嫌うならほっといて。
「おはよう。ヒカル」
「シ…東條先輩、どうしてここに?」
朝、玄関を出ると東條先輩がいた。
どうやら、僕が出てくるのを待っていたらしい。
「昨日、学校を早退したって聞いてな」
早退というか学校を抜け出したと言った方が合っている気がするが……。
なんとなくだけど、あの面倒くさがりな担任教師がそう根回ししたのだろうか。
まぁ、早退したと聞いて家に来て待っている東條先輩も面倒なほど心配性だなと思う。
「大丈夫だよ、今日はちゃんと授業を受けるよ」
東條先輩の隣に立ち、少し見上げて言えば「そっか」とポンポンと頭を撫でられた。
「ところで、いつからいたの?」
ずっと玄関前にいたのなら呼び鈴を押せばいいのに、と。
「…つい、さっきだよ」
少し考えた素振りをした後に応えた。
「うん。わかった。次からピンポンしてね。僕しかいないんだから」
「次からそうする」
気兼ねする必要はないよ、と笑うと東條先輩は悲しそうな目をした。
――そんな目で見ないでほしい。
そう伝えられず顔を下に向けた。
僕は自分のことを可哀想だと思っていないし、思いたくもない。
一人でもある程度はやってきたのだ。
弱くはないんだ。
不安に思わなくて良いんだよ、もう――。
「なんでアイツがいるんだよ」
嫌なヤツの声ってどうして聞こえてくるのだろう。
ほとんどのクラスメイトたちが投稿して教室内はザワザワしている。
そのざわめきの中でもアイツらの声は混ざってはくれなかった。
「ムカつくわ」
チラッと視線を向ければ、舌打ちをし自分を睨むクラスメイト。
確か名前は…………。
「伊藤はなんでアイツの目の敵にしてんよ?」
僕を睨むクラスメイト…伊藤にその友人
である田中は聞いた。
本当にそうだよ、憎まれる覚えなんてないよ。
「理由なんかあるかよ」
至極単純な答えだった。
ただただ嫌いなのだと、それだけ。
どうしようもない。
大丈夫。関わらなければいいのだ。
自分から――。
まぁ…そう上手くいかないよね。
「ねぇ、それ僕の、なんだけど」
「ア゛?」
偶然だった。
移動教室で使うプリントを忘れため、教室に戻ってくれば、僕の机の前で伊藤は立っていた。
僕の机の中からノートを取り出したのを見て声をかけたのだ。
「あぁ、コレ?」
「うん…僕のだよね。返して」
「……なぁ、本当にお前のかって言える?」
ノートを投げ捨て続ける。
「こうやって平然と立っているけど、アレも、コレも、全部お前のモノだと証明できるのか?」
机の中に仕舞っていた物や横にかけていた鞄などの私物を床の上に投げつけられていく。
相手の言動に呆然とし、ただ見つめていると伊藤は溜め息をついた。
「いいや。どーせ……」
足元に散らかった僕の私物を踏みつけ、横を通り過ぎる。
「お前…さっさといなくなっちまえよ」
そう吐き捨て、教室から出ていった。
ここまで恨まれる理由って何――?
どうして、そこまで僕を嫌うのだろう。
嫌いなら僕のことなんか……。
<カワイソウニ…カワイソウニ……>
頭の中で憐れみの声が響く――。
何度も、何度も、煩わしく。