胸が痛い
――共存なんて…………。
誰かの胃の中に閉じ込められたかのような暗闇のなかで一筋の光と対面していた。
「コウ……」
槐は闇に囚われていた。
空間を浸食する暗闇が槐の両手と両足を呑込み、辛うじて胴体と頭が出ている。
「いまっ…今、助けます……!」
槐の中心から放たれている光によって浸食を防げているのだろうか。
この暗闇であっても互いの顔を確認することができた。
「いや、いい。ワタシは残るよ」
助けようと手を伸ばした僕を槐は止めた。
「ワタシが残り、浸食を食い止める」
「あなた一人では止められない。一度ここから脱出して他の策を……」
「…結んだんだ、契約を」
「な、何を言ってるんですか?」
「常闇の王と契約を交わした。ワタシがここに残ればこれ以上の浸食はしないと……コウ、お前は帰れるんだよ。だから――」
「嫌だ! 嫌に決まってるでしょ、主様を置いていくなんて。俺はあなたの『剣』だ。主様の傍から離れない」
「コウは優しいな」と呟く槐は嬉しそうで、泣きそうな表情を浮かべた。
「ありがとな。だが、あの子はお前がここに居ることを許さないだろう。ほら」
僕と槐の間を隔てるように空間に亀裂が走る。
「それはワタシの形見だ。さっさと征け!」
「必ず……必ず、あなたを助けにきます!!」
槐から預かっていた剣をぎゅっと抱きしめ、誓った。
亀裂は大きくになり、別れ、悲鳴に似た叫び声をあげながら戻っていた。
「っうぐ……!」
胸が、熱い。
僕の胸には深々と槐なら形見として預かった剣が刺さっていた。
口元を手で押さえる。奥から込み上げてきたものを掌に吐き出せば真っ赤に濡れた。
鋭く伸びた爪の裏側も紅く紅く血で染めた。
「お前の魂が消滅するまでこの『剣』に封じよう」
剣が熱を帯び、僕から『チカラ』を、命を奪っていくのを感じた。
「シ、…ン………」
胸からのびた剣の先に視線を動けば、冷たい表情ではあったが見知った顔があった。
同じ顔だから夢か現実か曖昧にし、やがて視界も霞み意識すらも曖昧になっていく。
「失ったのは俺も同じだ」
最後に聞いたのは、そんな声だった。
胸が痛い。
目覚めた時の最初の感想はそれだった。
次になんでおんぶされているだろうと揺られながら思った。
反応が鈍いのはまだ寝惚けているからだ。
「もう少し寝てていいよ」
呻いたのを聞こえたのだろう。
シン兄ちゃんに声をかけられた。
「いやいい。ごめん、下りるよ」
もうすぐ家に着くと言われたが、やんわりと断りシン兄ちゃんの背中から下ろしてもらった。
「織部先生にどうにかしろと言われた時はびっくりした」
「起こしてくれれば良かったのに」
「気持ち良く寝てたから」
教室で眠ってる僕を織部先生が見付け、まだ部活で学校に残っていたシン兄ちゃんを呼ばれたようだ。
「このまま家に連れ帰ろうかと」
「えっ、と」
「家に居づらいから教室に居たんだろ?」
「あー、ごめん。違うんだ。いつの間にか寝ちゃってて」
身体を乗っ取った光夜叉のせいだけど。
「気…つかわせちゃってごめん、ね。僕は大丈夫だから帰るよ! また今度!」
夢の中でみた表情と重なり、気分が波打つ感覚を覚え、強引にシン兄ちゃんを別れた。
どんな顔をすれば、どんな風にいれば良いのか分からないのは、きっと夢でみた人と似ているから、混乱しているんだ。
少し一人になれば落ち着くはず……。
明日になれば普通に会えるから。
しばらく、胸が痛かった。
いつも読んでくれてありがとうございます!
ちょっとずつ気づいた際には誤字脱字を直していますが、すぐに直せなかったり気づかなかったりしていると思います。
すみませんが、脳内で補填しつつ楽しんでくれたら幸いです。