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光夜叉  作者: ソラネ
第二章
48/128

後日談とは聞こえはいいが。


「オハヨッ!」


 教室に入って早々、突然抱き付かれ、スバルの腕の中でアタフタしてしまう。


「あはは、なんや元気そうでよかったわ~……あんなことあった後だから心配した」


 後半は小声で耳元で囁かれた。


「まぁ、気が重いけど学校には行こうと思って」

「ムリとかすんなよって言いたいところやけど、今日の帰り時間あるか? バイト代についてあらためて話し合いしたいねん」


 「分かった」と頷くと別グループの輪に入っていく。

大勢の人の中に入れるメンタルと協調性が自分に備わっていたら、違和感なくスムーズに属せるだろうか。


 ムリだな。何せ共通の話題がない。緊張して精神が疲弊する。ムリだね、ムリムリ。



― ― ― ― ― ― ― ―



「何で連行されたか、分かるか?」


 (いや、分からないし)


 今、僕は人の壁に囲まれている。

校舎の一角に連れてかれた僕は壁を背に目の前の人達と対峙していた。


「黙ってないでなんか言えよ」


 この目の前で凄んでいるのは、前々からちょっかいをかけてくる田中というクラスメイトだ。

今回は僕に係りの仕事を押し付けてきたため、クラス分のノートを突っ返したところ放課後、人気のない場所に連れていかれていた。


 『蜘蛛』の一件から伊藤が居なくなってから彼の穴を埋めるように田中が率先して僕に絡んでくるようになった。

伊藤がやったことが田中やその親しい人にしたことになっていた。


(もしかして、アチラ側に関わったせいで記憶から消されたり、辻褄合わせに改竄されたりいる感じする)


「オイ! 聞いてんのか!?」


 別のところに思考を飛びかけた自分は目の前の現実に引き戻された。

 

「そこ…退いてくれないか?」


 ダメ元で退くようにお願いしてみるが、鼻で笑われる。


「はぁ~…お前、最近チョーシのってるよな?」

「ただでさえ、空気が読めない役立たずのクセに反抗しやがって」


 肩をど突かれ、よろける。

痛いなぁと眉を寄せ、不機嫌な表情を見せた態度が彼らにとって生意気に映ったのだろう。


「何か文句あんか? 親無しが」


 襟首を捕まれ、背後の壁に押し付けられた。

息苦しいなかジッと睨みつけた僕を田中は気に入らなかったのか今にも殴りかかってきそうだ。



「何をやってるんだ?」


 声を掛けられ、田中達は咄嗟に僕から距離をおく。


「いや、先生。とくに何もしてませんよ~」


 僕達の担任である織部先生は田中の言い訳に気だるそうに「そうか」と応えるとさっさと帰るように促した。

田中達が離れていくのを確認した織部先生は僕に顔を向けた。


「君もぼんやりとしていないで、帰りなさい。君の場合は特に」


 そう言うと白い白衣を翻し、去っていった。というより、理科室に戻っていたのかもしれない。

日々、何やらあやしい実験をいつもしていると学校で噂になっている教師だ。


(さっさと教室に戻ろ)


 スバルが待っているだろうし、ここにいる必要はないからな、と僕もこの場から離れた。



 教室に戻ればスバルは帰らずに待っていてくれていた。


「よ! どこに行ってたん?」

「いや、ちょっとね。掃除で遅れただけ」


 田中達に連れていかれたと言うのは少しばかりであるが、残っている矜持で言うのを止めた。


「そうか。そうか。では、この前のバイト代について決めるついでに後日談といいましょうか。あの後、分かったことを伝えようか」


 他人の席に座ることに抵抗があったが、進められるままにスバルの向かい側に座った。


「ま、後日談っていっても分かったとこだけだけどさ。

今回の依頼者であり、被害者は存在していないことになっとる。ほぼみんなの記憶から抹消されとっててん。だから、失踪事件として報道されないし、警察も何もしていない」


 やっぱりかという気持ちがあり、さほど驚きはしなかった。

昨日からニュースを見ていたが、依頼者の兄と同様に忘れてしまっているのだろう。


「あと今回の依頼は妹さんの方ではなく、あの兄さんからになってて、すでに依頼料を受け取り済みだ」

「記憶が書き換えられているってことか?」

「かもしれへんね。たまにこういうことがあんねん。でも、こんな大規模なのはなかなかやね。このトコセ町が特殊なのかもな」

「転校前ではどうだったの?」

「そうそうこんな厄介な案件なんてないからなぁ。あんま比較できひんが、記憶の抹消や改竄はなかなか起こらないで。みんな大なり小なり覚えとる」


 覚えとるからこの業界に突っ込んだまま抜け出せなくなる人もいる、とスバルは話した。


「だとしたら、僕はこれが二回目になる」

 

 僕はスバルに話した。

あの『蜘蛛』のあやかしによって消えた人を。

お母さんが居なくなったことも含めて話した。

静かに僕の話を聞いた後、スバルは「そうか」と呟いた。


「僕の中には『アチラ側』……あやかしを退治できる『チカラ』があることは知っているよね」

「偶然、見てもうたしな」

「その『チカラ』はどうやら『命』で賄っているらしいんだ」

「はッ!? い、命?」


 驚くスバルに僕はこくりと頷いた。


 


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

続きに向けて書いてますので、またよろしくお願いいたします。

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