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光夜叉  作者: ソラネ
第二章
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とある祠の言い伝え


 もう、何もしたくない。


 帰宅後、電気を付けず制服を着たままリビングのソファにダイブした。

仄かに月の光が射し込む窓を見つめ、今日の事を振り返る。


 結局、僕は無力だった。


せっかく『チカラ』を手にしても何もできない。


『チカラ』を使えば、僕の命は削られる――それがなんだというのだ。


ただ無意味で無価値に生きているだけなら、僕の寿命が減ろうがどうでもいいじゃないか。

なぜ、躊躇したんだ。死ぬのが怖いのか。

人間の生存本能がそう思わせてるのか。もう生きたくないのに、生きていたって仕方ないのに。


ぐちゃぐちゃだ。

脳内で煩わしく響く自分自身の声に深く息を吐き出した。


 疲れてしまった。今は考えたくない。何も……。


 僕は思考を手放すように眠りに落ちた。



― ― ― ― ― ― ― ―



「うぅ……頭が痛い」


 次の日、僕は風邪をひき、寝込んでいた。

着替えもせず、肌寒いなかソファの上で寝たせいである。


「ヒカル、今起きてるか?」


 ノックの後、僕の部屋に入ってきたのは東條先輩、もといシン兄ちゃんだ。


「おかゆを作ってきたんだが。今、食べれそうか?」

「ありがとう。あとで食べれるよ」


 今はお腹が空いてないため、テーブルの上に置いてもらった。


「ごめんね。僕なんかのために学校をお休みして。今からでも行ってもいいからね」


 風邪くらい一人でいてもどうってことない。

僕に対して時間を使わせてしまっていることが気掛かりだ。


「いや、いいよ。一日くらい休んだだって成績に響かないから。それより」


 ベッドに腰掛けながらシン兄ちゃんは続けて言う。


「昨日は学校を抜け出したようだけど、どうしてかな?」


 ニコッと微笑んでいるが、これは笑っていない。優しい微笑に騙されてはいけない。


「えっと…具合が悪かったから」


 現に今日、学校を休んでいるから嘘ではない。

視線を逸らしながら話しているから説得力はないかもだけど。


「友達と一緒に学校を出てったようだったけど、付き添いだったのかな?」

「うん。スバルと一緒に帰ってきた」

「……そうなんだ。ところで、どこに?」

「え?」

「昨日、帰りに寄ったんだ」


 ……家にいないのを確認されたかー。

下校時に寄ったのであれば、確かにその時間帯に僕は家にいなかった。


「ずっと寝てて気が……あ~、ごめんなさい」


 誤魔化そうとしたが、疑い混じりの目でじっと見つめれ、心情的に誤魔化すのは苦しくなった僕は気付けば謝っていた。


「昨日は学校を抜け出しました。サボりました!」

「正直でよろしい。どこに行ったのかは聞かないでおくが、体調を崩してまでの無茶な行動は控えるように」

「はぁい、すみません」


 今回は、追求されず拍子抜けした反面、ホッと胸を撫で下ろした。

心霊スポットに足を踏み入れ、あやかし退治をしてきました、なんて言えない。

小言や過保護が増してしまう。



「あのさ、シン兄ちゃん」

「なんだ?」

「むかし…子供の頃なんだけどさぁ。家族みんなで川辺にバーベキューへ行ったことある?」


 ふと気になって聞いてみた。

夢の中での出来事であるのか、本当にあったことなのか何気ない質問だった。

手で顎を押え、考える素振りをしたシン兄ちゃんを少しドキドキしながら眺めた。


「そこでシン兄ちゃんと僕で退屈だったから洞窟を探検して……そして、溺れなかった?」

「あぁ……あれか? そうだな。バーベキューしに行ったことはあるが……。よく覚えていたなぁ」

「いや、その時の夢をみてね。そんなには……それで、その後はどうなったんだ?」

「こっぴどく叱られたさ」


 頭からつま先までずぶ濡れになって家族のもとに戻ったから叱られた、とシン兄ちゃんは笑った。


「帰ってから熱がでた。今のヒカルみたいに」

「なんかごめん」


 今の僕が謝っても過去は変わらないし、意味がないだろうけど。

夢の中でももう少し引き止めていれば良かったと思った。



(あれは夢ではないってことなのかなぁ?)


 あの夢をみる際、『キサマ ノ ツミ ハ ナンダ ?』という声。

僕の罪ってどういうことだろう?と少し冷めたお粥を啜りながら考える。


 シン兄ちゃんを溺れさせたこと?

……今、シン兄ちゃんピンピンしてるし、僕の世話が趣味化してるからその事で恨んではいなさそう。


じゃあ、祠が壊されたこと?

誰が壊した? あの声は『お前がやったんだ』と言っていた。それじゃあ、僕が?

でも、あそこは初めて行った場所だったし、何十年も…いや、もっとずっと前に壊されたようにも見えた。



「何の祠だったのかな?」


 小説を読んでいたシン兄ちゃんは僕の呟きに反応をし、本から顔をあげる。


「いや、滝の裏にあった祠って何の神様が祀っていたのかなぁって思って」

「あぁ…確か……『鬼』だよ」


 『鬼』にまつわる伝承があるらしい。

「詳しく調べた訳ではないが」と前置きしたシン兄ちゃんは教えてくれた。


 あのキャンプ場がある山の周辺には昔、複数の村があった。

ある日、一つの村を山賊に襲ったが、村近くを根城にしていた『鬼』が一夜にして山賊を皆殺した――。


「その鬼が封じられていたのがあの祠だった」

「へぇ。じゃあ、祠を壊したヤツは罰当たりだね」

「さぁ~、どうだろう」


 どういうこと?、と首を傾げる。


「祠に祀られているのはすべて良い神様だけではない。災いを呼び寄せないよう神を鎮めるために祀る場合だってある。

あの『鬼』は何か悪さをして祠に封じられていたんだ。封印が解かれ自由にしてくれた人間を祟ると思うか?」


 シン兄ちゃんの言葉に「確かに」と思う。

むしろ、僕だったら自由にしてくれた人にお礼をするかも。

でも、『お前がやったんだ』という意味は何なんだろうか?

また、『お前』とは誰を指しての言葉だったのだろうか?


 結局、夢の意味も分からないまま僕は再び瞼を閉じた。

 



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

もうすこしで第二章は終わりそうです。

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