赤い目の鬼 2
※途中から視点が『神代 光』に戻ります。
久瀬の見つめる先には『鬼』が立っていた。
神代とよく似た顔をしているが、額に生えた二つの角や口元から覗く牙から人間ではなく『あやかし』、『物の怪』の類いに相応しかった。
(アレは人間をバケモノに変えっちまうのか)
『穢れ』のせいで人間が『あやかし』に姿を変えるなんて聞いたことがない!、と久瀬は冷や汗を流した。
(あの『闇』は、『穢れ』とは違う性質だったのか?
…………いや、今はそれどころではない)
『鬼』はぎょろぎょろと赤い眼を動かし、再び視線を久瀬がいる方へ定めた。
華奢な身体のどこから発しているのかと思えるほどの大きな叫び声をあげ、久瀬へ突進した。
「しっかりするんや」
殴り掛かってきた拳を両腕で受け止める。ジーンと両腕に鈍い痛みが走った。
「ヒカル、目を覚ますんや」
唸り声を発し『鬼』の姿をしている神代に呼掛けるが、正体を失っている彼には久瀬の呼掛けは届かない。
(ほっそい腕のどこにそんな力が……)
見た目に反して力強い拳の感触に面食らっていると脇腹に蹴りを入れられ、倒されてしまう。
「喧嘩とか…得意じゃねぇんだよ、こっちとら」
蹴れた脇腹を押さえながら、久瀬は立ち上がる。
『鬼』は立ち上がった久瀬に殴り掛かろうとするが、素手で拳を受け止めた。
「いい加減、目を覚ませ!」
拳を受け止めた掌にはお札が貼られてあり、閃光が走る。ビリビリと電流が『鬼』の身体に駆け巡った。
「アア……」
『鬼』は小さな呻き声を上げ、久瀬の方に力なく倒れ込んだ。
久瀬は『鬼』の身体を受け止め、どうしたものか…と考える。
『鬼』と化しても身体は神代だ。
手加減したからといって攻撃を受けた身体にはダメージが残っているだろう。
また、『穢れ』のせいでどのくらい魂が傷ついたのか……。
久瀬には判断することができないが、まずは『浄化』をすることが先決だと神代を横にさせる。
「え?」
仰向けにした際、あらためて見た神代の額から生えた二つの角は小さくなってた。
(こいつは…いったい……)
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
小さな『鬼』は泣き叫びながら、燃え盛る炎の中を彷徨っている。
村を焼かれ、親や兄弟を焼かれ、哀しみにくれながら村を襲った族を皆殺しにした『鬼』はあてもなく虚ろな目で家族のもとへと帰っていく。
夜が明け白み始めた頃には焼けた残った家と家族の骸と死にぞこなった『鬼』がひとり。
かわいそうに。
『鬼』の業は深く同じ場所にゆけぬのだ。
――キサマ ノ ツミ ハ ナンダ ?――
脳内に響く声。
荒々しいノイズが走り、孤独な『鬼』の物語から場面が移り変わっていく。
「ヒカル?」
僕を呼ぶ声に視線を上げれば、目の前には五、六歳ほどの男の子が立っていた。
「どこか痛いの?」
目尻を下げ、心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。
目線が同じのため、ぼんやりと立つ自分が男の子の瞳の中にいた。
幼いが顔やその仕草に見覚えがあった。
でも、どうして目の前にいるのか分からず、応えられずにいると。
「熱はないみたいだね」
こつんと僕の額に男の子の額が当たった。
「だけど、少し陽の当たらない場所で休もうか……あれ、どこに行くの? ヒカル!」
僕は近くに流れる小川に顔を覗く。
水面には子供の頃の自分が映っていた。
ますます状況を呑み込めない。
「意味が分からない」
キョロキョロと首を動かし、あらためて周囲を見回せば、見覚えのない川原の風景が広がっていた。
「やっぱりどこか痛いの?」
「ヒカル」と呼ばれて隣を見れば、さっきよりも心配そうな顔をした男の子がいた。
「シン…兄ちゃん……?」
過保護なほど心配をするその男の子の名前を口にする。
疑問系で確めるように呼びかけた僕に男の子は不思議そうに「うん? なぁに?」と返事をした。




