継がされる者
※ルビを【コウヤシャ】に修正しました。
(……どうしようか)
今の状況はそれに尽きる。
母…と似ているその人は言うにはここは『カイコの樹』が作り出した世界。所謂、『アチラ側』だ。
『カイコの樹』は天に届きそうな程の大きな樹で、大きく拡げた枝にはたくさんの白い実がなっている。
一つ一つの実の中には魂が眠っているらしく、光夜叉も実の中にいれられてしまった。
何故だか僕は、その実の中に入れられず、目の前で微笑む母と久々に親子水入らずで話している。
(このままじゃ何も解決にならない)
帰る方法は母から提示されている。
帰りたいと願えばいいのだ。
(僕だけなら帰ることはできるが)
本人が強く願わなければ帰れないだという。
僕だけ帰っても姫川の友人は連れ帰れない上に残った他の人達もあのまま実の中に閉じ込められたままだ。
だが、ずっとここにいるのも得策ではない。
今、魂だけの存在で『アチラ側』の世界にいる状況であり、肉体は現実世界で眠っている。
ずっと帰らなければ死んでしまうのだ。
「僕は依頼人から友人を捜してほしいと頼まれました。依頼人の友人はどこにいますか?」
「『カイコの樹』は逢いたい人がいれば招かれるが、誰を招いたまでは分からないの。ヒカルだけ帰って待つことはできないのかしら?」
「待っている間に依頼人の友人が死んでしまうかもしれないのに?」
魂だけの存在で長居はしない方がいいと言ったのは母である。
母は「そうねぇ」と言いながら、困った顔をしている。
「そう知っているのに帰るのは無責任だと思う。実に入っている人は知っていたのですか? 死んでしまうことを」
「いいえ、知らないわ。でも、強く『帰りたい』と望まないってことは、その人達は幸せな夢をみているってことよ。なら、待つしかないわ」
「帰る身体が無くなっても? 待っている人が悲しんでいても?」
僕の言葉に母はハッとした顔をさせた。
『カイコの樹』は逢いたい人を夢で逢わせているだけだ。
その後のことを考えていない。
選択肢のない夢の中に魂を閉じ込めているに過ぎない。
「余程、私はあなたを待たせてしまったのね。ごめんなさい、ヒカル」
母は目を伏せる。
『蜘蛛』の元に行った母を、あの時は本当に悲しくて、自分はいらない子だと思った。
感情なんて、心なんてモノはいらないと、自分の命を『チカラ』に代えた。
でも、それは………。
「僕は貴女が憎いです。けれど、すべて奪われなかったのは母のおかげだと思います。ありがとうございます」
母は、本当に本当に見たことない。
破顔した表情で僕を見つめている。
「『カイコの樹』から魂を解放させたい」
『カイコの樹』の前に立ち、僕は告げるのだった。
「なら、神代家が宿しているモノと血族について伝えておく必要があるわね」
『カイコの樹』を退治する方向で考えた僕に母は「その前に話して置きたいことがある」と言った。
「ねぇ、いいのか? 僕がしようとしているのは『カイコの樹』の退治だよ。母さん達は反対というか…守ったりしないのか?」
「妖怪やあやかしの類いになるけども元は木よ。獣や人間とは違う思考を有してるの、抵抗する気はないわ。
けど、私、個人としては退治してほしくはないのよね」
「帰ることを望まない人がいるから?」
「『鬼』を息子に戻して喜ぶ親がどこにいるの。母親としてそれが一番、嫌なんです」
鬼?、と首を傾げた僕に母は言い聞かせるように話した。
「今から私が知っている事を伝えます。その上で改めて決めるのは……ヒカル、あなたですよ」
こくりと頷いた僕に母は神妙な顔付きで語った。
神代家に受け継がれてきた『チカラ』と『鬼』……光夜叉が宿った理由を――。
それは、千年以上前に遡る。
いつも楽しみにしてくれる皆さん、
少し投稿が遅くなってすみません。
また、いつも読んでくれてありがとうございます。
暑くなってきましたので、夏バテに気をつけてくださいませ!