…………。
<ダッテ…アナタッテ……捨テラレタノダカラ>
うるさい、うるさい、うるさい……!
苛立てば苛立つほどその声は鮮明に聞こえてくる。
「ヒカル……」
「うるさいッ!」
肩に捕まれた腕を振り向き様に振り払った。
「あ……」
驚いた顔でこっちを見る東條先輩に気まずくなり、「ごめん」と謝った。
「あ、えっ、と…どうしたの?先輩、今授業中じゃあ」
「……何があったんだ」
「何が、って?」
真っ直ぐと見つめてくる視線から逃れようと顔を背けた。
「ヒカルから言ってくるまで黙っていようと思っていたけど。イジメられているだろ」
背けていた顔を先輩の方へと向ける。
「い、いつから……」
いつから、先輩も…シン兄ちゃんも、そんな目で……。
あいつらと同じ目で僕を見ていた。
「僕のことはもうほっといてよ!」
東條先輩を突き飛ばすと、その場から走り去った。
「はぁ、はぁ……」
物陰に身を潜め、荒い息を整えた。
どうして、こんなことになったんだろう。
学校を出た後、人気の少ない道で『アレ』はいたのだ。
校舎内で見た黒い脚の持ち主。
今度はすべてを曝し、僕の前に現れた。
道端で『アレ』と遭遇し、見つかってしまってからずっと追いかけられている。
自分が何をしたっていうのか……。
物陰から来た道を伺う。
八つの黒い脚、あるところで折れた関節の先に二つの連なる丸みのある胴体へと繋がっている。
狭い通路を大きな図体で圧迫しているが、『アレ』を見知ったもので例えるならば『蜘蛛』であった。
「…………ッ」
こっちに向かってきた。
隠れている方へ向かってくる『蜘蛛』を見て僕は再び走り出した。
そのまま真っ直ぐ通路を進み、石段を見える所まで走り、立ち止まった。
この階段の先には神社の祠があるだけで他に道はない。
後ろから『蜘蛛』が迫ってくるのを感じ、引き返すことができなかった僕は神社へと続く石段を駆け上った。
階段を上っていると上から下へ紡ぎ風が吹き荒れ、とっさに顔を覆った。
桜の香りがふわり、と鼻腔を擽る。
「え……」
紡ぎ風が通り抜けると石段に沿って立ち並ぶ木々の若葉から淡い桃色の花弁に変わり、空は夕暮れの橙色に染まっていた。
ガラリ、と一変した景色に驚いていると懐かしい声で呼ばれ、僕の心臓がドクドクと煩く鳴る。
顔を上げるが怖かった。
階段を上った先に立つ人影を確認するのがとても怖かった。
優しい声音で再び「光」と名前を呼ばれ、たまらず顔を上げる。
「な、なんで……」
なんで、そこにいるの?
「お母さん」