ゆっくりと…
「へぇ~、君がウワサのお姫さまか…!」
校門前に立つ美少女を見てスバルは面白いものを見つけたかのように笑う。
「……なによ、アンタ」
姫川はムッとした表情を浮かべ、キッとスバルを睨んでいる。
警戒心を露にする姫川にスバルは気にする様子はなく簡潔に自分の自己紹介をすると僕に話しかけた。
「これがウワサになっているヒカルのカノジョ? 美少女でホンマ、羨ましいわぁ」
「彼女ではない」
「そうよ! 彼女ではないわ」
スバルの発言に僕と姫川は二人揃って否定した。
「いやいや。ヒカルが出てくんのを健気に待って抱き付くなんてよっぽどアツアツな関係しか見えへんよ?」
まぁ、確かに。
そう噂になってもしかたない。
姫川から初めて会って以来、ほぼ毎日彼女は僕に会いに来ていた。
毎度下校時に校門前で待ち、僕を見付けると駆け寄り一緒に帰ろうと腕に抱き付くのである。
その姿を僕と同じく下校時の生徒が目撃すれば、僕と姫川は付き合っているとそんな噂が立ってしまうのは仕方ない。
僕だって誰かのそんな光景をみれば、事実はどうであれ『付き合ってる』と推察してしまうだろう。
「あら? そうかしら」と小首を傾げる姫川にスバルはそうそうと頷きながら続けて言う。
「男女でこんな引っついていれば勘違いするで? 現に今ホットな話題は熱烈なカノジョに待ち伏せされているヒカルくんで有名になっとる」
(うん。それ、迷惑してる)
その噂のせいで知らない学年のヤツから誂われたことを思い出す。
「まぁ、そうでしたの。気を付けるわ」としゅんと落ち込んだ姫川は僕の腕から離れた。
少し悪いことをしたかなと思いつつ、離れてくれてホッとする。
「あ、そうですわ。今日は家庭科でクッキーを焼いたのよ。よかったら食べてくださいまし」
女の子らしいラッピングをした包みを僕に差し出した。
僕は戸惑いながらも「ありがとう」とお礼を言いつつ受け取れば。
「今日はこの辺で失礼しますわ」
スバルに指摘されたのが効いたのか姫川は僕が包みを受け取るのを確認した後、今日は珍しく帰っていった。
(思わずもらってしまった)
よくよく考えれば校門前で美少女からの贈り物って勘違いを助長させているのではなかろうか?
「可愛らしいラッピングやなぁ。クッソ羨ましいわ」
もらった包みを眺めながら、困ったなぁとぼやいてるとやっぱり付き合ってるだろ、とスバルにからかわれ僕は否定した。
その日の朝は、少しだけ教室内は賑やかだった。
「今日、図書室で人が倒れていたらしいぜ」
一人の生徒が少し興奮気味で話しているのを耳にする。
朝、先生が図書室を開けると他校の生徒が床に倒れていたらしく、さっきまで職員用の駐車場には救急車が停まっていたという。
また、朝練でいち早く学校に来ていた人たちは救急車に乗り込む人々を目撃したらしい。
「微妙に学校周辺が騒がしかったのはそのせいか」
スバルは僕の席に来て呟いた。
ちょうど救急車と入れ違いで学校に登校した僕とスバルは学校周辺にチラホラと集まっていた野次馬の姿を思い出した。
「なんでよその生徒が倒れてたんだろう?」
「さぁ、なんでやろうな~」
わざわざこの学校に来て図書室で何をしていたんだろう。
考えたところで回答なんて出るわけではなく、今日も授業が始まっていくのだった。
新年、明けましておめでとうございます。
今年も書いていきますので、今後ともよろしくお願いいたします!




