ウソつき
「ウソじゃない」
「やーい、ウソツキー!」と石を投げつけた子供たちに向かって叫んだ。
「ぼくはみたんだ。本当にみたんだよ」
ねぇ、信じてと彼らを見上げた。
転んでついた手のひらが地面に摩れてヒリヒリと痛むが、それよりもっと痛いのは彼らが僕に向ける眼だった。
――どうして、誰も信じてくれないのだろうか?
僕を見つめてくる眼はいつも嘲笑う好奇心で溢れていた。
その眼は今でも――。
「それなりにうまくやろうとしたのにな」
朝、げた箱を覗けば、上履きが消えていた。
冷たい廊下を歩き、上履きの行方を探すと案外、近い場所に投げ捨てられててホッとする。
便器の中に放り込まれでもしていたら、拾うのが面倒だった。
ため息を吐きながら上履きを履く。
教室に行きたくないなぁ。
朝から憂鬱になり、だんだんと足が重くなっていく。
嫌なことも、忘れていた感情も、無理やり身体の奥から引っ張り出された感覚だ。
ウソ、ね……ウソつきね……。
そうだよ。昔も今も変わらない。
だから、もう放っといてよ。
******
青いなぁー。
ここまで気持ち悪くなったのは久々だとブランコに座り、空を仰ぎ見る。
「あー、何やってるんだろ」
平日の昼近く。
学校を抜け出したのはいいものの、どこかに行く宛もなく、また帰る気にもならず通りかかった公園に立ち寄った。
小さい頃、よく遊んだ公園であったが、公園内に入ったのは本当に久しぶりである。
懐かしいさよりも切ない気持ちになってくから何だか複雑だ。
「……っ」
キィーン…と耳の奥で鳴った耳鳴りに顔を顰めると――。
<ヒト……人ノ子………>
囁く声。
その場に動かず、身構える。
<群レカラハグレタノカ?>
おそらく僕に話しかけているのだろう。
無機質で凹凸のない声音の持ち主を目で探すが見当たらなかった。
<カワイソウ、カワイソウ二……>
<ワタシナラ…ズット、ズット共ニオルゾ。哀レナ子>
投げ掛ける言葉はまるで母親が子を宥めているようだ。
――さぁ、一緒に帰りましょう。
不意にその声が懐かしいものに変わる。
スッと頭の天辺から血の気が引くような感覚になり、記憶の底から忘れたい思い出と感情が顔を覗かせた。
心だけが幼い自分に戻っていく。
お…母さ、ん……。
なんで、どうして、僕を置いて――。
「お兄ちゃん。だいじょうぶ?」
ハッと顔をあげれば、目の前には五、六歳くらい男の子が不思議そうな顔をして僕を見つめていた。
「あ、えっ、いや……」
い、意識がとんでいた?
ブランコの上で眠っていたのか…ところで今、何時だ?
周りを回せば空は橙色で影が東の方へとのびていて、二時間以上はこの公園で居眠りしていたことになる。
戸惑っていると男の子は「良かった」と呟き、僕に向かってにこっと微笑んだ。
「また、連れていかれたとおもったよ」
え…どういう――。
ガクっとバランスを崩れる。
一瞬だけ目の前が真っ暗になり、次に自分の足と地面が視界に飛び込んできた。
今度は目の前にあの男の子は居らず、公園はがらんとしていて誰もいなかった。
何しろ先程は夕焼けで東へ続く長い影法師があったのに、見上げた空は青く足元に丸い影しかない。
夢だったのだろうか?
自然とその考えにいくつく。
また、変な夢をみてはかなわないとブランコから立ち上り、公園の出入り口へと向かう。
でも、どこまでだったのだろうか――。
立ち止まり振り返ってみれば、太陽の光で銀色に光る糸が微かに揺れた気がした。