人違いですよ
「会いたかったわ!」
下校時。校門を抜けた瞬間、僕は美少女に抱き付かれた。
勢いよく抱き付かれたため、よろけた僕を横にいた東絛先輩…シン兄ちゃんが受け止める。
支えてくれなかったから、この美少女と一緒に地面へと倒れていただろう。
「シン兄ちゃん、ありがとう」
「いや、ヒカルが無事でよかった。それよりこの子は知り合いかい?」
僕は横に首を振った。
突然、抱き付いてくる知り合いに心当たりはない。
「あの、いったん離れてくれようか」
再度、美少女を見てドキリとしたが、知らない顔で安堵する。
見たことがある中学生の制服だったのだ。
先日、助けることができなった依頼者と同じ制服。同じ学校だったのだろう。
彼女と知り合いだったのだろうか。
罪悪感で心臓がドクドクしてくる。
「あら、ごめんなさい。嬉しくって、つい」
ツインテールが揺らめきつつ、僕の傍から離れた。
少しつり目の大な瞳は目元が細められ嬉しそうに見つめているが、見覚えがあるのは制服ばかりで目の前に立つ美少女については思い出せなかった。
「ヒカルは君のこと覚えていないみたいだ」
突然、見知らぬ美少女に抱きつかれ、しかも校門前の下校時だったので他の人にじろじろと見られ、僕はしどろもどろになってしまう。
それを見かけたシン兄ちゃんは僕と美少女の間に入ってくれた。
「そうだよね? ヒカル」とシン兄ちゃんに聞かれ、僕は縦に首を振って肯定する。
「…そう。そうですわね」
少し儚げに地に顔を俯かせた後、美少女はパッと顔をあげ。
「では、お友達になりましょう! それがいいわ!! ね、今からあたし達はお友達よ」
僕の手をぎゅっと握った。
「君の名前は? せっかくヒカルのお友達になるんだ。最初は自己紹介からはじめようか」
「え、え…」と戸惑う僕に代わってシン兄ちゃんは提案した。
「そうですわね。あたし、姫川 水樹っていいますの、今後ともよしなに」
品のある微笑を綻ばせた。
「こちらもよろしく……」と言い終わる前に姫川 水樹と名乗った美少女はぐいっと近付き、耳元で囁いた。
「『槐』なら『月読』と呼んでもかまわないのですよ?」
美少女の口から『槐』という名前を聞き、思わず後退りをしてしまう。
(夢の中で呼ばれている名前を。彼女はどうして知っているんだ?)
美少女の姿が一瞬だけ今朝夢にみたあの目の見えない美少女と面影が重なった。
顔や姿は似ていないが雰囲気がとても似ていた。
目の見えない美少女がお人形さんみたいに儚げで可愛らしい人であるならば、目の前にいる美少女は少し気の強そうな目許をしたお嬢様みたいな人だ。
「きっと人違いですよ、姫川さん」
否定した。自分と『槐』は似ていない。
夢で『槐』という人を見てきたが、自分という芯がない僕にとって『槐』はしっかりと自分という格を持っている人にみえた。
「あら、そうですの? とっても似てますのに」
姫川は不思議そうに僕を見ている。
「まぁ、いいですわ。ヒカルさんと慎一郎さん、これからあたしのお友達ですわ」
姫川は僕の腕に抱き付いた。
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