人形と八つの脚
※今回、別視点になります。
ややこ、ややこ。愛おしい子――。
そのモノは子守り唄を聴かせるように寝台に眠る女性を愛でた。
女性はされるがままに相手からの『寵愛』を受け、褥を共にする。
青白い肌、冷たい体温、重く閉じたままの目蓋……。
ピクリとも女性は動かない。
そのモノの傍らで眠る女性は十数年の時を迎えても年を取ることはない。
もう生きていないのだ。
ただただ愛でられつづけるだけの『人形』であった。
大切なお人形。
壊れないよう、ガラス細工に触れる手付きで慈しむ。
けれど。
あぁ―――。
頬に触れた瞬間にピリリ、と小さな皹が入った。
どんなに大切にしたとしてもいずれは脆く壊れてしまう。
哀しみで歪んだ顔で見下ろして。
待っててね……
もうすぐ、もうすぐで、手に入るから――。
そのモノは『人形』へ囁き、音もなくそっと八つの黒い脚で寝台から下りた。
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「ウソつき!」
少年は尻餅をついてこちらを見上げている同級生に向かって言った。
「ぼくはみたんだ。本当にみたんだ」
信じて、と小さく呟く同級生に少年たちは誰も信じない。
信じられなかったのだ。
その同級生の母親が『化け物』に連れていかれてしまったなんて。
「おれのとーちゃんが言ってたぞ。お前のかーちゃんは浮気して出ていったんだって」
「お前は捨てられたんだ!」
「いらない子ー!捨てられっ子ー!!」
無情なことを突き付けた少年の友人は小石を同級生に投げ付けた。
「いッ…………」
少年の友人が投げた小石が同級生の額に当たる。
「ヤバイじゃないか?」
切れた額から真っ赤な血を流れていくのを見て少年たちは焦ってその場から逃げ出した。
「なぁ、アイツが本当のことを言ってるのか調べよーぜ」
走るのを止めた頃、少年たちのなかで誰かがそう提案をしたのだ。
今となっては誰が言い出したのか、もう誰も覚えている者はいないだろう。
そして、少年たちは行方知れずとなった。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。




