赤い目の鬼
※途中で視点が『久瀬 昴』に変わります。
く、苦しい…………。
視界なんて最初から存在していなかったような濃い闇の中。
深い水底で溺れた時の感覚を思い出していた。
それはいつだったのか、本当にあった出来事だったのか定かではなかったが、息の出来ない苦しさや意識が途切れそうな感覚は体が覚えていた。
誰か……。シン兄ちゃ、ん…助けて……!
無意識にここにはいない人の姿を捜し、闇の中で腕を伸ばしていた。
だが、どうして、子供の頃のシン兄ちゃんを思い出したのかはその時は必死であったため疑問に思わなかった。
あぁ……もう、ダメだ…………。
苦しみは僕の意識を絡めとり、己の闇の中に沈ませた。
― ― ― ― ― ― ― ―
久瀬 昴は、神代 光や依頼者の兄がいる場所を見て苦虫を噛む。
「あの獣顔やろう……!」
しくじった。他から攻撃されないように張った結界が仇になってしまったと。
今、光や依頼者の兄を囲んだ結界の中では濃い闇が充満し、結界内の様子が見えなくなっていた。
久瀬は急ぎ、結界を解く。
闇は久瀬にも容赦なく襲い、皮膚が妬ける痛みが走る。
「ッ……」
痛がっている場合ではない。
この闇は『瘴気』だ。ありとあらゆる者共の『穢れ』だ。
そんな中に長時間、曝されれば身体にどんな影響を及ぼすか……。
(一刻も早くヒカル達を救出せな……)
久瀬は痛みに耐えながら『穢れ』を『浄化』していく。
この時ばかりは家族とは異質の『力』を宿していてよかったと久瀬は思った。
こんなに濃い『穢れ』では本家よりも力を劣る久瀬家には払っても払っても魔を祓うことはできなかったであろう。
(こればかりは家族と似なくて良かった)
『浄化』で闇が消えていく。
神代と依頼者の兄の姿が露になる。
苦痛な表情を浮かべ、気を失っている二人に自然と注がれる『浄化』の力を強めた。
その最中『闇』は最後の抵抗をするかのように標的となった神代の身体を中心に纏い始め――。
「いっッ…!」
一際、激しい痛みに腕を引っ込めた一瞬の隙に『闇』は神代の身体を覆ったまま宙へと拐っていき、真っ黒な球体の中に閉じ込めた。
そして、球体の中から内側を叩く白い手が『闇』の中から覗いた瞬間、バリンとガラスを割る音が室内に木霊した。
身体が反射的に音をした場所から離れ、神代を呑み込んだ『闇』を見つめる。
そこには『闇』は消え失せ、地面に降り立つ神代の姿があった。
「無事か…ヒ、カル……?」
異変に気付き、語尾が裏返りつつも神代の名を呼んだ。
彼は顔を俯かせたまま立っていた。
反応がない神代に再び久瀬は「ヒカル」と名前を呼ぶ。
彼はゆっくりと顔を上げる。
神代の額には二つの角が伸びており、久瀬を見つめる瞳は血のように紅く、真っ赤な宝石のようだった。
思わず、ごくりと唾を呑み込む。
目の前にいるのは神代ではなかった。
それは、『鬼』だった――――。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
もう少しで第二章が終わりそうですね。
第一章からどのくらいの人が読んでくれているのか(この作品にファンがいるのか)分かりませんが。
スタートをしたらならゴールまで駆け抜けたいと思います。
小説を書く練習を、このなろうでさせてください!!