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光夜叉  作者: ソラネ
第二章
46/128

存在しない家族

※今月は3回目の更新になります。


 押し寄せてきた水に呑み込まれる。


(シン…兄ちゃん…………)


 急な流れの中で視界に溺れているシン兄ちゃんを見えた。

気を失っているのか目を閉じたシン兄ちゃんは流れに身を任せ、僕からどんどん離れていってしまう。


(こっちに気付いて、手を伸ばして)


 このままでは死んでしまう。二人とも溺れて死んでしまう。助けないと。

沈んでいくシン兄ちゃんの元へと泳ぐが息が続かない。


夢であるはずなのに、溺れている感覚は現実的で僕は意識を手放しそうになった時ただった。


――神代 光!聞こえるか?


 声が聞こえた時、嘘のようにフッと息が楽になった。


(この声は…スバル!?)


どうして、スバルの声が聞こえるんだ?と不思議に思っていると。


――あのあやかしから放出された穢れ精神世界に閉じ込められている。浄化してやっとヒカルの精神と繋がっててん。


 俺が今、引っ張りあげるからな、とスバルは言った。


(ちょっと、待って。シン兄ちゃんを助けないと……!)


――シン……? バカか、お前! このままずっと居たんかッ?! 帰れなくなるぞ!


声を荒らげ、スバルは話した。


――上に光が見えるか?そこに向かうんだ。


 今、目の前のことは現実ではない。自分の精神世界に閉じ込めるための罠だと諭される。

頭上には水の中に射し込む淡く優しい光があった。


(上に行けば帰れる…………)


 スバルの言葉にシン兄ちゃんに伸ばしていた手を引こうとした。


(でも、シン兄ちゃんは?)


 このまま水底に沈んでいく姿を見た時、僕は焦燥感に似た感情に苛われ、身体は勝手にシン兄ちゃんの方に向かっていた。


――待て、そっちへ行くな! ヒカル。おい、ヒカル!


 スバルの声が遠くで聞こえるが、僕は真っ直ぐとシン兄ちゃんのもとに泳いだ。



 水底へと沈み続けているシン兄ちゃんの腕を掴み、陸へと引っ張っていく。


(重い……)


 水を吸った服、意識のない人間とはこんなにも重いのか。

何かに引っ掛かっているみたいに上にいこうとすればするほど進んでいるのか分からなくなっていく。

むしろ、シン兄ちゃんと一緒に沈み続けている気がした。


 「がはッ……!」


 コボコボと口から空気の泡が漏れる。


(…もう、息が…………)


 視界がぼやける。

ゆっくりと気泡が上っていくのを見ながら、意識が遠退いていく。


(ごめん、シン兄ちゃん……また、助けられなかったよ……)


