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光夜叉  作者: ソラネ
第三章
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夜叉の夢 4


 ―― 共存したい。


 槐から紡がれた言葉にひどく動揺しているのを感じた。


『コウ』だけではない。僕もそうだ。

どこかであやかしは退治にするもの、存在してはいけないものとして思っていたからだ。


「退治する側の身で何をほざいているのか思われるだろうが、ワタシは本気だ」

「夢物語だ。あやかしは人間を襲うんですよ」

「ここのあやかしは襲ってこないだろ」

「弱いからです。主様の血を飲めば変貌します」

「お前は? 弱いのか? 私の血と肉を喰えば襲ってくるのか?」


 真っ直ぐと揺らぎのない瞳で見つめられ、否定できそうになかった。


「……絶対に襲いません」

「なら、夢をみても悪くはないだろ………どうやら、ヌシに会えそうだ」


 屋敷の奥から手のひらサイズの蜘蛛が現れたのを確認した槐は立ち上がると草履を脱いで屋敷に上がった。

僕も槐と同じように屋敷へと上がり、二人で蜘蛛の後を付いていった。




 小さな蜘蛛に案内されたのは、白いレースが幾重に垂れ下がった座敷だった。


(あの『蜘蛛』ではないのか)


 その後、代替わりがあったのだろうか。

あの母を拐った『蜘蛛』ではなく僕はホッとした。


 座敷の奥にいたのは十二単(じゅうにひとえ)を着た女性だった。

顔には布のお面をつけており、どんな表情で僕たちを出迎えているのか判らない。


「元気にしていたか?」


 槐は声を掛けるとコクリ、と恥ずかしそうに頷き、長く重たそう袖で顔を隠す素振りをした。


「あれ、どうした? 珍しく隠れて……ああ、ごめんよ。こいつとは初めてだったね」


 隠れながら細い指で僕を指したのを見て槐は察し、小声で「恥ずかしがり屋なんだ」と言った。


「彼はワタシの護衛だ。そして、コウ。ヌシは神に近しいモノだ。いずれ常闇を抜け、天に昇る」

「神様ですか?」

「このままで在れば……そうなるな」


 相手がどういう存在か知り、頭を下げる。

改まって畏まった僕に『ヌシ』はアワアワと戸惑った素振りをし、顔を上げてほしいと手振りで伝えようとしてきた。


「そんなに緊張しなくてもいいってよ。まだ神になったわけではないんだし」

「主様は堂々となされ過ぎです」


 顔を上げつつ、槐に注意してみても気にする様子はなかった。


「なぁ、ヌシよ。こいつは悪いやつではない。鬼になったが、元は人だ。そんなヤツもここで保護する可能性がある。頼めるか?」


 槐は改めてヌシと向き合い、問うた言葉にヌシはコクリと頷いた。


<ええ。ここは居場所がなくなったモノ達の安らぎの場にしたい。

互いに傷を付かないように彼方と此方で隔て、共存の道を探してゆきたい……>


 ヌシの声なのだろう。

澄んだ声に淀みなんてなく、欺くための嘘ではないことが伝わってきた。


「ワタシもだ。だからこそ、人側で活動するためにこいつもここに入れさせてもらった。ワタシに何かあった時、守ってほしい」

<わかりました。愛しき友人の願いなら叶えましょう>

「ありがとう。恩に着る」


 槐が頬笑みかけると恥ずかしそうにヌシは顔をそむけた。

なんだろう。布のお面が少し紅く染まっている気がする………。


「今日は顔を合わせをしたかったから、そろそろお暇するよ」と槐は立ち上がり、僕も後を追う。


<鬼の子よ。あの子を救ってください>


 去り際にヌシは言葉を残した。

振り返れば、石畳み階段であんなに咲き誇っていた桜はすでに散った後だった。


「どうかしたか?」


 先に階段を下りた槐が呼ぶ声に、僕も階段を下りた。



『光夜叉』を読んでいただき、ありがとうございます。


過去や夢の話を折り曲げながら、書いてるので「よく分からない」と思うのが正解です。

よく分からなくて良いのです。そんな物語なのだから。

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