夜叉の夢 3
(狙われているのに、動じない人だなぁ)
槐の護衛として町を一緒に歩けば、僕達の様子を伺う視線が周囲から感じとれた。
(あやかしだけでなく…人間にも……)
槐は気付いていないのか、気付いているが慣れてしまったのか堂々としている。
出店のおじさんと楽し気に喋っているのを見ると普通の人にしか見えない。
(槐の体質は少し僕と似ているかも? 血や肉であやかしを凶暴化させたことはないけど、案外狙われているのは体質のせいだろうし)
実は夢の中で結構時間が経過していたりしている。
経過しているといっても丸々一日を『コウ』として過ごしているわけではなく。
時間や場所がその都度その都度、飛ぶのだ。
小説や舞台など次の展開に進めるための暗転に近い。
例えば、朝だったのに夜になっていたり、
屋敷の中にいたはず、町を歩いていたり……。
場面が飛ぶなかで知ったのは、槐の体と魂を食らえば莫大な『妖力』を得られるとのことだった。
槐の血や肉は生贄として使えると屋敷内の人々が噂しているのを聞いた時はゾッとした。
あやかしに人を食わせようと考える人間がいると思うとあまり槐の境遇は良くないのかもしれない。
「コウ、お前も食うか?」
焼き鳥が目の前に現れる。
出店の前からいつの間にか買い物を済ませた槐が僕の目の前に焼き鳥を一本差し出していた。
「満喫してますね」
「気にしたっていつものことだからな」
焼き鳥を受け取り、警戒心のない槐に言えばサラッとした様子でいつものことだと切り捨てられた。
「どうしますか?」
「放っておけ。いちいち構ってたら陽が暮れるぞ」
「分かりました。ところで尾行を振り切ってどこに向かってますか?」
「お前に見せたいものがあるんだ」
そう言って槐は最後の追っ手を振り切ると神社の階段前に連れてきた。
「秘密だぞ」
槐は僕の腕を引いて階段を一段上る。
長い階段に沿って植えられた木々は青々とした緑からガラリと変わり、淡い桃色の景色になった。
桜が美しく咲くなかでその景色に溶け込むように槐も綺麗だった。
「驚いたか?」
一変した景色に辺りを見回していた僕に槐はフフンと笑った。
「ここはいったい何なのですか?」
「『異界』だよ。常闇の住人たちが住まう処さ。初めて来たか?」
「いえ……でも、こんなに綺麗な所は初めて見た。消してしまうのは勿体なく思います」
「おっと、ここは特別だからな。潰したり、退治したりするなよ」
物騒なものを仕舞えと剣を抜いた僕に言った。
「だが…しかし…」と呟きながら主に逆らえないのか渋々と剣を鞘に収めた。
(ここってあの『蜘蛛』の、常闇の住人がいた所……)
母を連れ去った『蜘蛛』がいた場所だ。
ここは昔の『トコセ町』なのか。
長い階段を上れば、神社の境内のような場所に着いた。
石畳みの通路以外は白い小石が敷き詰められ、屋敷は神様が住まうような綺麗な建物だった。
引き戸がない開けっぱなしの土間の先はお堂のような作りで広い空間があった。
以前の屋敷とは違い、清潔で陰湿な暗さは一切感じなかった。
「ここの住人は臆病なんだ」
土間から室内へと続く段差に腰を掛けた。
あっちこっちから自分達の様子を伺う視線や見え隠れをする影に対し、槐は彼らの心情を代弁した。
「弱い弱い集りさ。外の世界では生きられない」
勇気のある猫のようなあやかしが槐のそばに近寄ってきて、グリグリと頭を腕に押し付けた。
槐はそのあやかしの頭を撫でながら話を続けた。
「他にもこいつと似たあやかしがたくさんいる。ここの常闇の住人とそういったあやかしを集め保護してるんだ」
「危険はないのでしょうか? 一つ一つは弱いあやかしなのかもしれません。でも、束になればどうなるか……」
「お前にもしたように、ここのあやかしにも盟約がある。ヌシが死なぬ限りは人間側に影響はない」
この場所に僕を連れてきた真意を聞かされる。
「わたしはな。あやかしと人間とで共存の道がないか探している」
「共存、……」
真剣な表情で槐はあやかしとの共存したいと僕に打ち明けた。
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