 諦めかけた時だった。

下から勢いよく身体を押し上げられた。

そのまま水面に顔を出し、咳き込みながら後ろを振り返った。


 そこには、水面に足を付けたシン兄ちゃんと青い龍がいた。



 空のように青く澄んだ鱗をもった大きな龍はシン兄ちゃんの周りを囲い、宙を浮いている。


<夢の一片としては、久しいな>


 僕を真っ直ぐと見つめた青い龍は、懐かしさを滲ませた声音で言った。


<例え、あの『鬼』のおかげであっても本当に……だが、夢はいずれ覚めなくてはならない。アチラには待っているのはいるだろう>


 さぁ、元のいた場所へ帰るように、と青い龍は帰り道を指し示した。


「待ってください。シン兄ちゃんは無事なんですか?」


<お前は優しい子だな。今も昔も私は彼の中にいる。繋いでおくから大丈夫だよ>


 優しい眼差しで僕を見つめる瞳は、成長した今のシン兄ちゃんと似ていた。


「ありがとうございます、シン兄ちゃんを助けてくれて」


 お礼を述べ、お辞儀をした。

青い龍がいなかったら僕はシン兄ちゃんを死なせていた。助けられなかっただろう。



<忘れないでおくれ。私は君の味方だから>



 青い龍に見送られるなか僕は光に包まれた。



― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―



「おい、しっかりしろ!」


 目を開けた先にはスバルがいた。


「スバル? なんでここに?」


 カラカラになった喉で聞けば、事のあらましを教えてもらった。

どうやら、僕はあの獣顔に仕掛けられた罠によって襲われ、意識を失っていたらしい。だから、夢をみていたのか。


「何度、呼び掛けても返事が来ないから心配したわぁ。ま、無事に目を覚ましてくれてよかった、よかった」


 スバルはホッと胸を撫で下ろし、安堵した表情で微笑んだ。




 どのくらい眠っていたのか、外は真っ暗だった。

道中で気がついてくれて助かったが、夜道で足元が不安定のなかで気を失った依頼者の兄を二人で連れて帰るのは大変だっただろう。


「助けてくれてありがとうございました」


 依頼者の兄は、僕達に頭を下げた。

獣顔に罠として利用されていたようだったが、それだけで特におかしなとこらは見られなかった。

依頼者の兄と別れた後、スバルに「彼は大丈夫なのか?」と聞いてみたら。


「試した時、何も反応せんかったから平気やろ」


 僕や依頼者の兄が気を失っている間にお札を貼って確認済みだった。

あやかしが依頼者の兄として成り代わっていないことが分かり、その点ではホッとした。


「あのあなたの妹については……その………」


 依頼者を助けられなかったこと、すでにあやかしが成り済ましていたこと、なんと言葉にすればいいか上手く伝えられずにいると依頼者の兄は言った。


「妹…?」

「…妹さんを捜しに元動物病院に行きませんでしたか?」


 眉を寄せた依頼者の兄にスバルは愛想の良い顔で再度聞き直した。


「俺に妹はいませんが……?」


 一瞬、黙ってしまった俺達に不可解な目で見つめた依頼者の兄に気付いたスバルは、あははと乾いた笑い声を出す。


「いや、こっちの勘違いやったみたいです。あんな場所で気絶していたんで、帰ってからも体調が悪い時は病院に行った方がいいですよ」


 その後、依頼者の兄と別れた。




「どういうこと?」


 別れた後、依頼者の兄の姿が見えなくなったところで隣を歩いているスバルに聞いた。


「妹を捜していたはずじゃ……」


 なぜ、依頼者の兄は妹を『いない』と言ったのか、疑問を口にした僕にスバルは首を横に振った。


「さぁな。俺にも分からへん。

妹を忘れてしまったのか、妹自体、存在してへんから化かされた部分だけ抜けたのか……」

「でも、依頼者が人間ではなかったのに僕達…二人は覚えている。あの人だけ忘れているなんて………」

「覚えてるのは自分達ぐらいだけかもな」

「自分達だけ?」

「ああ。おそらくあのお兄さん以外にも家族や友人、周辺の人々…みんな妹さんのこと忘れているじゃないか」


 今後、行方不明者としてテレビや新聞など報道されない場合、みんな彼女のことを忘れている可能性があるという。


 僕達が出会った依頼者は、すでに『あやかし』が成り代わっていた後だった。

だが、『あやかし』が成り代わる前の依頼者は本物で。家族や友人達と一緒に過ごした時間はあったはずだ。


その記憶すらも、彼女の存在自体も、無かったことにされてしまったなんて……。


「……あんまりだ」


 僕は、彼女を知らない。

知らないがきっと彼女には大切な家族や友人がいて、周りの人達からも必要とされていたんだ。自分なんかよりも……。


「救われないじゃないか。存在しなかったことになっただけで。結局、彼女は助けられなった」


 僕に依頼者が助けを求めた時の顔を思い出す。

アレは『あやかし』であったが、彼女の怯えてた表情を模したのであれば、あの獣顔に怒りを覚えてくる。


「そうやな……。俺達が居ても居なくても何も変わらなかったかもな。

でもな、あのお兄さんを助けられたんだぜ。それだけじゃない。他の被害者を無くすことができたんだ」


 「確かに依頼者は助けられなかった」と前置きした上でスバルは言った。


「これ以上、自分を責めんな」


 俺達は神様ではないのだから……。

そう呟いたスバルは、少し固い笑みを浮かべた。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


前回投稿した際、ブックマークの登録が増えて驚きと同時にモチベーションが上がり、今月は珍しく3回目の更新しちゃいました。

しかも、日間ランキングに一時期100位以内に入っていたようで、本当に嬉しかったです。


本当にありがとうございます!!

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