ウワサ
「別にいいじゃない! 待っている人がいるのです」
聞き覚えのある声が校門前から聞こえてきた。
「他校の生徒が頻繁に訪れるものではない。家族が心配する、さっさと帰りなさい」
「その人が来たら帰りますわ」
校門前には美少女と教師の織部がいた。
二人で言い争いしている。
チラッと隣を見ると面白そうに僕を見て「どうする?」と目が問いかけている。
関わりたくない。
今、校門を出たら僕たちも巻き込まれるだろうことは目に見えて分かった。
けれど、見逃してくれるわけもなく。
「神代さーん!」と美少女…姫川に見つかってしまった。
織部も僕たちのことを視認すると姫川と一緒にこっちにきた。
「この子とは知り合いか?」
「一応……そうです」
「はぁ…今学校で問題視されている。他校の生徒をここに連れて来ないように。次は生徒指導室に呼ぶことになる」
面倒臭そうに織部は注意すると校舎に戻っていった。
「お前、用もないのに学校に来んな」
「どうしてですか。あなたには関係ないでしょ。あたしは神代さんに会いに来てるんです」
「それが迷惑になってんのや。気付け」
「迷惑…そうなのですか? 神代さん………」
姫川さんは戸惑いがちに僕の方に視線を向けた。
「えっと…しばらくは来ない方がいいんじゃないかな。先生に注意されたし」
「イヤですわ。ここではお友達と会ってはいけないと決まりはありますの? あの人は横暴です」
「やっと巡り逢えましたのに」と姫川は悲しそうに呟くとあらためて僕たちの方に顔をあげた。
「用ならあるわ。解決してほしい事柄が……久瀬 昴さん、あなたは一部では有名ですよね」
「へぇ、知っていたんや。依頼なら別のとこで話を聞きましょか。ヒカルと一緒に」
(あ、巻き込まれた)
これはバイトの手伝いをしろってことだろう。
僕たちは近場の公園に入った。
姫川と帰った際に別れる公園だ。
今日はこのまま別れず、ベンチに座る。
「じゃあ、聞こうか? 冷やかしだったらお断りやで。あ、話だけやったら料金はとらへんから安心してなー」
「はぁ…。あたしだけでは解決できそうにないから仕方ないわ。ねぇ、あなた達はこの町って奇妙だと思ったことはない?」
「奇妙?」
「あなたは余所から来てるから分かると思うけど。都市伝説のような噂や場所が多いってこと。それに人がいなくなっているのに誰も気付かないっておかしいと思いません?」
「誰かいなくなった人でもいるのか?」
「確認しようがないけど……いるわ。だってクラスの人数が減っているんですもの」
誰かは分からないけど、クラスの人数が明らかに減っていると姫川は言った。
あの『獣』の件の依頼者であった彼女は、姫川と同じ中学校だ。 同級生だったかもしれない。
「勘違いしてるんとちゃう? お前しか認識してへんやろ?」
「…かもしれないわね。でも、この町はおかしいとあたしは思うわ。少なからずあなた達もおかしいと思ってるはずよ。そうじゃなきゃ、あたしの話に耳を貸さなかったでしょ?」
「前置きが長くなりましたね。ごめんなさい」と姫川は謝って本題に入った。
「あたしの通う学校では、ある噂が急に流行ったの。二人は『カイコの樹』って聞いたことはないかしら?」
「僕は聞いたことはないな」
「俺も。そんで、『カイコの樹』ちゅうのは何なんだ?」
「『カイコの樹』の前で逢いたい人を思い浮かべると想い人に逢えるそうよ」
「へぇ、けっこうロマンチックな話やねぇ」
「そうね。運命の人に逢えるかもってことで広まってるわ。それで、あたしのクラスメイトで『カイコの樹』の場所が分かったから行ってくるって話した子がいたんだけど……」
姫川からふうと息を吐き、続ける。
「あれから、ずっと学校を休んでいるの」
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