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光夜叉  作者: ソラネ
第一章
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ウソつき


「ウソじゃない」


「やーい、ウソツキー!」と石を投げつけた子供たちに向かって叫んだ。


「ぼくはみたんだ。本当にみたんだよ」


ねぇ、信じてと彼らを見上げた。

転んでついた手のひらが地面に摩れてヒリヒリと痛むが、それよりもっと痛いのは彼らが僕に向ける眼だった。


――どうして、誰も信じてくれないのだろうか?


僕を見つめてくる眼はいつも嘲笑う好奇心で溢れていた。


その眼は今でも――。




「それなりにうまくやろうとしたのにな」


朝、げた箱を覗けば、上履きが消えていた。

冷たい廊下を歩き、上履きの行方を探すと案外、近い場所に投げ捨てられててホッとする。


便器の中に放り込まれでもしていたら、拾うのが面倒だった。

ため息を吐きながら上履きを履く。


教室に行きたくないなぁ。


朝から憂鬱になり、だんだんと足が重くなっていく。

嫌なことも、忘れていた感情も、無理やり身体の奥から引っ張り出された感覚だ。



ウソ、ね……ウソつきね……。


そうだよ。昔も今も変わらない。

だから、もう放っといてよ。




******



青いなぁー。


ここまで気持ち悪くなったのは久々だとブランコに座り、空を仰ぎ見る。


「あー、何やってるんだろ」


平日の昼近く。

学校を抜け出したのはいいものの、どこかに行く宛もなく、また帰る気にもならず通りかかった公園に立ち寄った。


小さい頃、よく遊んだ公園であったが、公園内に入ったのは本当に久しぶりである。

懐かしいさよりも切ない気持ちになってくから何だか複雑だ。


「……っ」

キィーン…と耳の奥で鳴った耳鳴りに顔を顰めると――。


<ヒト……人ノ子………>


囁く声。

その場に動かず、身構える。


<群レカラハグレタノカ?>


おそらく僕に話しかけているのだろう。

無機質で凹凸のない声音の持ち主を目で探すが見当たらなかった。


<カワイソウ、カワイソウ二……>


<ワタシナラ…ズット、ズット共ニオルゾ。哀レナ子>


投げ掛ける言葉はまるで母親が子を宥めているようだ。


――さぁ、一緒に帰りましょう。


不意にその声が懐かしいものに変わる。

スッと頭の天辺から血の気が引くような感覚になり、記憶の底から忘れたい思い出と感情が顔を覗かせた。


心だけが幼い自分に戻っていく。


お…母さ、ん……。


なんで、どうして、僕を置いて――。



「お兄ちゃん。だいじょうぶ?」


ハッと顔をあげれば、目の前には五、六歳くらい男の子が不思議そうな顔をして僕を見つめていた。


「あ、えっ、いや……」

い、意識がとんでいた?

ブランコの上で眠っていたのか…ところで今、何時だ?


周りを回せば空は橙色で影が東の方へとのびていて、二時間以上はこの公園で居眠りしていたことになる。

戸惑っていると男の子は「良かった」と呟き、僕に向かってにこっと微笑んだ。


「また、連れていかれたとおもったよ」


え…どういう――。


ガクっとバランスを崩れる。

一瞬だけ目の前が真っ暗になり、次に自分の足と地面が視界に飛び込んできた。


今度は目の前にあの男の子は居らず、公園はがらんとしていて誰もいなかった。

何しろ先程は夕焼けで東へ続く長い影法師があったのに、見上げた空は青く足元に丸い影しかない。


夢だったのだろうか?


自然とその考えにいくつく。

また、変な夢をみてはかなわないとブランコから立ち上り、公園の出入り口へと向かう。


でも、どこまでだったのだろうか――。


立ち止まり振り返ってみれば、太陽の光で銀色に光る糸が微かに揺れた気がした。



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