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光夜叉  作者: ソラネ
第二章
41/128


 人を恐がらせ、愉しんでいる。


(ここから、目の前のコイツから離れなきゃ)


 近付いてくる獣顔の後ろには依頼者の兄が倒れているのを目に入る。


(また…自分は見捨てるのか?)


見捨てるも何も依頼者は『あやかし』だった。

だから、依頼者の兄も『あやかし』である可能性だって考えられる。

だが、獣顔は次の獲物を誘き寄せるために僕か、依頼者の兄を利用しようとしていた。

だとしたら、彼は人間である可能性が高い。


(光夜叉で斬れば……)


 何とか助かるかもしれない。

でも、あの黒い靄に飲み込まれたら、穢れに障ったら光夜叉は『魂』を喰らいに襲ってくるだろう。


躊躇している余裕も無さそうだ。

下っていく先には黒い靄があり、前には獣顔が迫ってきていた。


『チカラ』は命を削る――。


光夜叉の云った言葉を思い出す。

抵抗しなければ殺されてしまう、この状況を変えるためには、命を削る方を、僕は選択した。

光夜叉を呼ぼうとぎゅっと目を閉じた時。


「うりゃああああぁあ!?」


 黒い靄をぶち破ってスバルが待合い室の中へ倒れ込んできた。


「ぬ、抜けれた………」

「スバル?」

「無事だったかー、よかったわぁ」


 いってて、と地面に倒れた身体を起しつつ、スバルは僕の方を見て言った。


「スバルの方は……結構、大変だったみたいだね」

「ちょっと妨害にあってなー。噛まれて痛いねん」


 身体のあっちこっちに切れていて傷口から血が滲んでた。ボロボロな状態だ。


「で、そっちにいるバケモンが親玉か?」


 獣顔の方を向き直し、スバルは聞いた。

獣顔は面倒くさそうにスバルに視線を向けた。


「さぁ? どうでしょうね。こっちからすれば、あやかしを狩ることを家業にしている人間の方がバケモノですね」

「アハハ、言えてるわな」と獣顔にお札が付いたクナイを投げ付けた。


「野蛮ですね、仮にもこの体は見知った人でしょう」


 投げれたクナイを避け、獣顔は言った。


「もう依頼者は死んだ。代わりにバケモンの首を持っていかないと報酬がもらえないでね。おいしいご飯のために退治されてくれへん?」

「こっちも商売ですから。多少傷んでも『皮』をもらいますよ」

「お前らバケモンに成り変わるもんなんてねぇよ」


 お札付きのクナイを投げ続けるが獣顔にすべて躱されていた。


「どこを狙っているの?」


 獣顔は小首を傾げ、挑発するかのように依頼者の声を真似て言う。挑発する姿はなんとも腹立たしい。


「捕獲!」


 スバルは叫ぶ。

地面に刺さっていたクナイから金網状の火花が散る。

だが、その火花は消えることなく瞬時に獣顔を捕らえていた。


「獣風情が人間様を舐めるな」


 火花の鎖によって身動きがとれない獣顔にスバルは言い放った。






「大丈夫か? ヒカル」


 地面に座り込んだ僕にスバルは駆け寄ってくれた。


「うん。なんとか……」


 『チカラ』を使わずに済んだため、少しホッとする。


獣顔は何を考えているのか分からない表情で自分に巻き付いてある鎖を見つめている。


「逃げ出したりできないよね?」

「そうそうに解けへんから、大丈夫。ただ、何か仕出かす前にちゃちゃと封印させていただきまっせ」


 スバルは僕に「立てるか?」と手を差し伸べると倒れたままの依頼者の兄を介抱するように言った。


「ヒカル達の周辺に結界を張っておく。封印が完了するまでそこで待っといてくれ」


 お札を僕と依頼者の前に置くとパンパンと手を叩く。すると白く透明なヴェールが僕達を囲んだ。


これが結界なのだろう。

半形状はドームの中、依頼者の兄の様子を確認する。


……よかった。生きている。


僕の呼び掛けに反応をし、小さく唸っている。



「依頼者の他にも捕まえていただろ。どこにいる?」

「あれですべてだよ」


 獣顔は吊るされた死体などをある方を示す。


「数が少ない。他は?」

「さぁ……獣にでも食べられたんじゃなぁい」

「……まぁいい。後は上の奴らにやってもらう」


 スバルはお札付のクナイを取り出し、ブツブツと小さな声で唱え始めた。

そして、クナイを大きく振り被り、獣顔へクナイを振り下ろした。


「あ、そこにいる人間は起こさない方がいいですよ?」


 胸にクナイを打ち込まれているにも関わらず、獣顔は涼しい顔で警告めいたことを言った。


「ぎゃアギャぁははははははハハハハァハッ!!」


 笑い声をあげながら、胸に刺さっていたクナイを中心に渦を巻いて獣顔はその場から消えた。


ぼとりと地面に落ちたクナイだけがその場に残った。


「待て、まだソイツを起こすな!」

「え?」


 スバルは依頼者の兄を起こそうとする僕に向けて言ったが…………遅かった。


依頼者の兄は苦しそうに喉元を押さえ。


「ガバッ……!?」


 大きく開けた口の中から闇を吐き出した。


その闇は結界内で膨れ上がり、依頼者の兄諸とも姿を包み隠す。

僕の身は抗えず、すっぽりと暗い闇の中に誘われてしまった。



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